業務効率化先端研究から生まれた国内トップシェアRPA「WinActor」
PCで行なっている単純作業をソフトウェア上のロボットが代行してくれるRPAソリューション。連載第2回目は、市場でトップシェアを誇る企業への取材となる。純国産ツール「WinActor」(ウィンアクター)は、国内で1000社以上に導入されているという。今回は「WinActor」のデモを拝見しつつ、そのシェアの裏側をうかがってみた。
自社の業務効率改善に使うツールから生まれたRPAツール
ここ数年で一気に盛り上がっているRPA市場だが、現在国内シェアトップを走っているのがNTTデータの「WinActor」だ。2014年からサービスを提供しており、ユーザー企業数は1000以上。しかし、そんな人気のRPAツールだが、実はRPAプロダクトとして開発されたわけではなかった。
「WinActorは2014年に販売を開始したのですが、それまでは帳票OCRソフト『Prexifort-OCR』のオプションとして提供していました。紙の書類をデータ化してテキストに変換し、基幹システムに入れるのですが、その際にインターフェースを開発することがありました。たとえば、OCRサービスが100万円なのに、インターフェースの開発費が1000万円といったことがあり、ここを自動化できたらいいなと考えたのです」と株式会社NTTデータの中川拓也氏は語る。
結果、インターフェース開発をせずとも基幹システムに入れられる部分を売りに「WinActor」は登場した。そもそもが高額なSI業務をなくすのは、企業としては英断とも言える。しかし、中川氏はもうそういう時代ではないと覚悟を決めたそう。NTTデータとしても、営業サイドから心配の声はあったが、上層部も変わらなければいけないという意識があり、止められることはなかった。
さらにユニークなのが、WinActorは現在のRPAを意識して開発されたのでもないということだ。
「もともとは2010年に横須賀にあるNTTの研究所から生まれたものなんです。回線のテストや電話の新規契約注文の受け付けといった、NTTグループ内の業務を効率化して、オペレーターの負担を軽減しようとしたのです。そうしたら、NTTグループの中でも評判が良く、『これは外に持って行こう!』と、2014年に提供が始まりました」(中川氏)
海外で生まれた一般的なRPAツールは、ソフトウェアの開発テストツールからスタートしていることが多いが、WinActorは最初から業務改善ツールとして生まれたという特徴がある。そのため、エンジニアでなくても使えるように設計されている部分が強みとなる。
2014年から提供し始めたWinActorを導入した顧客がOCR以外にも活用していることがわかり、2015年からはオプションとしてだけでなく単体でも打ち出していくことになった。
人の3倍の速さで、3倍長い時間働き続けるRPA
RPAは製品概要を見るだけでは、実際のところを理解しにくい。そこで、リアルに動作しているデモを見せてもらった。デモをしてくれたのは、中川氏と同じ株式会社NTTデータの佐藤善毅氏。
例として挙がったのが、エアコンの工事業務として、コールセンターに入った連絡からエクセルで名簿を作り、ワードで取り付け指示書を作るケースだ。画面の左側にエクセル、右側にワードを起動し、WinActorの「実行」ボタンをクリックすると、自動処理が始まった。
ロボットが受付番号や顧客の名前などをエクセルからコピー&ペーストでワードに入力していく。続けて、エクセルから住所をコピーし、地図ソフトを起動して、住所をペースト。検索結果の地図を拡大して範囲を指定し、画像に変換する。ワードにその画像を貼り付け、最後に受付番号をファイル名にして保存する。そして、エクセルの行数分、この作業を繰り返してくれる。
操作はWinActorが行なっているので、とにかく早い。人間なら時間がかかるうえに、ミスも起きそうだし、あまり面白い作業でもない。これをRPAツールがサクサク処理していくのを目の当たりにすると、企業が欲しくなるのも当然と感じた。
実際の所、どのくらいの生産性向上につながるのだろうか? という質問には、「操作速度は人間の3倍で、8時間働く人間と比べると3倍の24時間動作できるので、9倍になります」(佐藤氏)とのこと。
次に、シナリオを作成するデモを見せてもらった。昔ながらのウィンドウズアプリのような画面の左側に多数の機能名が並び、その右側にはフローチャートのような図が表示されている。隣には、ブラウザーで住所管理システムが開いており、入力の自動処理化を行うことに。
まずは、WinActorで「録画」ボタンをクリックする。実際に担当者が手入力するように、住所管理ツールで住所コードを選んだり、数字を入力したりしていく。すると、WinActorが住所管理ツールでの構造解析を行ない、人間がどの場所でどんな操作をしたのかをルール化してフローを作っていく。
「今、条件の所にデータを入れて検索し、結果が表示されたら変換してデータベースを更新するという作業を作りました。これだと1回の処理で終わってしまうので、実際は左側のボタンを使って味付けしていきます」(佐藤氏)
分岐ボタンをドラッグ&ドロップして条件設定をすると、状況によって異なる動作を実行できる。切ったり貼ったりと、パズルのような感覚でシナリオを作れるのが、WinActorの特徴だ。ただ、BtoCサービスのように個別の機能に詳細な説明が付いているわけでもなく、いきなり使いこなすのも難しそうに感じた。そんな人のために、研修メニューも用意されているそう。
「初級メニューの場合、1日でWinActorの概要をわかっていただけます。しっかり覚えていただくのに3日間くらいかかる中級メニューもあります。プログラミング経験のない人だと3週間くらいで使いこなせますし、プログラマーだと1週間かかりません。これは、操作が難しいのではなく、ライブラリ(機能)のボタンが全部で400種類くらいあるのですが、どこに何があってどう使うのかというのに慣れる必要があるためです」(佐藤氏)
ほとんどマウス操作で済み、プログラムを書いたりする必要がない。純国産だから当然日本語に対応している。そのため、業務の流れを整理する能力があれば、誰でも使えるのがウリ。実際、一番多いユーザーは財務や経理部門だそう。従来のように、情報システム部やベンダーに依頼する必要がなく、現場で働き方改革を自分たちで実現できるというのだ。
「WinActorは、現場からのボトムアップの働き方改革に向いています。面白いのが、いろいろな会社の現場に『WinActorマスター』が登場してきていることです。業務知識しか持っていない人が、WinActorを使いこなして活躍しており、経理部なのに総務部の支援に行ったり、デジタル推進部に呼ばれたりしています。RPAは働き方改革に効くと言われていますが、情シスさんしか使えないツールだと現場の反発を招いて改革にならないこともあります」(中川氏)
ライブラリは、エクセルやIEを中心に、IBMのノーツやSAPといったツールのボタンも作っているという。今更ノーツを? とも思うが、金融機関ではまだまだノーツを使っているところがあるようだ。
たとえば、エクセル関連では、ファイル名を取得したり、ファイルを保存したりするボタンが用意されている。基本的なところだと、行列操作で最終行を取得したり、セル操作でセルをアクティブ化したり、セル内の値を取得したりできる。そのアプリで可能なアクションをひとつひとつ部品化して、手軽に利用できるようにしているのだ。
さらに、リモートデスクトップのウィンドウ内などで構造解析ができない場合でも、画像マッチングや座標指定という機能を用意。アイコンなどを判別し、想定する場所に指定の操作を実行できる。
たとえば、スキャンした請求書がPDFで送られてくる場合、画像マッチング機能で金額部分を判別し、OCR処理でテキスト化して、データをWinActorで取り込むといったことが可能になる。
中堅・大手の1万2000社がターゲット
好評を博す現在だが、当初の「業務自動化ツール」から2016年に「RPAツール」への切り替えたことが大きく寄与しているようだ。
「NTTデータの子会社でもあるスペインのIT企業『Everisグループ』と、2016年にOCRビジネスを共同検討していました。議論の中で、彼らが力を入れているプロダクトとして見せてくれたのがRPAでした。ロボットがBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の代わりに仕事をしてくれると言うのですが、あれ、これWinActorだ、と笑」(中川氏)
それまでは「業務を効率しませんか」と話すと「もうやってます」とか「これ以上やることはありません」と返答されていた。しかし、「ロボットにやらせたい仕事はありませんか?」と聞くと、いろいろと答えが出てくるという。売り方も、RPAツールという打ち出しで、ロボットのイラストを付けたりし始めた。
気になる価格はフル機能版が年額90万8000円で、実行版が年額24万8000円。だいたい、1日に3時間自動化したい業務があればペイするそうだ。1ヵ月間のうち、誰かが3~4日間手作業しているという感じだ。もちろん、契約してしまえば、それ以外の作業にも利用できる。
RPAツールと言えば、導入には数百万円から数千万円かかるイメージがあるが、NTTデータというブランドもあるのに、年額100万円は安く感じる。90万8000円という値付けは、部長職の決済額は100万円までということが多く、そこを狙ったという。サポートにも力を入れているそうで、シェアナンバーワンというのも納得だ。
現在は約1200社がWinActorを利用しており、8割が一般企業で、中でも製造業が多いそう。そのほかは、金融機関が約2割で、公共機関が1%といった割合だ。
「WinActorは中堅大手の1万2000社をターゲットにしています。その中で、シェア40%を目指しているので、ざっくり5000社が目標です。昨年は1000社で、今年は3000社まで伸ばせるのではと思っています。会社規模では500人以上の企業が多いですが、1日3時間くらいの作業を自動化すればペイするので、最終的には10人くらいの会社にも導入されるのかな、と思っています」(中川氏)
エクセルやブラウザだけでなく、基本的にどんなアプリのどんな操作も自動化できるWinActor。価格の安さに加えて、ノーコードで現場の人間がシナリオを作ったり改良したりできるハードルの低さも魅力的だ。代理店での販売も好調で、こちらはドアノックツールとしての側面もあるという。
プログラミングが必要だったり、現場でのカスタマイズが難しいほかのRPAツールから乗り換えでWinActorが選ばれることも増えているとのこと。WinActorの今後の動向も注目していきたい。