de:code 2018レポート:400校で使われている「Minecraft: Education Edition」
プログラミングやデジタル工作、化学も算数も学べる「教育版マイクラ」
2018年05月31日 13時00分更新
日本マイクロソフトは2018年5月22日から23日の2日間、都内で開発者向けカンファレンス「de:code 2018」を開催。170を超える幅広い内容のセッションが設けられた。本稿ではその中から、「教育版マインクラフトで始めよう。小中学生のプログラミング学習!」セッションの概要をレポートする。
マイクロソフトが買収して教育要素を高めた「教育版マイクラ」
2020年度から小学校でプログラミング教育が始まる。国数理社などに並んで“プログラミング”の教科が新たに加わるのではなく、既存の教科の中で、情報活用能力の育成や、ICTを活用した学習活動を充実させることが目的だ。また、中学校でも、2021年度に技術・家庭科において情報関連の単元が倍増し、2022年度にはプログラミング学習が必修教科となる。
セッションに登壇した日本マイクロソフト パブリックセクター統括本部 文教本部 ティーチャーエンゲージメントマネージャー 原田英典氏は、「小学生にVisual Studioを用いて(C#などの)開発言語でプログラミング教育を行うのは現実的ではない。現在小学校でアルファベットを教えるのは小学6年生、ローマ字でも小学3年生の3学期。つまり、4年生にならないと(英語を用いるのは)難しい。だが、プログラミング的思考は早期から学ぶ・体感するのが重要」と説明。プログラミングを早期から体験し、プログラミング的思考を学ぶための教材として、教育版マイクラである「Minecraft: Education Edition」に注目が集まっているという。すでに約400の学校で、教育版マイクラが授業に活用されている。
Minecraft(マイクラ)は、サンドボックス型のサバイバルゲームとして人気を博したタイトル。マイクロソフトは、2014年11月にマイクラを開発したスウェーデンMojan社を子会社し、Minecraftの世界観を踏襲しつつ教育要素を高めた「Minecraft in education」を2015年7月に発表。2016年11月に、Minecraft in educationをベースにした現在の「Minecraft: Education Edition」(教育版マイクラ)の提供を開始した。
教育版マイクラでは、マイクラの世界に外部から命令を伝えるミドルウェア「Code Connection」を用意し、実際のコードは「Code.org」「MakeCode」「Scratch」「Tynker」といったツールを用いて開発を行う。Windows 10もしくはmacOSのクライアント環境で動作し、Office 365 Educationライセンスで利用する。基本的に有償ながらも、使用期間と起動回数の制限(1アカウントにつき10回)がある試用版が誰でも利用可能になっている。
教育版マイクラの学習活用例として多いのが、複数の生徒が同じ世界に参加し、その世界を作り上げる協働創作だ。リアルの世界にあるものをゲームの世界に創造できるマイクラのゲームの特性を生かし、例えば、マイクラの世界で経済成長や環境保護といった地球規模の課題に触れ、国連が掲げる世界を変えるための17の目標「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」をゲーム内で実践するといった教育が可能だ。
一般向けのマイクラをプレイしたことがある方ならご承知のとおり、その世界に放り出されても、当初は自分がどこにいるのか把握することすら難しい。教育版マイクラには授業での利用を支援する機能があり、教師は管理コンソール(クラスルームモード)から参加中に迷った生徒(プレイヤー)を空間内で移動させ、それぞれに役割を与えるといった指示が可能になっている。
元素記号で化学式を書き、化学現象を再現
そのほかにも、教育版マイクラには様々な学習要素がある。例えば、「デジタルモノ作り」の教育で、マイクラ内で作成した建築物を3Dデータとしてエクスポートし、AR(拡張現実)出力や3Dプリンターによる造形に用いられるという。
また、教育版マイクラでは化学を学ぶこともできる。4月に追加された「Chemistry Update」機能を使うと、水素、ヘリウムなどの元素記号を組み合わせて、実際の化学現象をゲーム内で再現できる。「元素から通常のマイクラにはないアイテムを作ることもできるので、遊びながら元素構造を学ぶなど、中学校の化学と相性が良い」(原田氏)。
スクラッチやMakeCodeのプログラミング環境と連携
もっとも重要なのがプログラミングだ。通常のマイクラにも、理論回路を構築するレッドストーンや世界を制御するコマンドブロックが用意されており、「採掘した物品をチェストに格納すると窯で焼きを入れる」「トロッコを使って物品を分類する」といったプログラミング的な操作が可能である。
加えて、教育版マイクラには学習を支援するための独自ブロックが存在するほか、前述のようにCode Connection経由で「Code.org」「MakeCode」「Scratch」「Tynker」などのビジュアルプログラミング環境から世界を操作できるようになっている。
原田氏のデモでは、Code Connection経由でMakeCodeを起動し、眼下に広がる草原上に自由にブロックを組み合わせて仮想空間の摂理をプログラミングする様子を紹介した。チャットコマンドで特定の文字列を入力すると、MakeCode上でプログラミングした内容どおりに、プレイヤーの分身となる代理人ロボットが動く仕組みだ。下図に示したのは、チャットコマンドで「run」と入力すると、代理人ロボットが目の前にブロックを1つ設置して移動し、さらにその上に登る。デモではそれを100回繰り返した。
ご覧のとおりコマンドが文章になっているため、教室の現場でも教師から「教えやすい」と評価されるという。生徒たちは教師が用意したステージクリア型の世界を使い、設問に応じてエージェントを制御する方法を学び、遊びながらプログラミングを学んでいく。
「座標」の概念を教える場面でも教育版マイクラは威力を発揮する。従来の教育では、ジャングルジムなどを例に、XYZ座標の概念を子供にイメージさせていた。しかし、パイプで構成された遊具は逆に分かりにくい面もある。マイクラの世界はXYZの座標で管理されており、前述のプログラミングの例では1つのブロックが3つの座標に存在する。座標、3次元の図形を理解する上でもマイクラが役立つのだ。
高等教育でコーディングを学ぶ教材としても活用
高等教育での活用事例もある。Code Connectionに対応するMakeCodeなどは、ブロック形プログラミングだけでなく、一般的な開発言語での記述にも対応する。ある高校では、ドローンで取得した建物の高低差をデータ化し、MakeCodeからコーディングして建築物をマイクラの世界内に再現した。
Code ConnectionのAPIやエラーコードについては、ドキュメントまとめられているので、興味をお持ちの方はリンク先をご覧頂きたい。なお、学習環境の独自開発例としては、PythonやHack for Playなどがある。