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未だ不明確な部分が多いAdobe・MS・SAPの共通データモデル

Salesforce対抗か?引き入れるのか? Adobe、MS、SAPの「Open Data Initiative」

2018年10月22日 10時30分更新

文● 末岡洋子 編集● 羽野/TECH.ASCII.jp

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 Adobe Systems、Microsoft、SAPが9月末、共通のデータモデルで合意し「Open Data Initiative」を立ち上げた。ビックネームが揃ったが、不明確な部分も多い。10月10日、SAPがスペインで開催したイベント「SAP Customer Experience LIVE」でSAP側に聞いた内容をまとめる。

クラウドをまたいで利用できる共通のデータモデル

 Open Data Initiativeは、Microsoftが米フロリダで開催していた「Microsoft Ignite 2018」で発表された。MicrosoftのSatya Nadella氏に加え、AdobeのShantanu Narayen氏、SAPのBill McDermott氏と3社のCEOが揃ったことからも提携の大きさが伺えた。

Microsoftの「Ignite」で3社のCEOが「Open Data Initiative」設立を発表した

 それから2週間後となるSAPのイベントでは、SAP Customer Experienceを率いるCEO、Alex Atzberger氏がMicrosoftのGavriella Schuster氏(コーポレートバイスプレジデント兼One Commercial Partner事業部)、AdobeのBrandon Pulsipher氏(Experience Cluodテクニカルオペレーション担当バイスプレジデント)をステージ招き、提携について語った。

SAPが10月10日に開催したイベントでは、SAPのCustomer Experience CEOのAlex Atzberger氏(右)がMicrosoftのGavriella Schuster氏(中央)、AdobeのBrandon Pulsipher氏(左)をステージに招きODIを紹介した。

 AdobeのPulsipher氏は開口一番、「ゲームチェンジング(流れを変える)な提携だ。3社で顧客体験管理を再考する」と述べ、「バラバラな顧客情報を接続する。サイロを取り除く」と続ける。ODIはその役割を果たすもので、「パーソナライズされた体験をリアルタイムで提供できる」とメリットを説明した。

 続いてSAPのAtzberger氏は、「顧客を最優先にして単一のビューを得ることが重要だ。データがそれぞれのシステムに閉じ込められており、これを合わせる」と語る。

 最後にMicrosoftのSchuster氏がコメント。「我々がやりたいことは、共通のデータストアによる移植性の実現。これにより、AIなど様々な方法でデータを使うことができる。データがどこに行くのか、どこにあるのかを把握・管理できる」とした。

 提携を告げるプレスリリースでは、3社のアプリケーションとプラットフォームでの相互運用性、データ交換を可能にするとしている。製品名としては、Adobeのマーケティングクラウドなどを含む「Experience Cloud」と「Experience Platform」、Microsoftの「Dynamics 365」、SAPのマーケティングなどのフロントエンド「C/4HANA」、ERPや会計を含む「S/4HANA」が挙がっている。データモデルはMicrosoft Azure上の共通のデータレイクサービスを活用し、統合や分析を行うことができるという。

 SAPのCustomer Experience LIVEステージ上でも、これ以上の内容や時期については明かされなかった。

Microsoftの「Ignite」での発表時に使われていたOpen Data Initiativeを説明するスライド

土台は「SAP Customer Data Cloud」(旧Gigya)

 その後、SAPのAtzberger氏は記者発表会で、3人のCEOが数日おきに電話で話を重ねて合意をまとめたと明かした。背景にあるのは、「共通のデータモデル」の必要性だ。

 「共通のデータモデル」の土台となるのは、SAPの「SAP Customer Data Cloud」だ。Customer Data Cloudは、C/4 HANAが持つ「Service Cloud」「Marketing Cloud」「Sales Cloud」「Commerce Cloud」に共通の顧客データを提供するもので、同社が2017年に3億5000万ドルで買収したイスラエルのGigyaが土台となっている。Customer Identity、Customer Consent、Customer Profileの3つの機能を持ち、チャネルやデバイスに関係なく顧客を識別して、合意に基づいた情報の収集と活用ができるものだ。

 Atzberger氏によると、現在イスラエルの旧Gigyaチームは開発者を倍増しているとのこと。元Gigyaで、現在SAP Customer Data CloudのAPAC担当マネージングディレクターを務めるTJ Chandler氏は、「Gigyaはデータを管理・交換するという点でリーダー的存在でデファクトと言って良い。今回3社は標準のデータスキーマに取り組むが、これはGigyaの技術がベースになる」と話す。作業は進んでいる様子だが、「MicrosoftとAdobeからのインプットを得て完成させることになる」と予想する。

 顧客の反応はどうか? 発表時、Walmart、The Coca-Cola Companyなど大手顧客が賛同を寄せた。これらの企業は何らかの形で3社の製品を使っており、データの連携が進むことを期待してのものだ。一方で、Chandler氏は「顧客のリアクションは『3社が組むのは良いことだが、どんな意味があるのかはわからない』という声も聞く」(Atzberger氏)と、顧客側の混乱を認めた。

Salesforce対抗?

 ODIがCRM業界にどのようなインパクトを与えるのか現在では未知数だ。3社はそれぞれ競合する関係でもあり、それは継続する。例えばAdobeは先に、コマースのMagento Commerceを買収したが、これはSAPのCommerce Cloudと競合するものだ。Atzberger氏は、「アプリケーションレベルでの競争は継続するが、情報のサイロ化という顧客の課題解決については3社が組んで支援する」と述べる。

 3社の提携はSalesforceを意識してのものだろう。

 SAPのAtzberger氏が提携により実現すると強調した「単一のビュー」は、3社が発表をぶつけた(それとも偶然か?)Salesforceのイベント「Dreamforce」で、Salesforceが打ち出した「Customer 360」という言葉に通じるように見える。SalesforceのCustomer 360は、自社のクラウド(「Sales Cloud」「Service Cloud」など)にあるデータを連携させて、顧客について360度のビューを得るというのがメッセージだ。ここでは同社が65億ドルをはたいて買収したMuleSoftが重要な役割を果たしている。

 SAP Customer ExperienceでCTOを務めるMoritz Zimmermann氏も「Einstein」をプッシュするSalesforceを暗に指しながら「AIが重要と言っているが、自社だけのデータ」とその方向性を批判した。一方で、Atzberger氏は自らが共通のモデルを推進しなければ別のところが標準を持ってくる可能性があると述べ、「防御的であり攻撃的な動きだ」と提携を表現した。なおSalesforceに対しては、「Salesforceが加わるのなら歓迎する。Salesforceにとっても良いことだろう」と述べている。

 SAPにとっては、CRMなどフロントオフィス側のテコ入れをさらに進めた格好と言える。「CRMは一社が独占してきた。今転換期を迎えつつあり、機会を掴む必要がある」とAtzberger氏。流れを変えるべく、SAPはGigyaなどの買収を重ね、ブランディングも行なっている。これまでのHybrisから「Customer Experience」として事業部をたて、製品名も”HANAベースの第4世代の顧客体験”を意味する「C/4 HANA」とした。

 「データがCRMの阻害要因になってはいけない。一部のデータエレメントに共通の定義があることは顧客のメリットとなり、ソリューションの受け入れを助ける」(Atzberger氏)。

 ODIで3社が仕掛けた動きにSalesforceはどう回答するのか、Oracle、IBMは加わるのか、Amazon Web Services(AWS)はどう出るのか。今後の動向に注目したい。

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