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アクセンチュアがDXを支援、徹底したBPRと店舗タブレットで「口座開設を6分で」実現

「10年間で来店客は40%減」伊予銀行が語る地銀の危機感とデジタル化

2018年11月26日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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「単にデジタル化するだけでは差別化できない」、高付加価値化を目指す

 伊予銀行 CIOの竹内氏は、同行では「10年先も必要とされる銀行」をテーマに、2015年から徹底的なビジネスモデル変革を進めていると説明した。これは10年がかりの大規模な変革の取り組みだという。

 今回展開を開始したAgentも、伊予銀行が現在さまざまな方面から取り組んでいるDXの一部であり、今後の店舗戦略や“アプリバンク化”(後述)につながる「布石」と位置づけられている。同行では、2018年度の中期経営計画において「DHD Bankへの転換」を全行目標に掲げている。

伊予銀行のDXプログラム、全体ロードマップ。今後はゼロベースで見直した新たなサービスの創出を目指す

 アクセンチュアが提唱するDHD Bank(Digital-Human-Digital Bank)は、「顧客タッチポイントの拡大/新規創出」「オペレーションの自動化/生産性向上」を実現するために最新のデジタル技術を活用しつつ、顧客一人ひとりの状況に応じた「コンサルティング」は専門知識とノウハウを持つ人間が行うというもの。いつでもどこでも利用できる便利さを実現しつつ、お金に関する専門的かつパーソナライズされたアドバイスを提供することで、高い付加価値を持ち競合差別化を図れる銀行サービスを提供する狙いがある。

 「デジタル化という地殻変動は、地方にあっても避けることはできない。ただし単にデジタル化するだけでは、(銀行、金融業への)異業種参入もある中で差別化することができない。地方銀行としては、地域での責任とプレゼンスを維持しつつ、生産性を高め、地域密着型ならではのより高い付加価値を提供する必要がある」(アクセンチュア 金融サービス本部 マネジング・ディレクターの粟倉万統氏)

アクセンチュアが提唱する「DHD Bankビジョン」。適材適所でデジタル/人間の能力を組み合わせる

 DHD Bankビジョン実現のためには、既存ビジネスの大幅な効率化によりコスト削減を図るのと同時に、そこで生まれた投資原資(人的リソースを含む)を新たなサービスの開発に充てていくことが必要となる。さらに、変革を迅速に進めるためには、既存資産(レガシーシステムやルールなど)になるべく手を加えず、フロントエンドだけをスピーディに刷新していくアプローチも求められる。それを実現するのがACTS/Chat Co-Robotだという。

 ちなみにアクセンチュアは、デジタル化による業務効率化について、既存業務プロセスをゼロベースで見直す“ZBP(Zero-Base Process)アプローチ”の併用も提唱しており、今回の伊予銀行事例でもそれが「業務量70%削減」という大きな効率化につながっている。業務プロセスを変えることなく一部をRPAで自動化する場合の効率化効果(10~20%)と大きな差が出ると、アクセンチュアの粟倉氏は説明した。

 伊予銀行ではAgentの展開を通じて、まずは現在の店舗のあり方を変えていく方針だ。伊予銀行 総合企画部 課長の石川秀典氏は、店舗における事務作業を大幅に削減することで、従来の「待合室方式」から「人間(顧客)中心の相談の場」へと転換していくと説明した。来店客がタブレットを使って手続きを行いつつ、必要に応じて行員に相談できるような店舗を目指すという。

 なお伊予銀行 常務取締役 CIOの竹内哲夫氏によると、今後Agentの展開を進めていくことで、店舗で事務作業に当たる行員数は「150名程度削減できる」想定だという。リストラ(解雇)ではなく既存事務行員のスキルシフトを図り、新しいモデルの店舗で、一人ひとりが顧客対応や提案のできる行員になれるよう支援していきたいと説明した。

伊予銀行では今後、店舗の位置付けも大きく変えていく方針だ

 さらに伊予銀行のDXロードマップでは、Agentの取り組みを通じて捻出したリソースを、住宅ローンやカードローンといった新サービスの開発に充てていくことも示されている。既存店舗のあり方と同じように、こうした既存サービスの内容やプロセスもデザインシンキングを通じてゼロから見直し、収益向上を目指すという。

 「住宅ローンについて言うと、これまでの銀行は住宅会社に(すでに住宅購入を決めた段階の)顧客を紹介されることで、初めてタッチポイントを持っていた。これを、新しい世界では、顧客が住宅購入を考え始める段階でタッチポイントを持てるようなサービスにしていく。たとえば『お客様ならばこれくらいの金額を借り入れられます』『お客様と似たセグメントのお客様は、こういった場所で、こういったハウスメーカーで家を建てられています』といった具合に、銀行にしかできない価値提供ができると考えている」(アクセンチュア 粟倉氏)

 加えて同行の“アプリバンク化”も推進していく。これは、店舗向けに開発したAgentの機能やUI、さらにその際にAPI化した勘定系システムなどを活用して、渉外営業向けや顧客のモバイルデバイス向けのアプリを横展開していくというもの。さらには保険、旅行など他業界のエコシステムとの連携も考えているという。

 「従来の銀行では店舗が重要なタッチポイントだったが、タブレットが持ち出せるようになれば『銀行=店舗』が『銀行=人(行員)』になる。お客様のそばへ行員がうかがうことで、人口減少の著しい山間部や島嶼部、また(来店のしくにい)高齢者に対しても、地方銀行の使命として、今まで以上に充実した銀行サービスを提供できるものと考えている」(伊予銀行 石川氏)

店舗タブレット向けに開発した機能やUI、勘定系APIなどを、渉外営業向けやモバイルアプリ向けに横展開していく戦略

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