2018年8月22日、アーム(Arm)は業界初のエンドツーエンドのIoTプラットフォームを謳う「Arm Pelion IoT Platform」の国内提供を開始した。買収したトレジャーデータのサービスを活用し、デジタルディスラプターに対抗しうるデータ分析基盤をエンタープライズ企業に提供していく。
デバイス、コネクティビティ、データの管理までを統合
デバイスからデータまでを一貫して管理できるArm Pelion IoT Platformは、デバイス管理、コネクティビティ管理、データ管理と、包括的なセキュリティフレームワークによって構成される。デバイスや接続が多岐に及び、一貫したセキュリティや管理に課題を持つ「IoTの複雑性」を解消し、堅牢でスケーラブルな基盤を提供するのが目的だ。
2016年にソフトバンクグループが約3.3兆円で買収した英Armは、半導体の知財(IP)をメーカーにライセンス提供するIPデザイン企業。スマートフォンの普及で急成長しているのはご存じの通りで、今後はIoTや自動車の市場でも成長が期待されている。Arm Pelion IoT Platformにおいてはデバイス管理とサービス開発を担当し、多種多様なIoTデバイスを対象にデバイスのオンボーディング、プロビジョニング、ソフトウェア更新などのライフサイクルを通じて、高いセキュリティを確保する。
また、Arm Pelion IoT Platformにおいてデータ管理プラットフォームを提供するトレジャーデータは、2011年に米国で設立。データの収集から連携・統合、チャネル配信などを一括で提供するTreasure Data CDP(Customer Data Platform)を提供しており、おもにエンタープライズでのデジタルマーケティングに活用されてきた。現在では1秒あたり200万件、1日あたり数十万クエリ、50兆レコードを処理することで、データ分析をビジネス上の価値に変える支援を行なっている。2018年8月にArmによる買収が発表され、現在はArm IoTサービスグループに所属している。
なお、コネクティビティ管理を提供する英Stream Technologiesの技術を用いる。eSIMオーケストレーション機能を持ち、セルラーやLoRa、衛星などのプロトコルを通じ、600以上のプロバイダーネットワークで、デバイスのオンボーディングを実現。また、単一インターフェイスでこれらの接続を管理しつつ、請求や分析までを提供するという。
人由来データとモノ由来データが掛け合わされて生まれる新しいビジネス
発表会で登壇した英Arm IoTサービスグループプレジデントのディペッシュ・パテル氏は、2035年までにIoTデバイスは1兆個、利用可能なデータストリームも10兆におよぶことをアピールし、今後IoTこそがあらゆるデータを生成し、新しい洞察、動的な最適化、機会創出などを実現していくと説明した。そして、そのためのデータ管理プラットフォームとして、トレジャーデータのCDPが必要になったと買収の背景を語った。
トレジャーデータのCEOで、Arm IoTサービスグループ データビジネス担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーとなった芳川祐誠氏が強調したのは、ずばり「デジタルトランスフォーメーション」。Netflix、Amazon、Airbnb、Uberなどをはじめとしたデジタルディスラプターに対抗するためには徹底的な顧客理解が必要と指摘し、スピーディに施策を回していけるデータ分析プラットフォームとして、今後もデジタルマーケティング分野に注力していくことを強調した。
その上で、芳川氏はArm入りの背景として、「従来、CDPがメインに扱ってきた顧客データとデバイス由来のモノデータが掛け合わされることで、ビジネスイノベーションが生まれる」と説明。ドライブデータをリアルタイムに収集したテレマティック保険のような事例を披露しつつ、デジタルマーケティングとIoTの融合という新しいビジネスにチャレンジできる点をArm Pelion IoT Platformのメリットと説明した。芳川氏は「ユニバーサルなデータ基盤を作り機会をいただけた。(ユーザー企業も)これでようやくデジタルディラプターにFightBackできる」と述べ、グローバルで最大規模となるビッグデータプラットフォームを目指す野望をアピールした。
Armの親会社にあたるソフトバンク代表取締役 社長執行役員兼CEOの宮内謙氏は、トレジャーデータのソフトバンクグループ入りを歓迎。2018年5月に同社と戦略的な提携を結んで以来、3ヶ月でデジタルマーケティング分野のビジネスが大きく伸びたことが買収の背景にあったことを示唆した。その上で、スマートフォンが登場して10年で、人々の生活を大きく変えてきたことを指摘し、「今度はモノとモノがつながっていく。この5~6年でIoTの成長は加速度を増していくし、われわれもIoTを徹底的に推進していく」(宮内氏)とアピールした。