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スポーツ界でビジネスの話を活発に 体育の延長から稼ぐへ意識を変える

2018年08月23日 06時00分更新

文● 末岡洋子 編集● ガチ鈴木 /ASCII編集部 写真● 曽根田元

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 長く「体育」の延長としてとらえられてきたスポーツをビジネスに活用するという考え方は、日本ではまだ新しい。スポーツ専門の社会人向けビジネスプログラム「早稲田大学 スポーツMBA Essense」を2017年に開設した早稲田大学スポーツ科学学術院の原田宗彦教授は、企業もスポーツ側も「マインドセットを変える必要がある」と課題を語る。原田氏にスポーツとビジネスにおけるトレンド、地方再生への活用などについて話を聞いた。

早稲田大学スポーツ科学学術院 原田宗彦教授

――そもそもスポーツビジネスとは何か、基礎から教えていただけますか?

 日本は「体育」の歴史が長く続きました。体育とは「身体教育」の略であり、あくまでも教育です。学校での体育、社会に進んでも社会体育と言われる時代が長く続いていました。その後「生涯スポーツ」のような概念も生まれました。

 スポーツビジネスはその後に出てきた概念です。スポーツの触媒的な機能が見直され、スポーツ自体を盛んにするというよりも、スポーツを触媒にして他のさまざまなことを盛んにしようという考え方です。

 変化のきっかけは、2015年10月1日のスポーツ庁設置です。それまで、スポーツは文部科学省下にある競技スポーツ課が担当していましたが、スポーツ庁設置により、「スポーツで稼ぐ」と堂々と言えるようになったのです。これは教育からビジネスへのスポーツのパラダイムシフトと言えます。

 スポーツ産業が発展するとともに、伝統的なスポーツ用品産業、スポーツ施設・空間産業、そしてスポーツメディア産業が複合化することによって、新たに「ハイブリッド産業」が生まれました。FIFAワールドカップは典型的な例です。ウェア、シューズ、放送権料、スタジアム、ピッチとすべてが絡んだ総合的な産業ができています。オリンピックも同じで、メガスポーツイベントに共通した傾向です。

 ハイブリッド化は、私が専門としているスポーツを観光などとつなげて人を動かす「スポーツツーリズム」にも当てはまります。観光産業は鉄道、自動車、通訳、クレジット決済など様々な産業が複合的に絡まっているからです。スポーツ産業の構造も大きく動いていて、現在のスポーツビジネスを支えています。

――幅が広がっているということは、そこに関わることができるプレイヤーも今後増えるということでしょうか?

 増えていくでしょう。いまスポーツ庁にはさまざまな省庁の人が出向しており、民間の人もいます。考え方が柔軟で、新しい政策がどんどん生まれているようです。スポーツ庁の「日本のスポーツ5か年計画」は第二期(2017年4月から2022年3月まで)に入っており、新しい言葉もたくさん入っています。私が提唱した「スポーツMICE」もそのひとつで、企業などの会議(Meeting)、研修旅行(Incentive Travel)、国際会議(Convention)、国際競技大会(Exhibition, Event)として、これらの開催により地域スポーツと経済の活性化、国際的地位の向上を図ろうというものです。マーケットは世界にも広がっています。

参考リンク:日本スポーツの5か年計画がスタート(2017年4月~2022年3月)
http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop01/list/detail/1383656.htm

――増えているプレイヤーに共通の特徴や傾向はありますか?

 まず活発なのはテクノロジー系です。スポーツとテクノロジーのイベントに「MIT Sloan Sports Analytics Conference」(マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院が開催)がありますが、2006年の開始時は数百人程度でした。現在は3500人が参加しているそうです。ベンチャー、スタートアップ企業も多数参加しています。

 テクノロジーの中でも分析やAIの活用が増えています。例えばオリエンテーリング、森の中で地図とコンパスを手にポイントを通過する競技ですが、これまで観客は選手がどこにいるのか見えませんでした。現在はモニターの上で各チームの位置情報がわかるようになりました。テクノロジーのおかげで、見る側の経験価値が高まったと言えます。

 体操競技もテクノロジーにより変わりました。見る側は素人なので選手が何回転したかわからない。ですが現在はそのデータがすぐに得られます。テニス、サッカーでもボール保持率や選手が走った距離などのデータが表示され、素人でもデータを語ることができるようになりました。FIFAワールドカップではビデオ判定「VAR」も導入されました。あくまでも審判の補助であり、AIが判断するのではありません。正確なジャッジができるのを支援しています。

――スポーツビジネスも変化しているのでしょうか?

 たとえばデータ解析。場面で利用されるだけでなく時系列で利用されるケースが出てきています。チケットを予約する段階から、当日スタジアムにいき、試合やイベントを楽しみ、終わった後まで、AIやテクノロジーが入ります。これにより、観戦や感動体験はさらに加速されるでしょう。競技場に行く前にレストラン情報も含め必要な情報が提供され、スタジアムではトイレの待ち時間までわかるようなサービスがすでに実現しています。これらがスマートフォン1台でできるのです。将来的には顔認証、指紋認証も加わり、チケットレスの世界になっていくことでしょう。

 とはいえ、サッカー、バレーボールなどスポーツそのものの本質は変わりません。変えてはいけないところもあります。不易と流行のような世界がスポーツにはあります。

――世界のスポーツビジネスはどうでしょうか?

 MLB(米メジャーリーグ)は進んでいます。見せ方を時代に沿うものに変えているし、コンテンツとの連動も積極的に進めている。

 e-Sportsはアメリカでは専用のスポーツアリーナができています。2018年8月にインドネシアで開催される第18回アジア競技大会ではe-Sportsが公開種目になりました。2019年の茨城国民体育大会では文化プログラムとして採用されることが決まっています。2024年のパリ五輪、2028年のロス五輪では正式種目への追加が検討されています。

――変わるスポーツビジネスの現場に対応していくためには?

 スポーツは体育という人がまだ多い。マインドセットを変える必要があります。

 企業はスポーツはビジネスに役立つ、その潜在性は計り知れないということをまだ完全に理解していませんし、スポーツ側も企業に訪問して”お金を出してください”と頭をさげるだけという状態です。

 このような状況に対し、私が所属する早稲田大学では、スポーツ科学学術院と商学学術院が組んで2017年に「スポーツMBA Essense」という教育プログラムを開始しました。企業経営者などにスポーツビジネスを学んでもらうことを目的としたものです。

 授業内容は、スポーツの歴史やスポーツインテグリティから、スポーツマーケティングやスポーツツーリズムまで、最新の情報を体系的に教えます。MBAコースも5コマぐらいあり、財務表の見方などがカリキュラムに入っています。2018年度は、ゲストスピーカーとしてニューヨークからスポーツコンサルタントを呼ぶ予定です。

 初回は大企業などから約50人の応募がありました。2期生も30人以上が集まり9月からスタートします。少しずつ横のネットワークができていると感じます。スポーツMBA Essenseはノンディグリーのプログラムですが、将来的には正式なスポーツMBAにしたいと思っています。

 スポーツ側は、「我々にいくら投資してもらったらこれぐらいのメリットがありますよ」と、ビジネスの世界と共通言語で話ができる必要があります。アメリカでは、スポーツチームにいるMBAホルダーが企業を訪問しています。企業にもスポーツ界にもスポーツビジネスの会話ができる人がいる――そんな世界に持っていきたいですね。

原田宗彦教授(早稲田大学スポーツ科学学術院)

近影 原田宗彦教授

 1954年大阪生まれ。ペンシルバニア州立大学博士課程修了。鹿屋体育大学助手を経て大阪体育大学教授。フルブライト上級研究員(テキサスA&M大学)を経て現在は早稲田大学スポーツ科学学術院教授。役職として日本スポーツマネジメント学会会長、(一般社団法人)日本スポーツツーリズム推進機構代表理事、(公益社団法人)日本スポーツ健康産業団体連合副会長、日本トライアスロン連合顧問、Jリーグ参与等を務める。著書として「スポーツ産業論第6版」(編著)、「オリンピックマーケティング」(監訳)、「スポーツマーケティング改訂版」(共著)「スポーツ・ヘルスツーリズム」(編著)「スポーツイベントの経済学」(単著)「スポーツ都市戦略」(2016年度不動産協会賞受賞)他多数。

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