AIカーほど、いま我々に必要なものはないのではないか?
今年も会津大学にパソコン甲子園の審査員として出かけてきた(高校生たちの熱い戦いの結果は公式ページを参照のこと)。その昼休みを利用して会津大学正門前にある株式会社GClueさんを訪ねたのだが、そこにあったのが「AIカー」だ。
社長の佐々木陽さんには、東京でもたまにお会いしていろいろ教えていただく関係で、前日夜もAndroid Thingsの熱いお話を聞いた(IoTはAndroidクラスのハードウェアが必要でそれでこれから業界が変わる可能性あり)。また、模型の自動車の写真をフェイスブックにポストされていたのはだいぶ前から見ていた。
ところが、実物を見てその内容を聞くと「AIカー」がめちゃめちゃ面白そうなのだ。まだきちんと決まった名称もなく、「ドローンカー」(DroneCar)と呼ぶ人もいたり、後述のキットの名前をとって「ドンキーカー」(DonkeyCar)を普通名詞的に言ってしまったりする。ひとことでいうと、AIを使って自動運転して走るラジコンカーである(自律的に走るのでもはやラジコンでもなくなるが)。
「自動運転」というと非常に難しい印象を受けるが、もちろん本物の自動車の自動運転とはだいぶ違うものだ。コースを人間が操作して何度か走らせてやると、それだけで「教え込んだ犬」のように勝手にコースを周回して走るようになる!
佐々木さんのAIカーは、Raspberry Piが搭載されていて、前方カメラ画像とハンドル角度を教師データとして保存する。その教師データをPCに転送して深層学習で学習させることで、自動運転でコースを走れるようになる。Raspberry Piには、グーグルの機械学習ライブラリTensorFlowがインストールされている。
どのくらい学習させるんですか? というと、コースを数周すればその間にかなりの画像データが集るそうだ。「AIでは研究用でも大量のデータが必要となるけどどうやって集めるか?」という話になりがちだが、学習も含めてRCカー感覚の縮尺スケールというわけだ。あとはAIカーに「ホラ、行ってこい!」とコースに放ってやるだけだ。
このAIカー、米国では『WIRED』誌の元編集長で『ロングテール』や『メーカーズ』の著者でもあるクリス・アンダーソン氏が「DIY Robocars」というコミュニティを運営している。日本人の参加が多いそうで、佐々木さんはメロンパークで開かれていたイベントの練習コースを走らせてみたそうだ。
もちろん、これをきっかけにAIのお勉強や研究に発展させていけたら素晴らしい。角川アスキー総研でも、ディープラーニングのハンズオンは開催してきたが、物理的なRCカーがスピード感をもって走るのは、まったく違う体験だといえる。
今後、我々は、生活のあまねくシーンでAIと接することになりそうだ。すでにアマゾンEchoやグーグルHomeを使っている人は、それに恩恵を感じたり軽いストレスを感じたりしていると思う。それでは、そうしたAI搭載デバイスがAIカーのように物理的なエネルギーを持って勝手に動いたりしはじめたらどうなるのか? AIカーには、そうした時代を先取りした実験みたいなところもある。AIを目の前で手の中で感じて考えることに意味がある。
AIのチューニングがすなわちミニ四駆のチューニングにあたり、そのことに心を研ぎ澄ましていくことにも新しい楽しみがありそうだ。
プログラミング不要のAIカー入門ハンズオンやります
ということで、私も、さっそく始めたくて「ドンキーカー」(Donkey Car)を取り寄せてみた。定番のオール・イン・ワンのAIカーキットで、RCカー本体に3Dプリントされたロールバー風のシャーシ、Raspberry Pi、サーボドライバ(RCカーを制御する)、電圧コンバータ、それをのせるプラスチック製のボード、カメラ、ネジなどからなっている(部品をバラバラに買うこともできる)。
ソフトウェアのインストールなどに関しては、DIY Robocarsでも情報交換されているし、Donkey CarのGitHubも参考になる。佐々木さんも含めてQiitaにもDonkey Carに関する情報がいくつもアップロードされている。
私の場合は、自分で組み立てたあとは直接アドバイスを受けながら、なんとかDonkeyCarが走らせることができた。中学生でもできるだろうと思える配線でミスがあったりしたのだが、ソフトウェアに関しては、自分ひとりでやるのは慣れていないとかなり手間であることが分かった。プログラミングするわけではないので別途技術を学んでいる必要はないのだが、情報が足りなかったり操作を知らないと調べながらになる。
DonkeyCarのソフトのバージョンの違いもあり、ステアリング調整などをPythonのコードを直接書き換えてやったりする。そして、ここはむしろそれをやることに価値があるのだが、AIの動作環境も作ってやらないといけない。「AIカーってとっても萌えるのだが、これは、ちょっとしたクエストかもしれない」と思った。
そこで、佐々木さん、そして、やはりAIカーに詳しい山本 直也さんとお話をして、「AIでRCカーを走らせよう! ハンズオン&走行会&見学会」というのをミセナーを開催させてもらうことにした。
詳しくは、以下のカコミをご覧いただきたいのだが、1月26日(土)と1週間後の2月2日(土)に、イチから構築して走らせることを目標にする「ハンズオンコース」と、AIカーに関する最新事情トークと走行会見学の「トーク&見学コース」を用意している。すでに募集も開始しているので、ぜひご覧になっていただきたい。ハンズオンではあるけど、90人収容のセミナールームをコースに変えて集まるミートアップみたいな感じでもあるので、すでにAIカーを走らせている人も参加してくれたら嬉しい。
「AIでRCカーを走らせよう! ハンズオン&走行会&見学会」
開催日:2019年1月26日(土)13:00~18:00(ハンズオン講習会)
(交流&フォローアップ18:00~20:00)
2月2日(土)13:00~18:00(AIカートーク、走行会)
会場:五番町グランドビル 7F / KADOKAWA セミナールーム
東京都千代田区五番町3-1
主催:株式会社角川アスキー総合研究所 (http://www.lab-kadokawa.com/)
講師:佐々木陽氏(株式会社GClue http://www.gclue.com/)
山本直也氏(クイックシャー http://kwiksher.com)
司会&トークセッション:遠藤諭(角川アスキー総合研究所)
プログラム:1月26日(土)Donkey Carの組み立て
ソフトウェアのインストール
動作チェック
2月2日(土)AIカーの最新事情を知るトークセッション
学習・テストラン
ミニレース(進捗による変更になる場合があります)
参加費:ハンズオンコース(1月26日・2月2日とも参加)1万5000円
トーク・走行会コース(2月2日のみ)5000円
材料費:ハンズオンコースに参加の方で、Donkey Carをお持ちでない場合は別途ご用意いただく必要があります。コラムの後のDonkey Carの買い方の説明をご覧ください。
対象者:AIカー/自動運転/人工知能に興味のある方
ハンズオンコースに関しては、プログラミングの知識は不要ですが一定のPC操作のスキルが必要です。また、若干のLinuxのコマンドやソフトのインストールなどを行います。
トーク・走行会コースは、とくに必要なスキルはありません。ご自身のAIカーをすでにお持ちの方は走行会に参加可能ですが、申し込み時にその旨お知らせください。・申し込み:
・ハンズオンコース=>https://lab-kadokawa73.peatix.com/
・トーク走行会コース=>https://lab-kadokawa74.peatix.com/
ハンズオンでは、私も買った「Donkey Carスターターキット」をあらかじめ入手しておいていただく必要がある。Raspberry Piなどありふれた部品とオープンソースのシャーシなので、ご自身で用意いただくこともできる内容である。しかし、オール・イン・ワンで何も考えずにすべて揃う上にわりと良心的な価格設定ではないかと思う。
私の場合は、そのキットをRobocar Storeから購入、香港から1週間ほどで届いた。価格は、価格はHK$ 2,180(約3万1600円)。送料は日数等で異なり、税金もかかるのだが3万5000円程度だった。
講師のGClue佐々木氏より、キットよりも組み立てがラクになるDonkeyboadを参加者の方々に配布できるかもしれないとのこと。ただし、今回は、DonkeyCarのキットを使う前提で準備を進めている。
アマゾンも「DeepRacer」を発売! いよいよ来ましたか!
DonkeyCarとグーグルのTensorFlowの組み合わせが、AIカーの入門・定番となっているが、この原稿を書いている間に、アマゾンウェブサービスが「DeepRacer」というAIカーを発表してきた。ニュースでご覧になった方も多いと思うが、インテルAtomプロセッサを搭載。同社は、去年はこれが発表された同じイベントでカメラ付きのEchoみたいな「DeepLens」をエッジAIの研究・開発向けに発売している。同じようにアマゾンの環境向け、技適の関係で日本で使えないなどあるが、かなり気合も入っていて、これはこれでフォローしていきたいと思っている。
ところで、DonkeyCarのことを調べたり組み立てたりしていると、1980年代の迷路脱出ロボット「マイクロマウス」やその大会を思わせるものがある。人々が「マイコン」を手に入れた1980年代初めの時代と、「AI」を手に入れたい2010年代後半のいまは重なり合っているのだと思う。となると、ハンズオン&走行会の次には競技会(レース)もやってみたくなるというものだ。これも計画中なので、ご興味のある方はお知らせあれ。
遠藤諭(えんどうさとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。月刊アスキー編集長などを経て、2013年より現職。雑誌編集のかたわらミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』など書籍の企画も手掛ける。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。アスキー入社前には80年代を代表するサブカル誌の1つ『東京おとなクラブ』を主宰するなどポップでキッチュな世界にも造詣が深い。著書に、『近代プログラマの夕』(ホーテンス・S・エンドウ名義、アスキー)、『計算機屋かく戦えり』など。今年1月、Kickstarterのプロジェクトで195%を達成して成功させた。
Twitter:@hortense667Mastodon:https://mstdn.jp/@hortense667
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