さくらインターネットが4月から提供開始した「AWS接続オプション」は、マルチクラウドへの道を開く重要なサービスだ。そんなサービスのインパクトについて、さくらインターネットの鷲北賢氏と、さくらのパートナーネットワークに参加したオルターブースの2人に話を聞いた。(インタビュアー アスキー編集部 大谷イビサ 以下、敬称略)
各社のクラウドサービスをつなぐ構想は5年前からあった
大谷:4月にさくらのクラウドとAWSを相互接続できる「AWS接続オプション」の提供を開始しました。これによって、複数のクラウドを適材適所に使い分けるマルチクラウドがよりやりやすくなったと思うのですが、ここに至るまでの経緯をまずはお聞かせください。
鷲北:はい。各社のクラウドサービスを相互接続するインタークラウドの構想は、5年前くらいからありました。接続するのはL2か、L3か、プロトコルはBGPがよいのかといった議論を、AWS Direct Connectが出る以前から事業者間で話していたと思います。そのため、技術的には接続可能だったのですが、案件がなかったので、なかなか動きにくいという感じでした。
大谷:なるほど。各社のクラウドをつなぐというニーズ自体がなかったのですね。
鷲北:お客様からは1本1本の回線サービスに見えるのですが、弊社側の施設ではわりと大きな機材が入っており、内部的に複数の回線を集約しています。裏を返すと、ある程度のお客様の数がつかないと、収益化できないことがわかっていたので、なかなか本番サービスには踏み切れませんでした。
そんなとき、2年前くらいに大きな事業者様がAWSとさくらインターネットを両方使っていて、両社を専用線でつなげないかという話がありました。「インターネットVPNでは通信が安定しないので、専用線でつなぎたい」という要望です。これは願ったりかなったりだということで、つながせていただききました。だから、当初はAWS接続って、そのお客様専用のメニューだったんです。その後、技術要件をまとめ、メニュー化を進め、4月に本番サービスとしてリリースしたという流れになります。
大谷:個人的には、ようやくクラウド同士をつなぐ時代になってきたかなというのが、正直な感想です。エクイニクスとか、かなり以前から相互接続まで進んでいたわけで、肌感覚的には、もう1~2年早くてもよかったかなとも思います。
鷲北:繰り返しの話ですが、インタークラウドの話って4~5年前から事業者間では進んでいたんです。でもやっぱりお客様とニーズありきなので、機が熟したかなという感想です。
必要なサービスを使っていったらマルチクラウドになった
大谷:次にそんなさくらインターネットのパートナーとして、こうしたAWS接続サービスを活用したいというのが今回登場してもらった福岡のオルターブースさんです。まずは会社の説明をお願いします。
藤崎:はい。基本的にはマイクロソフトのパートナーとしてAzureの案件を手がけているクラウドインテグレーターです。OSSやPaaS、サーバーレスを用いて、なるべく開発せずにお客様の課題を解決するのを目指しています。あと、最近ではオリジナルソースやドレッシングが作れる「マイソースファクトリー」という自社サービスも手がけています。
大谷:鷲北さんはオルターブースについて、どんな印象を持っていますか?
鷲北:オルターブースさんとは、弊社の福岡オフィスやFukuoka Growth Nextでのイベントで、これまでも何度かごいっしょさせてもらっています。福岡を拠点にして、いろいろ面白いことをやっている会社だなという印象です。あとは、AzureやAWSなど複数のクラウドを使いこなすのが上手というイメージがあります。
森田:もちろん、われわれはマイクロソフトのパートナーではあるのですが、受託開発ではAWSも用いていますし、僕も入社した当初の得意分野はAWSでした。マルチクラウドでいいところを組み合わせていきたいという指向があります。
藤崎:マイソースファクトリーも、当初Azureだけで作ろうと思ったら、どうしても認証周りが弱くて、AWS CogniteとAPI Gateway使いましたからね。でも、必要に応じて、各社のサービスを連携できるとできることも拡がります。
大谷:AWSのJAWS-UGとか行くと、普段はAWSを使っているけど、データ分析だけは絶対BigQuery使いたいという話、たまに出ますからね。やはりキラーサービスの存在は大きいですよね。
森田:われわれもマルチクラウドにこだわっているわけではない。普通に各ベンダーのいいサービスを使おうと思ったら、結果的にマルチクラウドになるわけです。さくらとAWSがつなげるとそういったことがやりやすくなります。
大谷:オルターブースとしてはもともとコミュニティを介して、マルチクラウドの技術は吸収していたんですよね。
森田:はい。マイクロソフトのJAZUGやJAWS-UGを主催していたりもしていますし、sakura.io(旧:さくらのIoT Platform)とAWS IoTをつなぐみたいなイベントもやっていました。福岡ってクラウド界隈の人同士が近いんです。
大谷:天神と赤坂界隈で全部済むみたいな(笑)。
森田:そうそう。GCPをやっているグルーヴノーツさんとかもいるので、AWSとAzure、GCPの3グループで合同イベントとかできるんです。こういうのって、東京ではなかなかできない。福岡っぽいイベントじゃないかと思います。
結局、参加した人がベンダーの人を巻き込んで、さくらインターネットの福岡オフィスでまたマルチクラウドのイベントやるとか、4月にはJAWS-UGでさくらのエバンジェリストが来てくれて、AWS接続について話してくれました。発表されたばかりだったので、日本で一番速かったんじゃないですかね。
藤崎:20~30分くらいかけて、AWS接続の使い方を説明してくれました。こうしたらコストが下がるとかかなり実践的な内容で、参加者の方もかなり関心持ってくれました。
マイクロサービスの実行基盤でさくらを使いたい
大谷:オルターブースが今回さくらとパートナー契約を結ぶまでの経緯を教えてください。
藤崎:もともとさくらインターネットが福岡にオフィスを出されたときから、なにかしらいっしょにやりたいなとは思ってました。さくらの福岡オフィスはイベントでも使わせてもらっているし、ふらっと相談できるので、本当にありがたい。地元のエンジニアやスタートアップが集まるハブなんです。こうした関係もあり、さくらとのパートナー話はずっと温められていた感じです。
大谷:なるほど。さくらインターネットとの関係はもともと深くて、今回のパートナーネットワークの加入で、より関係が強化されたわけですね。
藤崎:はい。最近、弊社では技術的にはOSSとマイクロサービスを指向するようになっています。そうなると、AzureやAWSにこだわらず、いろいろなプラットフォームでわれわれの技術やノウハウを拡げられるのではないかという話になり、さくらさんとのパートナー契約を結んだという経緯です。
大谷:オルターブースとしては、さくらインターネットのサービスを用いて、どのようなサービスを展開していく予定なのでしょうか?
藤崎:弊社では「KOSMISCH(コーズミッシュ)」というマイクロサービスの実行基盤をプラットフォームとして提供しています。これをさくらのインフラ上で展開する予定です。コンテナを用いて、上位のアプリケーション層からインフラを抽象化して見せるというのが、われわれの戦略です。実際に先日のクラウド コンピューティング EXPOではデモ環境をお客様に披露しました。
森田:現状、さくらのクラウドでコンテナを動かす場合は、自分たちでクラスターを組むしかない。だったら、それをわれわれがサービスとして提供していこうという発想です。
藤崎:われわれとしてはアジャイルなサービスを集約できる、エンタープライズの利用に耐えうるマイクロサービス基盤を提供していきたい。とはいえ、こうした実行基盤を提供するにあたっては、やはりデータベースが鍵になるので、そこはAWS接続でAuroraと連携することを考えています。その意味でAWS接続オプションがきちんとメニュー化されているのはメリットです。
大谷:そういう方向性だと、確かにいろいろな事業者とつなぐ必要がありますね。
森田:AWS Direct Connectって敷居が高いんですよ。高価だし、まだまだエンタープライズ向けだなと。国内クラウドの事業者では相互接続はまだあまりないのかなと。
大谷:確かにキャリアクラウドとかパブリッククラウドとの接続サービスを始めていますけど、あくまで自社クラウドありきですし、まだまだ高価ですからね。
森田:その点、さくらのAWS接続オプションは価格面でもかなり安価です。
鷲北:価格も重要なファクターなので、そこはわれわれも意識してますね。サーバーやブリッジ接続が安価なのに、他のクラウドとつなぐと何十万もかかってしまうのはやはりバランスがとれません。その点、今回のAWS接続オプションはある程度回線の集約が見込めるので、現実的な金額で提供できるようになりました。
藤崎:うちとしては「どこかのクラウドに強いオルターブース」ではなく、「マイクロサービスに強いオルターブース」になっていきたいんです。そうなると、いろいろな事業者と組んだ方が、価値が出せると思っています。
マルチクラウド時代のさくらインターネットの強み
大谷:さくらインターネットがこうしたインタークラウドを推進する理由はどういったところにあるんでしょうか?
鷲北:やはり、お客様はほしい機能のあるサービスを使います。その点、さくらのクラウドはメガクラウドに比べて、どうしても実装できていない機能がある。そのため、AWSなり、Azureでしか使えない機能を連携するためには、こうしたAWS接続を使っていただくのがよいかと思います。
とはいえ、さくらでしか提供できない部分もけっこうあります。どちらか一方しか使えないというのは、お客様にとってももったいない。だからインタークラウドで異なるクラウドをセキュアにつなげて、AWSとさくらのいいところを両方とも使ってほしいという思想が根本にはあります。
藤崎:クラウドもそうですが、専用サーバもメリットがあると思っていて、やはり性能面で期待があります。マイクロサービスのクラスターを組むのには、やはりさくらの専用サーバのような物理サーバーが向いています。
鷲北:そうですね。他社ではベアメタルという形で提供しているサービスですが、弊社では物理サーバーをそのまま提供しています。性能面も高いですし、デプロイまでの時間も短いので、負荷の高い処理でもこなせます。
藤崎:あと、高火力コンピューティングもけっこう興味があって、機械学習させた結果をサービスに戻すといったことが安価にできるかなと思っています。
大谷:パートナーになったことで、さくらのサービスもある意味「部品」になるわけですね。
藤崎:今回のクラウド EXPOではさくらさんはある意味黒子に徹していただいて、われわれのソリューションを前面に打ち出してもらったので、とてもありがたかったです。もちろん案件としてはAzureやAWSはやはり多いのですが、今後はさくらも提案していきますので、お客様にはいろいろな選択肢を提案できるようになります。
さくらと新しいクラウドの価値を訴求していきたい
大谷:最後に今後に向けた要望をお聞かせください。
藤崎:われわれとしてはやはりAzure接続もぜひお願いしたいです。
鷲北:AWS接続オプションとも考え方は同じなのですが、われわれもAzureやGCPとは積極的につないでいきたいと考えています。ただ、発注にまで至った案件がないので、現状は難しいという状態です。今回のパートナーシップを機に、案件が増えていけば、どんどん接続できると思います。
藤崎:じゃあ、われわれもがんばって案件作らないとですね(笑)。
あとは、さくらと組んでいくと、いろいろ仕掛けていけるかなという期待があります。マイクロサービスってまだまだ未知数なので、先日のイベントでも正直素通りされる方も多かったんです。とはいえ、アーキテクチャ設計などに悩んでいるSIerさんとかで話をガッツリ聞いてくれる方もいましたので、そういった人にリーチできるような企画やイベント仕掛けられたらなと思います。
(提供:さくらインターネット)
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