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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第456回

いまさら聞けないIT用語集  映像の白飛び・黒つぶれを抑えるHDR

2018年04月30日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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HDR実装の難点は
表示機器の性能とコスト

 このように原理は簡単なHDRであるが、実装はなかなか難しい。そもそもなぜ元のSDRのダイナミックレンジが1:1000程度なのかといえば、表示機器のダイナミックレンジがこの程度に留まっているからだ。

 たとえば輝度を104cd/m2あたりまで引き上げるとなると、ディスプレーのバックライトに相当高輝度の照明を入れないと追いつかないし、それを至近距離から直視したら間違いなく目がやられる。輝度を抑えるために濃い目のサングラスを着用して……なんて話になったら本末転倒もはなはだしい。

 現実問題として屋外の広告(デジタルサイネージ)用のディスプレーで最大1500cd/m2程度ないと、日中に見えにくくなるなどと言われているが、これでも至近距離で見ると相当明るいわけで、普通に利用する液晶ディスプレーでは数百cd/m2程度の輝度に落ち着くことになる。

 その一方で暗いほうはというと、これもバックライトの関係で0.1cd/m2程度が限界で、有機ELディスプレーならもっと暗くできるが、コスト面で厳しいといった問題もある。

 結局表示されるディスプレーが0.1cd/m2程度~数百cd/m2の範囲しか表示できないため、ダイナミックレンジが1:1000あれば十分、というよりそれ以上の表示ができないので、SDRはこのあたりで落ち着いたという歴史的な経緯がある。

 ただ、最終的な表示はSDRのままにしても、途中の処理はもう少しダイナミックレンジを広げたほうが画像の劣化が少ないといった話もあり、また液晶ディスプレーのバックライトが蛍光管からLEDにシフトしてきたことで、暗い方を0.1cd/m2未満に落とすことも難しくなくなってきた。こうしたことにより、SDRよりも広い範囲の輝度を扱えるようにしよう、という動きが出てきたわけだ。

ソニーとパナソニックが牽引した
HDRの標準規格

HDR10+のロゴ

 HDRにも標準規格がある。まず2016年7月に定められたのがITU-R BT.2100だ。これは、高品位TVのための規格であって、実際には4K/8K UHD TVを念頭に置いたものになっている。

 ただBT.2100はHDRを内包してはいるが、別にHDR向けの規格ではない。BT.2100の場合解像度はフルHD/4K/8K、ビット深度(フルカラーをRGBそれぞれ何bitで表現するか)は10/12bit、フレームレートは120fps、色域(表現できる色空間)はRec.2020になっており、これとあわせて輝度はHDR、つまり最小が0.005cd/m2以下、最大が1000cd/m2以上と定義されている。

 加えてBT.2100ではガンマカーブ(輝度の値と、実際の明るさ)に関してHLG(Hybrid Log Gamma)とPQ(Perceptual Quantization)の2種類が定義されている。

 HLGは従来のSDRとの互換性に配慮しており、輝度値を相対的に扱っている。このため、SDRのTVを利用してもそこそこに視聴できるというメリットがある一方、HDRの特性をフルに活かせるとは言いにくい。

 一方のPQは、輝度値が絶対値(輝度の最大値が1000cd/m2となる)になっており、より人間の視覚特性に近い表現が可能となる一方、従来のSDR TVでは表現がおかしくなってしまう欠点もある。

 これとは別に、伝送規格としてHDMI Forumは2015年にHDMI 2.0aを発表した。こちらは従来のHDMI 2.0(4K@60Hzまでに対応した伝送規格)にHDRの対応を追加したもので、HDR関連メタデータはCEA-861.3/CTA-861.3というCEA(Consumer Electronics Association、2015年10月にCTA:Consumer Technology Associationに改称)が2015年1月に定めた規格に準拠している。

 CEA-861.3自体はメタデータの定義で、HDRの規格そのものとしては同じく2015年1月にHDR10というプロファイルが定義され、CEA-861.3もこれを参照している。HDR10はITU-R BT.2020(BT.2100の基になった、4Kビデオ向けの規格。ただしSDR)を基にしており、ビット深度は10bitのみとなっている。

 輝度は0.005cd/m2~1万cd/m2に拡張されており、結果としてBT.2100と同じ(先にHDR10が出てきて、後からBT.2100がこれにあわせた)範囲をカバーするようになっている。

 このHDR10の規格はソニーとパナソニックが共同で策定したものである。もともとはBlu-ray Disk AssociationがUltra HD Blu-rayという4K+HDRの超高画質映像規格を定める際に、ソニーとパナソニックのHDR10、PhilipsのPhilips HDR、それとDolby LaboratoriesのDolbyVisionという3方式が提案され、このうちHDR10のみロイヤリティーフリーで実現できるということで、Ultra HD Blu-rayではHDR10が必須、Philips HDRとDolbyVisionはオプション扱いとなった。

 これが契機となってHDR10が、HDR技術に関しての業界標準になった感がある。HDMIだけでなくDisplayPortも2016年3月のDisplayPort 1.4でやはりCTA-861.3準拠の形でHDR10への対応を果たしている。また冒頭で触れたWindows 10のHDR対応についても、これが利用できるのは以下の場合に限られている(条件はこれだけではないが)。

  • ディスプレーそのものがHDR10対応なこと
  • ディスプレーとの接続がHDMI 2.0aないしDisplayPort 1.4なこと

 2018年にはこの改良版であるHDR10+という、基本的なスペックはHDR10と同じでHDR10との互換性もあるが、MaxCELLという輝度の最大値情報が渡されるようになったものも登場している。

 またVESAは2017年12月に、DisplayHDR version 1.0という品質基準テストを発表している。こちらではDisplayHDR400/DisplayHDR600/DisplayHDR1000という3種類の規格(末尾の数字が表示できる輝度の最大値)を定めているが、HDRの方式はそのHDR10+になっている。

 そんな訳で、HDR完了を利用したい場合はHDR10なりHDR10+に対応したディスプレーと、これに対応したI/F(HDMI 2.0a/DisplayPort 1.4に準拠した出力が可能なビデオカード)を用意し、その上で対応するアプリケーション(それこそFF15などだ)を使うことで初めてその恩恵にあずかれるわけだ。

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