起業家が集まる 市場拡大するドバイのビジネスハブ
「ドバイ発! スタートアップ・エコシステムイノベーションセミナー」レポート
ジェトロは2018年6月26日、東京・神谷町のコワーキングスペース“dock-Toranomon”にて、セミナー「ドバイ発! スタートアップ・エコシステムイノベーションセミナー」を開催した。
政府の積極的な取り組みによりイノベーションハブとして急成長しているドバイは、自動運転など大型実証実験の場、中東・アフリカ地区のマーケットへのエントリーゲートとして、スタートアップから注目を浴びている。2018年10月14日~17日には、ドバイ・ワールド・トレードセンターにて、中東・アフリカ最大のIT展示会「GITEX」が開催される。「GITEX Future Stars」エリアに日本のパビリオンも設けられる予定だ。
セミナーでは、ジェトロ ドバイ事務所の山本和美氏が「中東とアラブ首長国連邦の経済概況」という題で中東地域の紹介。中東地域における著名な起業家であり、ジェトロのドバイハブ拠点のパートナーでもあるAYM Commerceのマネージング・ディレクター、ポール・ケニー氏が「ドバイのエコシステムの最新動向とその魅力」の題で登壇した。
人口増加、若年層率の高さで注目の新興市場、MENA地域
新興市場として注目を集めている中東・北アフリカ地域(通称MENA)の特徴は、人口増加にともなう市場規模の拡大だ。2000年からの20年間で人口が53.5%増加しており、MENA20ヵ国で4億7千万人、トルコやパキスタンなど中東を加えると7億人を超え、ASEAN以上に巨大なマーケットが生まれている。また、平均年齢28歳と若年層が豊富なため、長期間にわたる消費が見込まれる。
この人口増加や経済成長にともない、2000万人台だったインターネット利用者数は、2017年には約1億7300万人にまで増加。しかし、インターネット普及率は、バーレーン、カタール、UAEなどは90%を超えている一方で、世界平均の45.9%を大きく下回っている国々も多く、MENA地域のインターネット利用者数は、まだまだ増えていくと予想される。
MENA地域のビジネスハブとして成長するドバイ
ドバイは、アラブ首長国連邦(UAE)を構成する首長国のひとつ。UAE国内では、豊富な石油資源あるアブダビが圧倒的な地位を占めているが、石油資源に乏しいドバイは、空港・港インフラ、ビジネス環境の整備、治安の維持に力を入れ、ビジネスハブとして急成長している。
2017年には海外から1580万人がドバイに来訪。企業の投資は、対西アジア直接投資額の約3割をUAEが占める。Forbesに掲載されたグローバル企業100社のうち約半数がドバイに拠点をもっているという。
脱石油で産業創出・起業ニーズが増加、世界の起業家がドバイに集中
MENA地域全体では、世界平均と同等の成長率だが、石油依存の強いGCC諸国は成長率が低迷しており、各国が脱石油の長期ビジョンを発表している。知識経済、スマートシティー、教育、Eコマース、省エネ・再生可能エネルギー等の新分野での産業創出のため、これらの技術をもつ国外企業の誘致に積極的だ。また非産油国では、失業率が10%超の国もある。こうした国々ではシードファンディングやアクセラレーターなど、アーリーステージの起業支援が求められている。
UAE、ドバイでは、物理ハブから知識ハブへの転換を目指し、イノベーションの出会いの場、実験場を提供することで、世界中から高レベルの技術やアイデアを集めている。MENA諸国を中心に起業家が集まっており、MENA地域の投資家は31%がUAEに集中、スタートアップの42%がドバイに集積しているとのこと。
急速に成長する中東地域は消費にどん欲、ブランド進出には絶好のチャンス
アイルランドの大学でビジネスを専攻していたPaul氏は、2004年にドバイで休暇を過ごし、インターネットで本を買おうとしたところ、Eコマースがなく、本が買えないことに気付いたという。その後、22歳でインターンとしてドバイへ。2010年8月に140万ドルを資金調達し、ドバイ初のEコマースの会社Coboneを立ち上げた。
Coboneは、グルーポンに似たクーポン販売のビジネスモデルだが、中東には、オンライン決済の仕組みがなく、プリントしたチケットをバイク便でお客さんのところまで運び、代金を受け取っていたという。サービスは、2012年12月までの総売上額は3300万ドル、従業員数120人を抱えるまでに成長した。月に30人の社員を新たに雇用したが、ドバイ初のEコマース会社のため、経験者は皆無。すべて自社でトレーニングをしなくてはならなかったそうだ。
その企業を4000万ドルで売却し、現在はAYM COMERCEを設立し、スマホアプリで生鮮食品を注文できる宅配サービス「Online Grocery Delivery in the GCC」を展開。1時間当たり2000人が注文、月30%の成長を続けており、2年間で数億ドルの規模になる見込みだ。
中東地域は急速な人口増加に加えて、生活レベルも上がっている。2022年にワールドカップが行なわれるカタールの1人当たりGDPは、12万4900ドルと日本の2.5倍。所得税がないため、可処分所得が大きい。外国のブランドを好み、世界中のさまざまなブランドが地域にちなんだ商品を出している。
また過酷な気象条件から、水、食料、エネルギー不足に対応できる産業のニーズが高いそうだ。
Paul氏は、自身の経験をもとに、国外企業に中東マーケットを紹介する事業も行なっている。「中東地域には4億3000人が住んでいるが、小さな国が集まっており、国ごとに性質が大きく違う。サポートなしでビジネスをやるのは難しいが、大きなビジネスチャンスがある地域だ」とPaul氏。なお、UAEは86%が外国人なので、アラビア語がまったく話せなくても大丈夫。英語さえできれば十分にビジネスは可能のようだ。
昨年のGITEX 2017では、シェイク・モハメド氏がジェトロの日本パビリオンを訪問するなど、UAE政府は日本のスタートアップ誘致にも積極的だ。昨年出展したスマートメディカルは、現地でのピッチコンテスト「Accenture Innovation Award」のAI部門で優勝している。
「中東は、対面での交渉、ネットワーキングを重視する文化。ぜひこの機会にGITEXに参加して、中東地域への進出の足掛かりにしてほしい」とPaul氏は語った。
世界12拠点のグローバルアクセラレーション・ハブ
ジェトロでは、中小・スタートアップ企業の海外展開を支援する事業「ジェトロ・イノベーション・プログラム(JIP)」を実施している。この事業は、海外アクセラレーターと提携し、メンタリングや展示会などへの出展、現地ネットワーキングなどを支援するものだ。
また、2018年度よりボストン、パリ、ベルリン、ロンドン、ヘルシンキ、テルアビブ、ベンガルール、ドバイ、シンガポール、上海、深センなどの地域でエコシステム先進地域に「ジェトロ・アクセラレーション・ハブ」を設置。現地におけるサポートにも力を入れている。現地メンターによる事業戦略立案に関するメンタリング、アクセラレーターのコネクションを活用した現地企業やVCとの面談アポイントメントの取得、コワーキングスペースといったサービスを無料で提供している。コワーキングスペースは、2週間程度無料で利用できるので出張時に活用できそうだ。