優秀なセールスマンを擁するIBMが
じりじりとシェアを伸ばす
今回もIBMの話である。ただ、コンピューターに向けて舵を切ったのは別にIBMだけではなかった。Remington Rand以外にもそれこそGEやRCAなど、売上だけを見れば当時のIBMよりも大きな企業が争うようにコンピューターの市場に参入を始めていた。
とはいえ、例えばRCAの場合、ビジネスの中心はコンピューターというよりはむしろTVやテープレコーダー、あるいは放送局などに向けた業務用機材であり、コンピューターに関してもコンピューターそのものと言うよりはむしろ、コンピューターに使われる真空管で大きなシェアを握っているという具合であった。
1954年にRCAはRedstone Arsenal(アメリカ陸軍レッドストーン兵器廠)にBIZMACという巨大なシステムを納入したり、これを民間向けに販売しようとしたりした(2台しか売れなかったらしい)が、あまりビジネスとしては成功しなかった。
画像の出典は、Antique (lonesome) Computers
GEは若干後からの参入(1960年のGE-200シリーズ)である。GEは1954年にRemington RandからUNIVAC Iを購入しており、これをきっかけにコンピュータービジネスに参入することになっている。ただそもそものスタートが遅かったうえ、同社はメインフレームというよりも後で言うところのミニコンに近い構成であり、売上そのものはそれほど大きくなかった。
GEの場合、目的は経理/統計処理や科学技術計算というよりも、同社のビジネスである産業機器などの制御という用途がメインであり、それもあってコンピュータービジネスそのものがいわばおまけと言ったら言い過ぎかもしれないが、少なくともコンピューター「だけ」を売ってビジネスをしているわけではなかった。
この当時、同社は連邦政府を除くと最大のコンピューターのユーザーでもあり、その意味ではコンピュータービジネスをよく理解しているメーカーでもあった。
もう少し真剣にIBMと競合していたのはRemington Randであったが、こちらは性能やコストではIBMに有利だったものの、セールスマンの優秀さではIBMの敵ではなく、また顧客の忠実度もIBMの方が上だった。一度IBMのシステムを導入した顧客は、引き続きそのままIBMのシステムを使い続けており、結果としてじりじりとIBMはシェアを伸ばしていくことになる。
もちろんIBM自身もどんどん新製品を追加していく。1953年にはIBM 650を発表する。MDC(Magnetic Drum Calculator)と呼ばれたこのシステムは、記憶領域として巨大な磁気ドラムを利用することで高速化を図ったものである。
画像の出典は、“Columbia University Computing History”
この磁気ドラムがさらに改良された結果が、1956年に発表されたIBM 350 RAMACである。ちなみにIBM 701は科学技術計算向けのマシンだったのに対し、IBM 650は科学技術計算だけでなく汎用向けとしても利用できるマシンとなっており、IBMもかつてはこちらを初のコンピューターと称していた時期もある。IBMはこのIBM 650を1962年までに2000台近く販売しており、IBMの最初のベストセラーのシステムとなった。

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