企業内ベンチャーの新事業が功を奏し
パーソナルコンピューターが誕生
幸いに、というべきかどうかわからないが、新ビジネスのための種は、前任者であるOpel氏の時代に撒かれていた。1982年、Opel氏は新しくIBU(Independent Business Units)と呼ばれる組織を作ることを決めて実行に移す。
今では企業内ベンチャーと呼ばれるもので、要するに予算と権限を与えて新しいビジネスを独自に行なうことを可能にする組織をたくさん作ったわけだ。
当初は、IBMが当時手薄だったテレコミュニケーションや産業オートメーションといった分野向けに新しく製品やサービスを投入するには、従来のIBM本体よりも小回りの利く、こうしたIBUが向いているという目論見だったらしい。
このIBUをうまく利用したのがBill Lowe(William C. Lowe)氏である。Lowe氏はGSD(General Systems Division)という、IBMの「その他」(つまりメインフレーム以外)のシステムに携わる部隊にいた。
画像の出典は、IBM Archives
このSystemという言葉が曲者で、PCと同程度の複雑さを持つ機器、例えばIBM 3270シリーズ(要するに端末)は、それ単体で動くわけでなくメインフレームと組み合わせて使われるので、GSDの管轄ではなかったようである。つまり単体で完結するものがGSDのカバー範囲だったらしい。
さて、1980年にLowe氏は当時はまだ社長だったOpel氏やCEOのCary氏を含むCMC(Corporate Management Committee:全社経営委員会)に対して、パーソナルコンピューターを提案する。
ちなみにこの時Lowe氏は、Atari 800をベースとしたPCを提案したところ、CMCはその代わりに独立したチームを作り、まったく新しい製品をIBM自身で設計・製造することをLowe氏に求めた。
プロトタイプを30日後に提示する、という期限も決められたことでLowe氏はここから奔走することになる。この続きは次回説明するが、結果的にこの新しい部隊はIBUとして構成され、最終的にESD(Entry System Division)というIBMを代表する組織になった。
Lowe氏はこのESDの初代社長兼本社副社長に昇格しており、まさしく「当たった社内ベンチャー」の趣を呈している。
IBUを利用した例はほかにもRS/6000につながるIBM 801 RISC CPUなどがある。こうした社内ベンチャーがIBUという仕組みを使って1980年代を通して育成され、これが1990年代にIBMを救うことことになる。
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