NVMeの規格を策定するも小型化が難航
打開策としてSATA Expressが生まれる
さてこのNVM Express、Specification 1.0は2011年3月に、1.1は2012年11月にリリースされている。まだ1.0の時点では各社いろいろ試作はしているものの、製品レベルには達していない状況だったが、1.1がリリースされる直前の2012年9月頃にはリファレンスデザインなども登場してきた。
ただこの時点ではまだコントローラーもかなり大きく、またフラッシュメモリーの容量もそれほど大きくなかったので、どうしてもPCI Express x16のカードサイズでないと現実的な製品にはならなかった。
メーカーの中には、独自でコントローラーを作るのではなく、FPGAを使ってコントローラーを構築するベンダーもあり、そうなるとさらにカードのサイズは大きくなる。2.5インチのSSDと同等サイズまで収めることは可能だったが、それより小さくするのは困難だった。
1つには、やはりNVM Expressの仕様がエンタープライズ向けを念頭にかなりリッチな構成になっていたことがある。これを実装すると、どうしてもコントローラーの大きさはそれなりのものになってしまった。
そこでコンシューマー向けに生まれたのが、NVM Expressの代わりにAHCIを利用するSATA Expressである。
NVM ExpressをAHCIに置き換えるだけでコントローラーサイズが小さくなるので、その分SSD上の実装面積が余ることになり、余分にフラッシュメモリーを積めるうえ、コストも下がる。
また、コントローラー側でAHCIをパスして直接ホスト側のAHCIとつなぐことも可能で、この場合は従来と同じつなぎ方ができる。これは、特にノートなどでPCI Expressレーンが余っていない低価格製品向けに有効と判断された。
このSATA Expressの規格はSATAの拡張版という扱いになり、2013年に標準化されている。実際2013~2015年頃までは、SATA Expressのコネクターを搭載したマザーボードが多かったし、M.2ソケットもNVM ExpressとSATA Expressの両対応(つまりPCI Expressの信号以外にSATAの信号も配線してある)のものが主流だった。
この状況が変わってくるのは2016年あたりからだったと記憶している。SATA Expressの場合、SATAでつなぐと600MB/秒が速度の上限となるのだが、この頃にはSSDの高速化により、この速度を超える製品が登場するようになってきた。
またプロセスの微細化(特に28nmあたりのプロセスがハイエンド製品向けから普及帯製品向けに落ちてきたのが大きい)により、NVM ExpressのコントローラーもSATA Expressのコントローラーとさして変わらない大きさに収まるようになってきた。
こうなると、無理にSATA Expressを利用する理由もないわけで、フルの性能が発揮できるNVM Expressにのみ対応という製品が増えてくるのは自然の摂理でもある。
PCI Express 4.0の実装で
NVMeはさらに高速化する
もう最近ではSATA Express対応製品はほとんど見かけない(低価格向けに若干残る程度)が、数年(おそらく2020年頃)にはまたラインナップが変わることになるだろう。それはPCI Express 4.0への対応である。
現状、NVM Express対応のSSDはPCI Express Gen3 x4の構成で、これは最大4GB/秒での接続が可能である。ただすでにハイエンドのM.2 SSDはこの帯域に近い性能を出しており、またもやI/Fがボトルネックになってきている。
実はPCI Expressそのものはすでに倍の16GT/秒の速度を持つPCI Express 4.0(Gen4)の仕様策定を完了しており、あとは実装するだけという状況ではあるのだが、PC向けプラットフォームではチップセットとCPUの両方の刷新が必要になる。
連載457回のVROCでも出てきた話だが、CPUとチップセットの間はインテルにせよAMDにせよPCI Express Gen3 x4でつながっているので、まずはこれをGen 4相当に引き上げないと意味がなく、これはチップセットとCPU(ということは、マザーボードを含む全部まるごと)を更新する必要がある。
この更新は2019年あたりから始まる可能性があるが、主流になるのは2020年以降になるだろう。その頃にはNVM ExpressのコントローラーもPCI Express Gen4対応になっており、これと組み合わせることでx4構成で8GB/秒の帯域を利用できるようになるというわけだ。
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