7月27日から29日に新潟県湯沢町・苗場スキー場で開催した国内最大級の野外ロック・フェスティバル「FUJI ROCK FESTIVAL'18」(通称:フジロック)。今年は、初めての試みとしてYouTubeでライブ配信されることが発表され、そのことが開催前から大きな話題となりました。
公式サイトによれば、今年の来場者数は7月26日の前夜祭が1万7000人、27日は3万0000人、28日は4万0000人、29日は3万8000人となり、のべ12万5000人が来場。ちなみに、昨年の来場者数ものべ12万5000人でした。
前夜祭と初日は若干の人数変動があるものの、全体的にみれば、当初指摘されていた「ライブ配信をすることによる来場者減少の心配は杞憂に終わった」ようです。それ以上に、フジロックという国内最大級の野外ロック・フェスティバルだからこそ「ライブ配信を活用していくことの意義は大きなものがあった」と思いました。
「興味関心がある人も大きく巻き込む」ことに成功
今年は「Channel 1」「Channel 2」の2つのYouTubeチャンネルで、ライブ配信がほぼ同時に進行しました。視聴できるアーティストは限定的であったものの、これまで参加したことがない私自身も、ネット越しであるもののフジロックの雰囲気をお裾分けしてもらうことができたと感じています。
私が視聴した時点での3日目日中は、Channel 1 では同時視聴者数約5.3万人、Channel 2 では同時視聴者数約1.7万人。日中の早い時間帯にもかかわらず、この時点で少なくとも合わせて7万人の人が同時に見ていたのです。さらに、3日目の現地来場者数が3.8万人であったことを考えれば、現地へ行くことができないファンだけでなく、フジロックに参加したことは無いけれども興味関心があるという人も、ライブ配信を通じて大きく巻き込むことができたのではないでしょうか。
フジロックの雰囲気をライブ配信を通じて感じるられた一方で、ライブ配信を見ていて少し残念に感じたのは、その様子を視聴しながらメッセージを投稿することができるチャット欄に視聴者からの「ネガティブなコメント」を多く見受けられたことです。
これについてはASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・ギター、後藤正文さんがTwitterで苦言を呈したほどです。
とりあえず、フジロックのYouTubeの地獄のような民度のチャットはなくていいんでないかと思った(閉じてたけどね)。動画配信は最高で行けない身としては感謝しかないッス。忙しかったけれど、いくつか観れてよかった。
— Gotch (@gotch_akg) 2018年7月29日
YouTubeをはじめ、ほとんどのライブ配信のプラットフォームにあるチャット機能は、画面の向こうの人と視聴者がコミュニケーションをすることができます。今回のようなイベントの様子を伝えるライブ配信では、視聴者同士で感動を共有できる「テレビにはない、ライブ配信ならではの機能」です。
ライブ配信にネガティブなコメントはつきものだが……
従来、数万人単位こうした大きなライブ配信であれば、いろいろな意見や感想をチャットへ投稿されることも多く、その中にはネガティブなコメントも見受けられることがあります。ネガティブなコメントが投稿されるライブ配信であっても、時間の経過によってネガティブなコメントよりもポジティブなコメントが上回る「自浄作用」が働くことがほとんどです。ところが、今回のケースではその自浄作用がうまく働かなかったことによって、結果的にネガティブなコメントが多く見受けられることになりました。
無論、配信者側でチャット機能と閉じてしまうことや、モデレート(チャット機能へ投稿されたメッセージをチェックして表示・非表示を決める)することも簡単です。ただしこれは最終的な手段のひとつ。まずは、公式サイトで呼びかけをしているような「OSAHO(お作法)」をライブ配信の視聴者にも呼びかけてみるべきだと考えます。
そして「“ルール・マナー”でもない、規制でもない。快適で気持ちよいフジロックをつくるのは、参加者ひとりひとりの気持ちが大切。国境を越え、文化を越え、フジロックから始まるあたりまえのエチケット」(公式サイトより)はリアルに参加する人たちだけでなく、ライブ配信を通じて参加(視聴)する人たちも応えていくべきなのでしょう。
集客力がある人気イベントこそライブ配信を活用すべき
先に紹介した後藤正文さんのツイートに「動画配信は最高で行けない身としては感謝しかないッス」という言葉も添えられているように、今回のフジロックのライブ配信は大きな意義があったことは多くの人が感じていると思われます。そもそも、こうした試みをするフジロックの決断はとても大きいものだったはずです。
ライブ配信そのものの仕組みはYouTubeだけでなく、FacebookやTwitterなど、多くのプラットフォームが生まれ、商品やサービスなどのプロモーション、情報発信の手段として企業や自治体が活用するケースも増えています。とはいえ、ライブ配信を活用することにまだまだ消極的なところが多いのが実情です。
しかしながら、フジロックのように集客力がある人気イベントであればあるこそ、ライブ配信することで「その場へ行きたい欲求を刺激する」とともに、「見ている視聴者同士の共感の共有」が可能です。それが結果的に、自身のブランディングにもつなげることもできます。
今回のフジロックにおけるライブ配信は、ライブ配信を活用していくことの意義を大きく知らしめたトピックでした。その一方で、課題もありました。ただ、コメントでの課題以上にライブ配信をした意義は大きいと思いますので、翌年以降も今年と同じような形でライブ配信が続けられていくことに期待をしたいです。
ライブメディアクリエイター
ノダタケオ(Twitter:@noda)
ソーシャルメディアとライブ配信・動画メディアが専門のクリエイター。2010年よりスマホから業務機器(Tricasterなど)まで、さまざまな機材を活用したライブ配信とマルチカメラ収録現場をこなす。これらの経験に基づいた、ソーシャルメディアやライブ配信・動画メディアに関する執筆やコンサルティングなど、その活動は多岐にわたる。
nodatakeo.com
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