ディスプレーには
輝度に限界がある
そもそもなぜ白飛び、あるいは黒潰れが発生するかといえば、これは表示装置の限界によるものだ。たとえば下図のようなヒストグラムを持つ映像があるとしよう。横軸は輝度で、単位はcd/m2になっている。
ここで輝度の例だが、1cd/m2がだいたい夕暮れ程度といわれる。10-6cd/m2が夜空で星があんまり見えない程度、10-3cd/m2が満月の夜である。
屋内がおおむね102cd/m2程度、晴れの日の屋外が103cd/m2程度。太陽光を直視すると106cd/m2程度になる。つまり、輝度といっても10-6cd/m2から106cd/m2程度まで、12桁にも及ぶ幅があるわけだ。
問題は、これをどこまで表示できるかである。SDR(Standard Dynamic Range)、つまり従来の機器の場合、下が10-1cd/m2程度、上が10-3cd/m2程度に留まっている。
よく「ダイナミックレンジ1:1000」などという表現があるが、これは表現できる一番暗い輝度部と、一番明るい輝度の比が1:1000になっているという意味だ。
さて、これをそのまま表示するとどうなるかというのが下図で、要するに表示範囲の左右が全部切り取られてしまう。左側の部分は黒潰れ、右側の部分は白飛びになる形だ。先の「なんちゃってHDR画像」の表示はこのやり方である。
これをどうすればいいか?というと、輝度のヒストグラム全体を圧縮して、SDRで表現できる範囲に収めれば、原理的には黒潰れや白飛びはなくなる。少し前に流行った、既存の映像をHDR化というのがこのやり方だ。
もちろん均一に圧縮するのではなく、輝度に応じて圧縮率を変化させたり、本来の画像の輝度を推定して、そこから圧縮率を計算するなど、いろいろな技法が提案されているが、いずれにせよ輝度情報を圧縮することに変わりはないので、どうしてもディテールが落ちることになる。
先のなんちゃってHDR画像では、一見気がつきにくい(そもそもそれほど激しくは圧縮していない)が、拡大するとやや潰れている部分が見て取れる。これが画質を落とすことになるわけだ。
根本的な問題は表現できる輝度の幅が狭いことであり、そこで「より表現できる輝度の幅を広げよう」というのが本来のHDRの手法である。
下図のように、表現できる範囲を広げてやれば、本来のヒストグラムのかなりの部分がそのまま再生できるし、多少圧縮してもディテールの欠落がだいぶ改善する。つまり、全体としての画像の再生品質が上がるわけだ。
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