有機ELといえば、高画質かつ薄く、さらに「曲げられるディスプレー」というイメージがあるだろう。今では大型テレビやスマートフォンなどで当たり前に採用されている。だが、実は有機ELにはディスプレーだけでなく、次世代照明としての側面もある。
次世代照明としての有機EL照明の特徴は、薄くて曲げられるなどデザインの自由度が高く、面光源なのでLEDとは異なる柔らかい光という点だ。演色性(照明による物体の色の見え方の特性。色が自然光で見た場合に近いほど、演色性が高いと言える)も高いので、明るいだけでなく、対象物の色も鮮やかに見える。
これまで有機EL照明は製品化はされてきたが、価格や性能面の問題で、本格的な量産はされていなかった。だが、2017年末から韓国LG Displayが有機EL照明パネルの本格的な量産を開始したことで、普及に向けた動きが活発になっている。
日本ではリサイクルインクやLED製品などを手がけているエコリカが、LG Displayのパネルを利用した有機EL照明の製造を手がける重友M-Tech(JOONGWOO M-Tech)と業務提携し、有機EL照明の販売を開始した。
有機EL照明はいったいどういった照明で、どういった用途に適しているのだろうか。そこで今回、エコリカの商品企画部 部長の波多野光氏に有機EL照明の販売戦略をうかがった。合わせて、有機EL照明パネルを生産するLG DisplayのVice President Head of OLED Lighting Business Division、SungSoo Park氏と、照明製品を生産する重友M-Tech代表理事のMoo-Young Yoon氏のインタビューもお届けする。
■エコリカが有機EL照明を扱うきっかけと販売戦略
――エコリカが有機EL照明を扱うきっかけはどこにあったのでしょうか。
波多野光氏:エコリカは長らくLED照明を取り扱っていますが、現在ではLED照明は一般的なものとなり、業界や展示会でも新規性がありません。また、有機EL照明は国内だと「量産はまだまだ」というムードでした。
一方で、韓国では有機EL照明について量産に向けた動きがありました。エコリカは韓国と継続した輸入取引を続けている関係から業界団体などの紹介もあり、現場の製品や利用事例を確認し、メーカーとしても商社的な立場として取り扱うことを決めました。
波多野光氏:現在の有機EL照明は、LED照明と比べても同等の寿命とLEDの半分程度まで発光効率の向上を実現しています。一方で、有機EL照明用のパネルはまだテレビなどに使われているディスプレー用ほど大きくありません。ですが、今後生産数が増えるとともに製品も変わってくると思います。
――日本で、ある程度市場規模があると確信しての参入なのでしょうか。
波多野光氏:採算を考えていてはできない部分もあります。ですが、これはエコリカが10年近く前にいち早くLED照明を手がけた時と同じです。LED照明も継続しているうちに大手も参入しましたが、今でも直管形LEDランプなどをはじめ、安定した販売を続けています。
それと、有機EL照明の製品については重友M-Techというモノづくりで長年の実績がある企業がLG Displayとパートナーを組んで生産しており、安心して販売できるという点も大きいです。
――有機EL照明にはどういった利点があるのでしょうか。
波多野光氏:まずは、薄型で曲げられる照明ということでデザインの工夫の余地が大きいことです。デザイン照明としての需要を期待しており、実際に建築関係の方からの問い合わせが多いですね。
また、演色性(平均演色評価数)がRa93と高く、太陽光に近い光なんです。面発光で光のムラもなく、まぶしさを感じにくい特性があります。LED照明とは異なりブルーライトやUVが強く出ることもなく、デスク作業にも向いている優しい照明と言えます。
――実際の製品展開としてはどのようなものが?
波多野光氏:量販店など一般向けにはまずデスクライト型の製品を展開、法人向けにはすぐ販売可能な店舗やオフィスなどで使える製品を数多く取り揃えています。また、有機EL照明パネルに電源やケーブルをつないだ半完成品も試作用として販売していきます。
――メーカーが有機EL照明パネルを部品として採用したいといった要望にも応えられるのでしょうか。
波多野光氏:実際に、車載向けのパーツやオプション品としての採用についてお声がけをいただいています。まずは有機EL照明パネルの普及に向けて動いているので、そういったお話にも柔軟かつスピーディーに対応したいと考えています。
――このインタビューをしている会議室も有機EL照明を使われていますが、パンフレットがより鮮やかに見えるなど、ストレスを感じさせにくい居心地のよさがありますね。
波多野光氏:有機EL照明は、写真や動画で見ても良さが解りづらいものです。実際に製品を見ていただければ、有機EL照明ならではの良さを感じていただけると思います。今後は展示会など実際に製品を確認できる機会を増やしていきます。まずはお声がけいただき、一度このエコリカのショールームを見ていただければと思います。
■LG Displayの有機EL照明パネル事業戦略
SungSoo Park氏:有機EL照明は、寿命自体はLED照明に肩を並べるところまできました。発光効率も向上しています。
今までの有機EL照明パネルは、日本を含めても開発中のレベルでの製造に留まっていたと思います。有機EL照明パネルの量産は、LG Displayが初めて手がけたといっていいでしょう。
有機EL照明パネルの生産は、以前に小型の有機ELディスプレーを製造していた第5世代の生産ライン(1100㎜×1250㎜)を流用しています。現在、LG Displayはテレビ向けの有機ELディスプレーを、日本メーカーではソニー、パナソニック、東芝向けに生産しています。この生産ラインがより大型のものに移行すれば、有機EL照明パネルにもより大きな生産ラインを流用できるようになります。
SungSoo Park氏:有機EL照明の製品はこれまでLGが手がけてきましたが、現在は各社にパネルを供給して製造・販売する方向に転換しました。米インテルの「Intel Inside」のように、LG Displayのパネルを採用した製品には「Luflex」の名を冠してブランドを広げていきます。
また、各国のメーカーが生産した照明器具を、他国のメーカーも販売できるエコシステムも構築し、製品ラインナップを増やしつつあります。
SungSoo Park氏:有機EL照明はまず、フレキシブルなデザインと健康面という2面を推していきます。有機EL照明は自然光に近く、LED照明のようなブルーライトを出さないのが特徴です。医療面でも視神経に悪影響を与えないという研究データも出ています。そのうえで、飛行機や自動車向けであったり、有機EL照明でしか実現できない新市場の創出も進めていきます。
デザイン面では曲げられるフレキシブルさを活かして、建築設計のデザインに取り入れられるようになってきました。欧州などの自動車メーカーからは、テールランプや車内照明での採用や引き合いも増えています。日本ではエコリカとも普及を進めていきます。ショールームの展開といった話も進めていきたいですね。
■韓国での有機EL照明の採用事例
Moo-Young Yoon氏:我々は、有機EL照明ではLG Displayのパネルを利用したスタンドなどの照明機器や、設置用の照明パネルの設計や製造を手がけています。韓国の事例では、ブランドイメージを重視する企業の反応が良いですね。特に、店舗や施設は最初のデザインや設計段階から有機EL照明の設置を前提に話を進めると、設置の効果を大きく得られます。
例えば、韓国のバスキン・ロビンス(日本ではサーティワンアイスクリームとして知られる、アイスクリームのチェーン店舗)が高級路線の旗艦店を出店しましたが、有機EL照明をデザインに取り入れたことが話題になりました。今後の店舗でも採用される予定です。
Moo-Young Yoon氏:ソウル特別市にある「国立古宮博物館」の展示用照明としても、最初1フロアに納入しましたが、来館者の反応は良好だと聞いています。国の施設で予算の縛りもあるので、その後も1フロアずつですが入れ替えを続けています。文化財だと、韓国のお寺でも照明をすべて有機EL照明に入れ替えるという案件もありました。
Moo-Young Yoon氏:韓国の結婚式は日本と違って時間が短く、結婚式場では1日に何組もの式が行われます。そこで、バージンロードに有機EL照明を設置し、インパクトが与えられるような演出ができるシステム設計も手がけました。これは口コミで話題を呼び、ほかの式場にも導入しています。システム設計も手がけることで、利益率の高い案件となっています。
展示会ですと、照明自体の展示会よりも、建築士やデザイナーが来場する展示会での反応が良いですね。最終的なデザインを決める立場の人なら、有機EL照明ならではの活用方法も思いつきやすい。日本だと、高級マンションのモデルハウスでも需要があるのでは、と考えています。自分が買う家なので、いい照明を設置したいという方は多いでしょう。
有機EL照明はこれまでになかった新しいマーケットが数多くあると感じています。日本と韓国ではまた異なった市場や感じ方もあるでしょう。日本ではエコリカといっしょに頑張っていきます。
(提供:エコリカ)