フロント/バックエンド間のボトルネックを排除、「最良のカスタマー体験」を提供する基盤
「SAP C/4HANA」CRMスイート発売、S/4HANA ERPと密に連携
2018年07月26日 07時00分更新
SAPジャパンは2018年7月25日、CRMアプリケーションスイート「SAP C/4HANA」の国内提供を開始した。従来「SAP Hybris」ブランドで提供してきたクラウドアプリケーション群を核として、各アプリケーション間やERP「SAP S/4HANA」、さらにサードパーティ製CRM/マーケティングSaaSとのデータ連携を強化。加えて、機械学習を活用した予測やレコメンデーションなどの機能も組み込んでいる。発表会では、顧客接点から製造計画までのエンドトゥエンドを一貫したかたちでカバーし、「すべてのボトルネックを排除する」強みがアピールされた。
“マーケティング/コマース/セールス/カスタマーサービス+個人情報保護”のスイート製品
C/4HANAは、合計5つのクラウドアプリケーション(SaaS)を統合したCRMスイートだ。今回提供を開始したのは「SAP Cloud Platform」上で稼働するクラウド版だが、来年(2019年)の第1四半期にはオンプレミス版もリリースされる予定だ。
具体的には、マルチチャネルマーケティングツールの「SAP Marketing Cloud」、パーソナライズされた顧客体験を可能にするECサイト基盤「SAP Commerce Cloud」、販売営業支援(SFA)の「SAP Sales Cloud」、コールセンターなどでのカスタマーサービスを支援する「SAP Service Cloud」、そしてこれらのツールが利用する顧客個人情報を一元的に保護/管理するマスターデータベース「SAP Customer Data Cloud」により構成される。
C/4HANAの大きな特徴は、顧客への“フロント”を担うソリューションとして“バックエンド”のS/4HANAと連携できる点だ。これにより、フロントとバックエンドのシステムが分断している場合に生じるボトルネックを排除するという。たとえば「自社製品がECサイトで『在庫切れ』になりそうであれば、それをバックエンドに自動通知し、出荷や生産を促す」ような連携処理が可能になるわけだ。
発表会に出席したSAPジャパン SAP Customer Experienceソリューション事業本部 事業本部長の高山勇喜氏は、「ずばり、C/4HANAの競合はSFDC(セールスフォース・ドットコム)になる」と語った。ただし、それはC/4HANAを構成する個々のアプリケーションレベルで見た場合の話であり、アプリケーション間の“横連携”やS/4HANAとの“縦連携”でボトルネックを排除するアーキテクチャは大きく異なるという。高山氏は、こうしたシステム連携の強みが生きる領域で戦っていくと述べた。後述するターゲット企業層を見ても、S/4HANAとの組み合わせ導入が強く意識されているのは間違いないだろう。
「事実、SAPがCRM領域でSFDCに顧客を奪われたケースはほぼゼロだ。今後も、既存の顧客を奪われるということはほぼないと見ている」(高山氏)
なお、C/4HANAのアーキテクチャでは、サードパーティ製アプリケーションを組み込んでデータ連携することもできる。高山氏は、「フロントシステムは使い慣れた既存のものを使いたい」というニーズが強いため、他社のデジタルマーケティングツール、CRMなどをビルトインして使えるようになっていると説明する。
また各アプリケーションには、「SAP Leonardo」の機械学習能力を活用する機能群も盛り込まれている。たとえば顧客対応を行うチャットボット「Conversational Bot」では、顧客の在庫問い合わせに対して単に「在庫がある/ない」だけを答えるのではなく、在庫数や生産計画といったS/4HANAのデータも参照しながら「ご希望される100個のうち、80個は在庫があるので明後日、残り20個は来週金曜日に納品できます」といった高度な回答が可能になるという。
またマーケター向けの「Customer Retention」は、顧客情報を参照して「この顧客は優良会員だが、購入頻度がこの半年ほど落ちている」「当社ECサイトへのアクセス頻度が落ちている」といったアラートを上げてくれる。コールセンター向けの「Similar Ticket Recommender」は、コールセンターで受けた問い合わせやクレームに対して、Leonardoが過去の類似ケースを瞬時に提示してくれる機能だ。
なおCustomer Data Cloudでは、サイトでの登録やソーシャルログインを通じて顧客の同意のもとで得られた信頼性の高い個人情報を一元管理する。プライバシー(GDPR対応)やセキュリティを守りつつ、与えられた権限に基づいて各アプリケーションからデータを収集し、よりパーソナライズされた顧客体験を提供可能にする基盤となる。
「海外売上比率20%以上」などターゲット顧客を強く絞り込み
高山氏は、SAPジャパンが日本市場で実施した消費者意識調査に基づいて、現在の消費者は「より良い顧客体験」や「顧客主導の個人情報管理」を求めていること、「同意を得ない個人情報の再利用」や「カスタマーサービスへの不満」などがその企業/ブランドと“決別”する大きなきっかけになることなどを説明した。
そのうえで高山氏は、最良の顧客体験を実現するためには「5つの要素が必須だと考える」と語った。そして、C/4HANAではそうした要素を実現しているという。
具体的には、グローバルで統一されたチャネル/体験をもたらす「デジタルファースト」、最初のアプローチからアフターサービスまでの「エンドトゥエンドでの顧客ケア」、デジタルだけでなくイベントやファンサイトなども含む「あらゆる顧客接点の管理」、“在庫切れ”などをすぐに解消する「バックエンドシステムとの連携」、そしてパーソナライズのための個人情報収集に不可欠な「顧客からの高い信頼」、という5つだ。
C/4HANAの具体的なターゲット業種としては、精密機械や産業機械、部品製造、組立製造などの「製造業」、小売/卸やアパレル、消費財、旅行業などの「小売卸売業」、そして通信や公益(電力、ガスなど)、保険といった「サービス業」の3つを挙げている。それらの業種内でも、さらにいくつかの条件でターゲットを絞り込んだ戦略を立てていると、高山氏は説明する。
「企業規模は問わないが、特に、海外売上比率が20%以上と高い企業、ECサイトなどデジタルチャネルの売上比が10%以上ある企業、ECだけでなく実店舗など顧客接点を3つ以上持つ企業に適していると考えている。その理由は、そうした企業ではシステムが複雑化し、ボトルネックが多くなりがちだからだ」(高山氏)
発表会にはゲストとして、C/4HANA導入企業であるスノーピーク 取締役 執行役員のリース能亜氏も出席し、導入に至った背景を説明した。
1959年からアウトドア製品を製造してきたスノーピークでは、2014年以降、アパレル製造を皮切りにアーバンアウトドア製品製造、グランピング施設運営、地方創生コンサルなど、グループ会社を拡大しながら多様なセグメントでのビジネス展開を進めている。海外市場にも進出している。
その結果、事業/市場ごとにシステムとオペレーション基盤が分割され部分最適化が進んでしまった。また、顧客接点も急速に増加(店舗、EC、イベント、SNS、アフターサービスなど)したが、これを統合的に管理する仕組みもなかった。
そこで同社では、C/4HANAのMarketing CloudとCommerce Cloud、さらにS/4HANA Cloudを採用した。リース氏は、C/4HANAとS/4HANAの導入で「顧客接点の最大化」「海外/事業セグメント横断モデル」「コストの最適化」という3つを実現したいと考えたと語る。
「導入して1年と少しだが、徐々に効果が表れてきている。特にフロント、直営店でもだいぶ改善が見られるし、生産性が上がっていることも実感している。在庫管理など、われわれのオペレーションでも、プロセスの平準化が進んでいる。まだ道半ばだが、継続的に改善していく。PDCAサイクルも、フロントとバックエンドの基盤が統合されたことで早くなった」(リース氏)