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世界一を目指して卓球「Tリーグ」がスタート 松下チェアマンに訊くビジネスモデル

2018年10月29日 06時00分更新

文● 末岡洋子 編集● ガチ鈴木 /ASCII編集部

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 2018年10月24日、日本で卓球の新リーグが始まった。卓球王国の中国を睨みながら、目指すは「世界一の卓球リーグ」、一般社団法人Tリーグのチェアマンを務める松下浩二氏は、卓球選手としての素晴らしい実績、プロ選手としても活躍した経歴を生かし、ビジネス価値を高めるリーグ展開を狙う。

Tリーグ チェアマン 松下浩二氏

――卓球の新リーグを日本で立ち上げるに至った経緯について教えてください。

 2008年の北京オリンピックで、卓球はメダルのチャンスがあると期待されていました。女子は福原愛選手などが揃っていましたが、韓国と争って破れて結果は4位。メダル獲得ならず、でした。男子も、水谷隼選手が調子を上げて準決勝まで進みましたが、ドイツと大接戦の末に破れました。悔しい思いをした大会でした。

 その後、当時の日本卓球協会の会長である大林氏(大林組取締役会長の大林剛郎氏)が理事会の席で、今後日本の卓球が世界選手権やオリンピックで継続的にメダルを取るにはプロ的なリーグが必要なのでは、とおっしゃいました。この言葉を受け、プロジェクトチームが立ち上がりました。2010年3月のことです。プロジェクトチームには、私の他にも実業団リーグの専務理事、元世界選手権で金メダルを取った選手など7~8人、まずは本当にプロの卓球リーグが必要かどうか意見を出し合うところから始めました。

 その後、日本卓球協会の下の「プロリーグ設立検討委員会」として2年ぐらい検討を重ねました。ところが委員会のメンバーは卓球関係者ばかりでなかなか前に進まない。私はプロの経験があるので、プロリーグのイメージがありますが、経験がない人には具体化することが難しい。そこで、「プロリーグ設立検討準備室」として、様々なバックグラウンドを持つ人を入れて検討していくことにしました。

 最終的には2016年12月、日本卓球協会の理事会で新しいリーグの設立を認める、として許可がおりました。2017年3月に社団法人のTリーグを設立し、現在に至ります。

――Tリーグの概要について教えてください

 男子、女子それぞれ4チームでスタートし、合計の86試合をします。リーグ戦形式をとり、レギュラーシーズンは1チームあたり21試合を行い、3月に上位2チームが決勝戦を行うという流れです。

 Tリーグのチームになるためには厳しい条件をクリアする必要があります。例えば、国籍を問わず過去2年以外に世界ランキング10位になった選手が必ず1人いること、6歳以下の卓球教室を作ることなどです。

 前者の条件は、レベルの高い試合を創出するためです。後者の6歳以下の卓球教室設置については、育成システムを作り選手を強化していくためです。卓球はスタートが早いほど有利なスポーツで、中国は3歳以下から始めるので強い。そのため「6歳以下」としました。

――「レベルの高い試合」とのことですが、Tリーグが目指しているものは何でしょうか?

 世界一の卓球リーグにすることです。

 現在、日本の社会は弱くなっています。スポーツでも産業でも、今の日本に世界一と呼べるものがあれば、元気を与えられると思っています。社会の中で見ると、卓球は大きなものではありません。ですが、現在日本の卓球は強い。(卓球の)1番は中国ですが、なんとか追い越したい。2番ではダメなんです。世界一の卓球リーグを作ることで社会に貢献できるのではないかという願いがあります。

 現在、世界ランキングの50位以内の選手のうち、男子は15名、女子は14名と契約しました。色々な国の選手が集まるリーグとしては世界一と呼べるリーグとしてスタートできると思っています。

 世界一にしたい理由はもう一つあります。強い選手、有名な選手に参加してもらうことで、その選手のプレイが見たいという人が増えます。

 例えば、東京対名古屋の試合を札幌で放送しても、視聴率は低いでしょう。札幌の人も試合を観たいと思うような有名な選手が各チームにいることは重要です。

――他の競技と比較して、リーグ化するにあたっての卓球の強みは何でしょうか?

 先ほど申し上げた”今の日本の卓球は強い”、これは重要な強みです。若い選手が活躍しており、皆さんからの期待値も高い。さらには、卓球は底辺が広いスポーツでもあります。ほとんどの学校に卓球台があるし、3歳から100歳まで手軽に楽しめるスポーツです。最近では、IT系企業が会議室に置いていたりという話もよく聞きます。

 日本卓球協会に登録している選手は35万人ですが、卓球人口は増えており、協会に所属していない多数の人が日常的に卓球を楽しんでいます。

――チームの運営はどうなっているのでしょうか?

 男子は4チーム中3チームがクラブチーム、一方女子は4チーム全てが企業チームとなりました。

 クラブチームは複数のスポンサー企業を集めて運営を成り立たせる形式で、企業チームは1社が運営責任を持つ形式です。前者はJリーグ、後者はプロ野球の形式ですが、我々Tリーグはどちらでもいいと思っています。プロ野球は企業名を出していても盛り上がっており、地域に貢献しています。Jリーグは企業名は出していませんが地域に貢献しています。単にお金の出どころが1つか複数かの違いです。

 男子はクラブチームが多い、女子が企業チームばかりというのは自然にそうなったにすぎません。新しい形でやりたかったので、野球型とサッカー型の両方でやろうとスタートしました。

――今後チームの数は増やしていくのでしょうか?

 競技水準を維持しながら、増やしていきたい。世界ランキングトップ10の選手はそんなにたくさんいませんから、最終的には男女ともに8チーム、または6チームぐらいが良いのかなと思っています。トップ20まで増やすと強さのばらつきが出てくるので、ある程度同じレベルに保つとなると、チーム数をどんどん増やすという方向にはいかないでしょう。

 増えてきたら、2部を立ち上げます。すると現在のTリーグは仮に”Tリーグ・プレミア”、2部は”T1”として、T1(仮称)は幅広く10チーム程度にしてもいい。プレミア(仮称)はあくまでも世界のトップがプレーをする場にしたいと考えています。

 3年後ぐらいにT1(仮称)ができて、2025年に3部の”T2”(仮称)と増やしていくのが理想です。T2は関東リーグぐらいで、その下の”T3”(仮称)になると都道府県レベルになる。都道府県の卓球リーグはすでに存在し、例えば東京都卓球連盟には360チームぐらいが加盟しています。卓球は都道府県のリーグなど下部組織はしっかりしているのですが、ないのは上部組織。ここがしっかりしていないので国内の優秀な選手が中国、ドイツ、ロシアなど国外に出ていっているのです。優秀な選手が満足する報酬や環境があれば、選手は残ります。Tリーグ創設により優秀な選手が国内に戻ってくるでしょう。

――立ち上げにあたって、参考にしたリーグはありますか?

 国内・国外と一通り参考にしました。日本なら野球、サッカー、バスケットなど。海外の卓球では、特にドイツの卓球ブンデスリーガを参考にしました。50年の歴史があり、階層としては現在18部、登録者数は70万人を誇るリーグです。フランス、中国も参考にしましたし、米国のサッカーの仕組みなど、様々なところを参考にしました。

■関連サイト

松下 浩二(まつした こうじ)氏

一般社団法人Tリーグ 代表理事/チェアマン
明治大学卒業後、1990年協和発酵、1993年日産自動車、1995年グランプリ、1997年ミキハウスを経て、2005年から再びグランプリ所属。93年日本人初のプロ卓球選手となる。スウェーデン、ドイツ、フランスの欧州3大リーグを経験後、02年中国リーグに初参戦した。ブンデスリーガのボルシア・デュッセルドルフ所属時の1999/2000年シーズンにはヨーロッパチャンピオンズリーグで優勝を経験。オリンピックには、バルセロナ、アトランタ、シドニー、アテネと4大会連続出場。最高成績はアトランタオリンピック男子ダブルスのベスト8・5位入賞。

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