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浦和、大宮、西武がベンチャーサービス導入も スポーツをビジネスで使う

2018年10月18日 06時00分更新

文● 飯島範久 編集● ガチ鈴木 /ASCII編集部

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 埼玉県の大宮ソニックシティで埼玉県が主催するキックオフイベントが行なわれた。「埼玉Sports Stat-up」と題されたこのイベントは、埼玉県にあるプロスポーツクラブや球団が抱えている課題に対し、ベンチャー企業やスタートアップ企業などが新たなビジネスを起こして課題を解決していくためのイノベーションリーダーズ育成プログラムである。

スポーツ界にビジネスの力でイノベーションを起こしたい

埼玉県産業労働部 副部長 石川英寛氏

 スポーツビジネスはITとの融合で世界的に大きな変化がもたらされているが、日本ではまだまだの状況。今回主催する埼玉県産業労働部の副部長・石川英寛氏は「来年はラグビーワールドカップ、再来年は東京オリンピック・パラリンピックといったビッグイベントが待ち構えています。国の日本再興戦略でもスポーツの市場規模を現在の5.5兆円から、2025年には15兆円という拡大戦略を描いています。産業の変化、スポーツの成長の可能性を合わせて、埼玉県ではスポーツ・イノベーションを支援していきたいと思っています。

 今回、埼玉県にあるプロスポーツチームの浦和レッドダイヤモンズ、大宮アルディージャ、埼玉西武ライオンズにもご協力いただき、起業を目指す方、ベンチャー企業、スタートアップ企業など、各チームのテーマ(課題)に基づいて、ビジネスの力で解決に導いていってほしいと思います」

 今回のプログラムで提示されたテーマに対してアイデアを広く募集し、40人(社)程度に絞って実践的なワークショップを実施しアイデアをブラッシュアップ。再選考で4人(社)程度まで絞り込み、実現に向けて資金調達や販路の改革など、埼玉県と地域が一体となって真剣に支援していくとしている。現在、応募は締め決められ、取り組みに向けて、採択企業を調整中だ。

 イベントでは、各テーマが発表される前の基調講演とパネルディスカッションでは、Jリーグが抱える課題と改革、スポーツとベンチャーの関わりかたや海外との差、日本ではビジネスの伸びしろがたくさんあるなど、アイデアのヒントとなるおもしろい話が聞けたので、ここで紹介したい。

Jリーグをもっと“使ってほしい”と村井チェアマンの訴え

 まず基調講演に登壇したのが、Jリーグチェアマンである村井満氏だ。埼玉県出身で現在も浦和に在住の村井氏は、高校時代にサッカーをやってはいたが、特にJリーグの選手になったことも、監督をしたことも、クラブで働いたこともなかった。それでも2014年にJリーグの54クラブを統括する立場となり、以降さまざまな改革を行なってきており注目を集めている。

Jリーグチェアマン 村井満氏

 「Jリーグを使おう!のねらい」と題した今回の講演では、サーカーに限らずスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与を目指している村井氏が、Jリーグの持つアセット(資産)と地域の皆さんの専門性やコミュニティー、ネットワークがクロスしたときに、どんなことが起こるのかを実例を含めて紹介した。

村井「Jリーグはこれまで、1年間に54クラブが1万8000回近く、学校や病院などを訪れて地域貢献活動を行なってきました。それによって豊かなスポーツ文化ができる国になったのか25年経って問い直してみました。その結果、J1、J2のクラブチームを抱える埼玉県が、高知県や三重県といったクラブチームのない都道府県と比較したとき、クラブチームのあるなしでほとんど差異が見られませんでした」

 豊かさとは経済的なことだけでなく、精神的なもの、つながりや絆なども構成要素だが、これだけ努力してきても差がないことは、ある意味驚きだ。

村井「考え方を大きく変えたのはジーコでした。ブラジルは経済的には厳しいが、豊かなスポーツ文化があります。一方、日本は経済的には豊かだけど、スポーツ文化的にはそれほど豊かではありません。その差はなんなのか。ジーコからヒントをいただきました。『選手が何か施そうとしても無理』と。ブラジルでは、OBたちがチャリティーマッチをやるとき、選手は何か施すのではなく、地域住民が食材を持ち寄ることで、クラブをハブにして地域を良くする働きをしているだけなのです。このことで、Jリーグを“もっと使おう”と思っていましたが、少し肩の力を抜いて、Jリーグを“使ってもらう”とどうなるのかを考えました」

 ここから、村井氏が取り組んできた事例を紹介した。Jリーグが持っている資産を“使って”、さまざまな施策、アイデアが溢れており、ベンチャーとのコラボによって、Jリーグの魅力を高めたり、地域貢献に役立てたりと、今回のプログラムのヒントにもなるだろう。

デジタルへ舵を切るきっかけ

 ツイッターの来訪者数は就任した2014年と昨年のデータを比較すると28倍ほど増えた。きっかけは、練習場で選手にキャプテン翼の必殺シュートを実際にやってもらった動画を撮影し公開したこと。1週間で400万再生に上り、3作で合計1000万再生を達成、アイデアによって一気に動画拡散に成功した。この経験から動画コンテンツの破壊力を知り、その後DAZNと契約し10年間で2100億円という高額契約をまとめたが、すべてのライツはJリーグが持つようにした。

ベンチャーサービスも活用する「Jリーグをつかおう!」活用事例

●民間主導でスタジアムを建造しさまざまな演出も可能に
 ガンバ大阪のパナソニック スタジアム 吹田は民間主導で税金を投入しないで建造。建物だけではなく、演出効果もプロジェクションマッピングを使ったり、デジタルサイネージなどを使ったりしてテクノロジーが満載。こういった技術はベンチャービジネスによって支えられている。

●分身ロボット「OriHime」による自宅観戦
 重度の障害をもつ人がベッドの上からスタジアムの座席に座った「OriHime」をスマホでコントロールし、その映像を見て観戦している感覚に。ベンチャーが作った分身ロボットで、スタジアムへ行けない人が、観戦するようなビジネスが期待できる。

●就労困難者を就労へ導く取り組み
 川崎フロンターレでは引きこもりや重度の障害をもった人たちなどに、ホームゲームでベンチの清掃や分別回収の作業を実施。クラブが施したというよりは、川崎市の行政やボランティアの方々がサポートにより実現。170人中12%弱が正規の就労につくようになった。どこのクラブでもでき、スタジアムを活用してもらう事案。

●日本中に芝生を
 鳥取県で芝の養生事業を開始。本田技研工業の芝刈りロボットを使い極力手間を掛けずに生産。ロール単位で日本中に配送し、日本中に芝生があふれるようになってほしい。

●スタジアムで医療活動
 鹿島アントラーズは週末、整形外科医やトレーナーがくるので、平日も来てもらいスタジアム内にアントラーズクリニックを開設。日本に3台しかないMRIで診断も可能で、選手が使うトレーニング施設を活用し、リハビリやトレーニングに活かすような環境を提供している。鹿島は人口10万人あたり医療過疎と言われていたが、医療とクラブが組めばこういうこともできる。

 最後に村井氏は「今回もいいアイデアが出できたら、埼玉県や我々がブラッシュアップし、54クラブが使えそうな“型”にしていきます。それをJリーグの有名選手をアンバサダーにしてPRしていけば、クラウドファンディングや資金調達ができるかもしれません。ソーシャルインパクトボンドといいますが、社会活動の良くなったぶんだけ還元を我々にください。こういう資金調達やトークンを発行して、皆さんの間で活用していただくようなプラットフォームをJリーグが作ります。Jリーグが使えるということを認識して、Jリーグの発信力、広いスタジアムを活用するなど、コラボできればいい社会ができるかなと思います」と会場の皆さんからのアイデアに期待していた。

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