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KubernetesとIstioをベースにKnativeへ最適化したKyma

SAP、マイクロサービスYaaSの後継「Kyma」をオープンソース化、商用版も発表

2018年10月23日 13時30分更新

文● 末岡洋子 編集● 羽野/TECH.ASCII.jp

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 SAPのフロントオフィス事業部となるSAP Customer Experienceは、2018年10月10~11日にスペイン・バルセロナで開催した「SAP Customer Experience LIVE 2018」において、最新のマイクロサービス戦略を発表した。SAPのマーケティング、コマースなど「C/4 HANA」アプリケーションを柔軟かつ容易に拡張、カスタマイズできるようにするものだ。

 マイクロサービスは、サービスコンポーネントを組み合わせてアプリケーションやサービスを構築する、現在では広く知られる手法だが、SAPは2014年にYaaS(Hybris as a Service)として構想を発表している。YaaSは、同社が2013年に買収したコマースのHybrisが開発してきたマイクロサービス技術で、当初は「サービスとしてのビジネスプラットフォーム」と位置付けていた。2015年に限定ベータとして発表しておりドイツ、米国などで事例が出ていた。

 SAPは2018年に入りHybrisブランドを新設のCustomer Experienceに統合(Hybris製品は「C/4 HANA」に統合)、これに伴いYaaSも出直しとなった。

 2018年7月末、YaaSは「Kyma(キーマ)」として再スタートを切る。Kymaは新たにKubernetesとIstio(マイクロサービスのサービスメッシュ)をベースとし、Kubernetesをベースとしたサーバーレスワークロードの構築ができるKnative向けにリファクタリングしたもの。オープンソースプロジェクトであり、発表の場にはKubernetesの開発者が集う「Google Cloud Next 2018」を選んだ。

 そして10月10日、Kymaの商用サービス版となる「SAP Cloud Platform Extension Factory(XF)」を正式発表し、ラボ・プレビューの提供を開始した。Kymaはオープンソースとして提供されセルフホスティング型となるが、SAP Cloud Platform XFは名称が示すように、将来的にはSAPのPaaS「SAP Cloud Platform」に統合される。

オープンでシンプルにビジネスアプリを拡張

 クラウドプラットフォーム戦略について説明したSAPのSAP C/4 HANA Suite担当シニアバイスプレジデントThomas Vetter氏は、「顧客はSAPのクラウドだけではなく、他社のクラウドも利用しており、これらを統合しなければならない」とKyma/SAP Cloud Platform XFの背景を説明する。統合に40%の時間を費やしている、アプリを拡張する人材がいないなどの顧客の声を受け、これらを解決するために開発したものだという。総じて、「シンプルな共通拡張フレームワーク」とVetter氏はまとめる。

SAP C/4HANA Suite担当シニアバイスプレジデントのThomas Vetter氏

 Kyma/SAP Cloud Platform XFの特徴はそのオープン性だ。技術非依存型で、Node.js、Java、Goなどの言語を利用でき、任意のKubernetesで動く。SAPが提供するOpen Service Broker準拠のサービスカタログ、イベントカタログ、サーバーレスなどのコンポーネントを利用して、SAPのCommerce Cloudなどのクラウドと容易に接続できる。「これまではポイント間接続だったが、アプリケーションのイベントによりサービスをトリガーできる」(Vetter氏)という。

 イベントでは、「SAP Commerce Cloud」「Core Systems」、ECサイト、Kyma/SAP Cloud Platform XFを連携させたデモを披露。Commerce Cloudで構築したECサイトで顧客が機器を購入後に、Core Systemと連携してその機器をインストールする最適なフィールド技術者をリアルタイムで割り当てるという仕組みに対し、SAP Cloud Platform XFを利用してフィールド技術者の評価を加えるというシナリオを見せた。

フィールド技術者を呼び出すアルゴリズムに、ユーザー評価を加える。変更を保存すると運用環境ですぐに反映された。

 基調講演では、すでにSAP Cloud Platform XFとKymaを使ってオンラインストアにコーチングやコンサルなどのリアル体験を組み合わせるサービスを提供している米BrickworkのCEOが登場。「自分たちのようなISVは、KymaによりC/4 HANAに対する共通インテグレーションポイントを得られる。迅速に機能を開発できる」とメリットを述べた。BrickworkはKate Spade、Nikeなどの顧客を持つが、デジタルで購入した商品にサービスを加えることで、コンバージョン率が上がり、エンゲージも強化できているという。

 Vetter氏によれば、そのほかにも米Deloitte Digitalが機械学習を利用した顧客セグメント機能を構築するなど、Kyma上で複数の企業が拡張的な機能を構築しているという。

 C/4 HANAスイートの拡張が簡単になり、顧客はより迅速に体験を改善するなどの拡張を加えることができるようになる。それだけでなく、ERPや会計を含む「S/4 HANA」や外部のアプリケーションとも接続できる。

SAP C/4 HANAの各クラウドとSAP Cloud Platform XF/Kyma、SAP Cloud Platform、SAP S/4 HANAとの関係

SAP Cloud Platform XFはSAP Cloud Platformの一部として、C/4 HANA、S/4 HANA、その他のアプリケーションと接続できる。

 SAP Customer Experience担当CTOのMoritz Zimmermann氏は基調講演で、「マイクロサービスによりフロントオフィスが変わる。開発者の生産性が上がり、TCOは削減できる。全体として顧客体験分野のスピードを加速できる」と述べた。「次世代の業務アプリケーションは、多数のサービスを柔軟に組み合わせながら使う」というのがビジョンだ。これにはSAP、非SAPが含まれ、オープン性が非常に重要になる。

SAP Customer Experience CTOのMoritz Zimmermann氏

 すでに、Azure上のSAP Commerce Cloudを利用する顧客はSAP Cloud Platform XFを試すことができるようになっている。一般提供は2019年第1四半期を予定しており、順次各リージョンで提供するという。

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