イスラエルのテルアビブで、4月30日(現地時間)から開催中のEuroCrypt。その会場で、IOHKのチーフサイエンティスト、アゲロス・カヤステス(Aggelos Kiayias)氏のお話を伺った。
カヤステス氏は、1,990年代から20年以上にわたって、暗号に関する、研究を続けてきた人物だ。サイバーセキュリティーとプライバシーに関する研究を続けている。2016年からはIOHKとコラボレーション。同社がエジンバラ大学に持つ研究室で重要な地位を占めている
ーーあなたがこれまで取り組んできたことについて教えてください。
Cryptographyの分野は長い歴史がある。1,970年代より前からから、セキュアなコミニケーションを実現するために政府や軍事目的で研究が続けられてきた。この分野で革命が起きたのは、インターネットの影響が大きい。
インターネットが研究室から外へ広がっていく中で新しい形のCryptographyが現実のものとなった。インターネットによって全てのコミニケーションに利用できる技術となったのだ。
1,980年代に入り国際的な研究機関ができた。IACRだ。1982年にデービッド・ショーンが設立したもので、プライベートコミニケーションにおける研究を開始。同時にオープンな環境での研究も進んだ。
その後IACRは、アメリカのCrypto、ヨーロッパのEuroCrypt、そしてアジアのAsiaCryptと言う3大コンファレンスを開催するようになった。論文を正当なプロセスに則り、純粋なレビューとして評価するためだ。
評価方向も特徴的で、2人のチェアマンを設け、40人の委員会によって、論文を選出する。評価の軸は、科学的にメリットがあるかどうかだ。ダブルブラインドテストを採用しており、論文の著者する人も、それをレビューする人も、匿名となっている。中立性を担保し、バイアスがかからないようにするのが目的だ。その意味で、純粋な科学的な価値だけを評価する委員会と言える。評価軸は、それが科学を発展させるかどうかだ。議論には3ヶ月の時間をかける。
ーーこれはブロックチェーンの分野でも同じか。
特にブロックチェーンでは、スポットライトを当てたいとする人々が、外側にいる。ビットコインはなくなるのではないかと言いたがる人もいる。
より重要なのは、我々がビットコインと言うシステムの後に何を学べるかだろう。ビットコインは非常に興味深いシステムだがブロックチェーンを維持できるかどうかが課題になっている。ビットコインを考える上では、1,980年代の試みが良いレッスンになるだろう。
今は様々な考え方やプロトコルが共存している状態なのだ。その中で何を選ぶかが重要となる。スケーラビリティーやエネルギー効率はその観点の一つになるだろう。
フレームワークを作り、比較する。そして深くソリューションの領域に踏み込んでいく。成功に必要なのは純粋な研究機関として存在する組織があり、外と対話しながらプライマリーゴールを作り議論を深めていくことだ。マーケティングの観点はなしにだ。
ーーIOHKが取り組んでいるブロックチェーン技術のウロボロスの特徴について教えて欲しい。
最も重視している事はクリアなものにすることだ。誰かが新しいプロトコルを考えたとき、クリアにその内容を継承できるようにする。フレームワーク化することで別の研究者が問題解決できる環境をつくるのだ。
例えば、大学でプログラミングのアルゴリズム学ぶ学生のことを考えて欲しい。1年で習ったソートのやり方は、卒業するまでに陳腐化してしまうことが多い。より効率的なアルゴリズムが次から次に登場するからだ。同じ課題に対して、どのようなアプローチを取るか選ぶ選択肢は必要なのだ。これが早い立ち上げにつながる。
ーーその開発にあたっては、何を重視しているか。
最もクリティカルだと考えているのは、スケーラビリティーだ。トランザクションが増えることで物理的な限界が生じる、毎秒百万にも及ぶトランザクションをどうスケールするかが大切になる。レスポンスもシビアだ。
もう一つ重要なのはサスティナビリティだ。モノリシックなものになると、重要な進化ポイントが発生したときに、古いものと新しいもののコンフリクトが起きることがある。ビットコインを持ったそうだ。このコンフリクトをなくすために、中央集権的な考え方は難しい。
加えてインセンティブを示すことも大切だ。たくさんのノード上でプロトコルを動かすためにも、ロングタームでセキュリティーや安定性を維持していくためにも。
IOHKが開発した仮想通貨であるカルダーノではステイクプールの考え方が取り入れられている。スモールコミュニティであっても、責任を持ったプロトコルにするためには重要なことだ。ADAのようにトランザクションに対してインセンティブを出すことも考えられる。参加することでそれ自体がギャランティーになるような仕組みが重要なのだ。