コスト削減のためトランジスタを採用
またSAGEでは稼働率を上げるため、毎日数百本の真空管を予防措置で交換するなどしていたが、確かに稼働率は上がるもののコストも馬鹿にならない。そこでより信頼性の高いデバイスを、ということでトランジスタを使う方向を模索し始める。
まず1958年にゲルマニウムトランジスタを採用したIBM 608を発表、これをさらに改良したのが1959年10月に発表されたIBM 1401である。
画像の出典は、Computer History Museum
性能としては、毎分19万3300回の加算と25000回の乗算が可能という数字が出ており、これはIBM 650と比べると一桁遅い(IBM 1401は加算に3.1ミリ秒ほどかかる計算になるが、IBM 650は0.4ミリ秒で加算が可能だった)のだが、その代わり価格も安かった。
最小構成では月額リース料が2500ドルであり、これはIBM 650のほぼ半分以下である。この結果、発表から5週間で5000台を超える注文を受けており、1960年代中頃には全米で1万台以上のIBM 1401が設置されていたそうだ。
快進撃を続けるIBMであったが、1952年には再び政府により反トラスト法で訴えられることになる。1956年にこの訴訟は和解に達するが、その条件としてパンチカードの製造・販売を別会社としたほか、互換機メーカーを受け入れる余地が生まれることになる。
この余地を存分に生かすことで生まれたのがCDC(Control Data Corporation)である、という話は連載273回に書いた通りだ。以後、IBMはCDCという新たな敵とも戦うことになる。
電子データ処理の市場で
IBMが業界トップの座に君臨する
話を戻すと、1952~1956年の反トラスト法訴訟に関連して、1956年のSperry Rand(*2)とIBMの間での和解条項が反トラスト法に抵触している、という申し出がなされているのだが、その文章を読むと、この当時EDP(Electronic Data Processing)市場の95%ほどを、IBMとSperry Randが占めていた、という数字が出てくる。内訳は以下の通り。
Remington Randは1955年にSperryに買収され、Sperry Randとなった。
EDP市場の売上とシェア | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
全世界 (上段:売上/下段:シェア) |
米国 (上段:売上/下段:シェア) |
|||||
IBM | 4217万4000ドル (42.9%) |
3927万6000ドル (47.5%) |
||||
Sperry Rand | 5032万9000ドル (51.2%) |
3759万ドル (45.5%) |
||||
2社合計 | 9250万3000ドル (94.1%) |
7686万6000ドル (94.8%) |
といった具合だ。ちなみにこれは既存のEDPシステムに対する総売上の数字で、これだけ見ていると両社が拮抗しているように見えるが、これとは別に1956年中に新規に導入されたEDPシステムの総売上は以下の通り。
1956年中に新規に導入されたEDPの売上とシェア | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
全世界 (上段:売上/下段:シェア) |
米国 (上段:売上/下段:シェア) |
|||||
IBM | 1億6003万6800ドル (85.2%) |
1億5713万8800ドル (84.9%) |
||||
Sperry Rand | 1827万ドル (9.7%) |
1827万ドル (9.9%) |
||||
2社合計 | 1億7830万6000ドル (94.9%) |
1億7540万8800ドル (94.8%) |
急速にSperry Randがシェアを失い、それをIBMが全部かっさらっていく、という構図が明白に見えてくる。このあたりでIBMが明確に業界トップの座を取ったことが明らかである。
IBMはその1956年に、IBM 701に浮動小数点演算を追加したIBM 704を発表、1959年には前述のIBM 1401を発表し、ミドルレンジの製品を厚くしたうえで、1960年台には大型機の性能アップに邁進することになる。(次回に続く)
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