J-Startupが狙うグローバル企業創出のカギとは
デロイトトーマツイノベーションサミット基調講演レポート
デロイトトーマツグループは9月11日、アジア最大級のイノベーション カンファレンス「デロイトトーマツイノベーションサミット」を東京国際フォーラムで開催した。海外15ヵ国からのスタートアップを含め、国内外約300社のスタートアップ企業が集結。大企業×スタートアップのネットワーキングやパワーマッチングの場として、多くの来場者が訪れた。
注目スタートアップのブース展示のほか、各界のリーダーや専門家による基調講演やセッションが行なわれた。その中から基調講演「日本発・グローバルオープンイノベーションを加速する ~経済産業省「J-Startup」コラボレーションセッション」の内容をレポートする。
パネリストは、株式会社メルカリ 取締役社長兼COO 小泉文明氏、CYBERDYNE株式会社 代表取締役社長/CEO 山海嘉之氏、株式会社デジタルハーツホールディングス 代表取締役社長CEO 玉塚元一氏、経済産業省 経済産業政策局 産業資金課長兼 新規事業調整官 福本拓也氏の4名。モデレーターとして、デロイトトーマツ ベンチャーサポート株式会社 事業統括本部長の斎藤佑馬氏が登壇した。
スタートアップのエコシステムはこの10年で劇的に変化している
日本のスタートアップのエコシステムは、この10年で大きく変わってきた。以前に比べると、VCや金融機関からの資金調達、政府の支援、メディアへの露出、大企業との協業、いずれも増えてきている。残る課題は、グローバルで勝てるベンチャーの育成だ。
経済産業省のスタートアップ育成支援プログラム「J-Startup」と連携し、世界に勝てるスタートアップを生むには、どのような取り組みや戦略が必要なのだろうか。
小泉氏「メルカリを設立5年になるが、環境は徐々に良くなってきた。しかし、まだまだ起業家の数が少なく、起業家を支えるナンバー2、ナンバー3の人材が生まれにくい。これからエコシステムを回していくには、人材面が課題なのではないか」
メルカリのような短期的に利益を回収しやすいネットベンチャーに対して、技術ベンチャーは、収益化までに時間がかかる。技術ベンチャーのエコシステムにも変化は起きている。
山海氏「革新技術に対しての取り組みを通常の支援組織だけでなく、国も力を入れている。筑波研究学園都市を例にとると、これまで相当の研究費が入っているが、十分に社会に還元できているとは言えなかった。そこで、いま私が起業プロデューサーとして関わり、新しい産業づくりの仕組みが動き始めたところ。国がエコシステムの構築へと動いたのは、大きな時代の変化だ」
まだ始まって2年未満だが、産業づくりの仕組みは動き始めており、いくつかベンチャー企業が生まれているそうだ。
いままでの政府の経済政策は「幅広く、広く薄く」というものが中心だったが、J-Startupに選出された92社のスタートアップは、手厚い支援が受けられる。ある意味、明確なえこひいきだ。内外からの反発や批判の声も少なからずある。
福本氏「政府にとっては大変なリスク。しかし、政府が本気で応援することで、成功、あるいは大きな失敗をしてもそこから得られるものがある。次に何をすればいいのか、新しい戦略課題が見えれば、次の政策へとつながる。ベンチャーが活躍しやすい国になることで、他国からの参入も期待できます」
スタートアップが次のステージへと進むために必要なビジョン、人材、お金
続いてのテーマはファイナンスやビジョンと、スタートアップの規模の関係について。
玉塚氏「企業のステージには3倍のルールがある。10億の会社が30億、30億の会社が100億になるとき、大きく経営の体制の構造を変えないと、次のステージには行けない。ファーストリテイリングの柳井社長は、過去にユニクロが減益したとき、外から人材を入れて課題を洗い出し、需要予測の手法、製造、物流、工場の数、商品の品番数、すべてをゼロベースで変えていった。実際に動くのは人。リーダーと、それを支える人材がみんなで明確なビジョンに向かって成長を達成していくことが大事」
小泉氏「グローバル展開するにはIPOにするのが早い。しかし、利益を出さないといけないプレッシャーがかかる。メルカリは、上場前から利益が出ないことを投資家に伝えている。利益よりも成長するかどうかを重視する投資家に株式を買ってほしいからだ。グローバルに展開すると、一時的に株価が下がるケースがある。ここで強い意志を持っていないと、株価が落ちていく恐怖に耐えられないかもしれない。グローバルで成功する企業を増やしていくことで、投資家マインドを変えていきたい」
山海氏「海外投資家がまず聞くのはビジョンだが、日本では黒字化のタイミング。世界企業として何かやるのであれば、各国の仕組みをクリアしていかなくてはならないので時間がかかる。そこで、株主にビジョンを理解してもらわなくてはならない。世界企業として成り立つような仕組みづくりを開示し、計画を立てること。人事もフェーズによって変わってくるので、各国の人材も獲得する必要があるでしょう」
福本氏「今までのベンチャー政策は制度を作り、補助金などを出すだけだったが、J-Startupでは、企業と一緒に取り組むことによって、市場の仕組み、法律上の制約、機関投資家の多様性の不足、海外との規制当局との関係など、いろいろな課題が見えてきた。そのなかで、J-Startupでグローバルに戦うために必要なことに焦点をしぼり、政策を進めていく。すぐにはできないことが多いが、ほかの省庁、民間企業と連携していけば解決していけるだろう」
人材の流動化が企業の成長と新しい産業の創出につながる
最後に登壇者から述べられた、グローバルに乗り出すスタートアップにとって必要な要素を送る。
玉塚氏「中長期のビジョン、ミッションを本気で達成するには、実行するチームが必要。日本では、大企業に人材が滞留しているので、人材の流動化が大事だ。ある程度コンパクトな企業は、全体が見える。大企業の人材がスタートアップに飛び込むと、組織の歯車ではない、広範囲の仕事を任されることで成長する。もっと人材が流動するようなルールをつくれないだろうか」
小泉氏「上場企業の役員は、5、6年経ったら退任して、新しいチャレンジをするといい。日本的な感覚では、途中で退任するのは株主に対して責任を放棄しているように非難されるかもしれないが、ある目標を達成したら、次のスタートアップにジョインして、次のチャレンジをするのも手だ。また、日本のエンジニアは優秀だが給料が海外に比べて安い。米国はトランプ政権でビザの発給が難しくなっている。これまで獲得できなかったインドなど海外の優秀なエンジニアを日本に呼び込むチャンスだ」
山海氏「メディカルの分野では、いったん治療法が確立してしまうと、その方法以外はしなくなってしまう。新しい技術を開拓してプラットフォーム化するとともに、人材を連携させていくことも重要。同じ組織のメンバーが自分たちのやりたいことをスピンアウトさせて伸びていくような仕組みもできるといい。1つの母体から支援しながら飛び出していけるような風土を育てていきたい。以前は、大学教授が事業をやることに対しても肯定的には見られなかったが、今は、大学院生のおそらく半数近くが在学期間中にベンチャーをつくるような雰囲気へと変わってきている」
玉塚氏「スタートアップ、ベンチャーは、ものすごい早いスピードで意思決定している。歴史があって大きな会社は、なかなかスピードがあがらない中で、スタートアップによって活性化され、さまざまなイノベーションが生まれる。大企業には、人材や技術のリソースがたくさんある。お金だけでなく、人も流動化し、埋もれている技術も活用しながら、ダイナミックに新しいイノベーションを興していくようになるといい」
福本氏「産業を生み出せる人材、世界レベルの研究者は少ない。そういう限られた人材が活躍して次の未来をつくっていけるような仕組みをつくっていかなくてはならない。CEOや起業家だけでなく、いろいろな役割の人々の持ち味を生かし、総動員で成長していかないと、この国の未来はない、というつもりでやっていきたい」
訂正とお詫び:初出時、登壇者の氏名に誤りがありました。ここに訂正するとともに、お詫びいたします。(2018年10月18日)