1年間の成果と2018年の新たな取り組みを説明、パートナーソリューション認証制度も対象を拡大
昨年は新規獲得社数が2倍に、SAPの中堅中小企業向けビジネス
2018年04月11日 07時00分更新
SAPジャパンは2018年4月10日、今年の中堅中小企業向けビジネス(SMEビジネス、年商規模1000億円以下)に関する戦略説明会を開催した。昨年(2017年)から組織体制の強化などを通じて中堅中小企業市場にフォーカスを強めてきた成果と、今年(2018年)取り組んでいく施策を説明した。
2017年の成果、新規顧客数は2倍、パートナーの商談件数は2.7倍
牛田氏はまず、2017年の中堅中小企業向けビジネスにおける成果を紹介した。1年前(2017年4月)に開催した戦略説明会では、クラウド製品のラインアップの充実による「製品」、パートナー協業モデルの展開による「パートナー」、認知度の向上の「マーケティング」という3つの観点から、中堅中小企業向け施策を進める考えを述べていた。
こうした施策を進めた結果、2017年のSAPがグローバルで獲得した9300社超の新規顧客企業のうち、中堅中小企業は85%を占めた。日本法人単独での具体的社数は公表していないが、新規中堅中小企業顧客は「2016年比で2倍」、またパートナーにおける中堅中小企業顧客との商談件数は「同 2.7倍」に増加したという。加えて、既存顧客における売上も「同 53%増加」、またデジタルマーケティング経由での案件創出数は「同 2.5倍」となった。
牛田氏は、獲得した新規顧客の多くは国産パッケージからの乗り換えで、これからの海外事業展開を考えるうえでSAP ERP製品を検討/選択するケース、あるいは単純な会計パッケージからもう少し機能拡張したいとSAP製品を選ぶケースなどが多いと説明した。
また、中堅中小企業向けの新たなWebサイトやブログを通じた認知度向上、導入事例紹介の取り組みの結果として、SAPソリューションに対する「イメージ」も変わってきたという。同社が2017年11月、中堅中小企業500社を対象に実施したイメージ調査では、「大企業向け」のイメージが前年比15.1ポイント減の17.4%に、一方で「実績が多い」イメージは7.1ポイント増の17.4%になった。そのほかにも「低コストで導入できる」「使いやすい」といったイメージが向上している。
ただし「クラウドに力を入れている」というイメージについては、7.9ポイント減の2.9%と大きく後退している。この点について牛田氏は、中堅中小企業の顧客がまずは「パッケージ導入で効果を早く出せるかどうか」に注目しており、クラウド導入はその後についてくる動きなのではないかという見解を述べたうえで、「もちろん(2017年の施策が)100点満点でできたとは言わない。SAPはまだまだ(中堅中小企業市場における)チャレンジャーであり、2018年もたくさんの取り組みをし、失敗も重ねながら、ベンチャースピリッツで努力していきたい」と語った。
2018年も引き続き“3本柱”施策を継続、マーケティングはAIツールで支援
2018年の中堅中小企業ビジネスにおいても、引き続き「製品」「パートナー」「マーケティング」の3本柱で施策を展開していく(本稿冒頭のスライドを参照)。
製品においては、今年も引き続き中堅中小企業向けのクラウド製品ラインアップを充実させていく方針。具体的には、中堅企業向けの調達クラウドサービス「SAP Ariba SNAP」も新たに提供する予定を明らかにした。牛田氏によると、Ariba SNAPは大企業向けAribaとは異なり調達プロセスの柔軟さなどに制限があるが、そのぶん初期コストや導入期間を抑えて中堅企業が導入しやすいサービスになるという。詳細はサービス提供開始時に発表される。
パートナー施策に関しては、昨年からのパートナー支援施策を継続すると同時に、今年はセミナーイベントなどの共催だけでなく、デジタルマーケティング活動も共同で行っていく方針で、AIを活用したマーケティングツール(後述)もパートナーに開放していく。
さらに今回新たに「パートナー・パッケージ・ソリューション承認制度」の本格展開も開始する。これは、パートナーがパッケージ化して販売するSAPソリューション(テンプレート)に対し、SAPがその品質を担保することで、「中堅中小企業の顧客に低コスト、低リスクで高品質のパッケージを提供」(牛田氏)することを目指したもの。これまではオンプレミス版「SAP S/4 HANA」のみこの制度があったが、これをクラウド版S/4 HANAや「SAP Business ByDesign」「SAP Success Factors」「SAP Analytics Cloud」「SAP Leonardo」などのクラウドソリューションにも拡大する。
マーケティング施策においては、まず3月にリニューアルした中堅中小企業向けWebサイトにおいて、より顧客の課題や悩みに沿った「顧客視点」のコンテンツを提供していく。ここでは製造業、プロフェッショナルサービス、流通/卸の各業種に注力する方針。加えて、1年間の取り組みを通じて中堅中小企業に対する知名度も徐々に向上していることから、今後はさらにブランディングの取り組みも拡大していく。
また、戦略的なマーケティング活動を展開するために、AIによる営業支援ツールを導入する。牛田氏によると、このツールは既存顧客や見込み顧客の地域/業種/売上高といったデータに基づいて、その顧客にアップセルや新規導入の提案ができるSAPソリューションをAIが分析するツール。すでにドイツやオーストリア、米国のSAPがこのツールを導入し、成果も上がっているという。
なお、すでにこのツールをパイロット導入して試用しているSAPジャパン ゼネラルビジネス統括本部 第一営業本部 本部長の伊藤佳樹氏によると、これまでの人間による分析ではどうしても過去を分析するものになっていたが、このAIツールでは「将来こうなるのでは」という予測もできているという。伊藤氏は、さらに今後データを蓄積していくことで、より予測精度が高まるのではないかと期待を語った。
S/4 HANA Cloudの導入を決めた試薬メーカーもゲスト登壇
同説明会ではSAP R/3ユーザーで、新たにS/4 HANA導入を決めた東京化成工業 代表取締役社長の浅川誠一郎氏も出席した。同社はグローバル展開する年商百数十億円、800名規模の試薬メーカーだ。
同社では14年前、事業のグローバル展開に際して必要になると判断してR/3を導入した。R/3の導入により、海外拠点との情報整合性が確保され、それからの海外展開はとてもスムーズに進んだという。その一方で、コスト抑制のためにほぼカスタマイズなしで導入し、導入後に必要になった機能もR/3外部で開発してきたため、結果としては外部開発およびライセンスのコストが増え、全体のシステム構成も複雑化してしまった。
今回、2020年をめどとしてS/4 HANAの導入を決定し、現在のシステムでは分散しているデータを一カ所に集約して、だれでもスピーディなデータ解析ができる環境にしたいと、浅川氏は抱負を語った。なお同社では、インフラ構築/運用のコスト削減を考え、クラウド版での導入を予定しているという。