米国一の企業から時代遅れの企業に転落
最大の敵はDEC
この状況に黄信号が点ったのは1985年のこと。総売上は500億ドルに達するが、売上の伸びそのものは8.9%と想定よりも低く、前年には25%ものROE(自己資本利益率)を達成して「(当時有力な競合とみなされていた)日本企業に対抗できる、米国唯一の企業」などともてはやされていた同社は一転、金融アナリストから「時代遅れ」とまで言われるようになる。
この時のIBMの最大の敵はDEC(Digital Equipment Corporation)であった。売上そのもので言えばDECはIBMに追いついたことは一度もないが、それはそもそもDECはIBMよりもずっと規模の小さなミニコンピューター(同社はスーパーミニコンと称していた)を扱っていたからで、結果としてDECはIBMのシェアを着実に奪いつつあった。
そのDECは、RISCの流行に乗り遅れた結果急速に衰退していくという話は連載366回で説明したが、DECが衰退したからといってIBMが再び盛り返したわけではなく、IBMにとってはDECよりもっと強敵が現れたというだけの話でしかなかった。
1985年の売上不振は、まさにDECの売上が大幅に伸びた年であり、この年IBMは全世界におけるコンピューターシステムの売上シェアを36%から23%まで落としている。
確かに、大口ユーザーは引き続きIBMのハイエンドメインフレームを利用してくれるが、これまでIBMのメインフレームを導入してこなかった新規の顧客、あるいは従来とは異なる業務/用途向けなどには、IBMのローエンドやミドルレンジではなくDECを初めとするさまざまなスーパーミニコンメーカーのシステムを入れる、というパターンが増えてきたのがこの時の状況である。
そして悪いことに、そうしたスーパーミニコンではUNIXが標準的なOSとして使われるようになってきており、これに対応したアプリケーションも増えてくると、そもそもUNIXが動かないIBMのメインフレームは市場に入るきっかけもないことになる。
IBMのUNIXであるAIXは1986年に発表されるが、当初はIBM 801プロセッサーを搭載したワークステーションIBM RT PC用で、メインフレーム用のAIX/370がリリースされるのは1988年のことで、やや出遅れた感は否めない。金融アナリストの言う「時代遅れ」の兆しは、確かにあったわけだ。

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