テクノロジーとクリエイティブの役割
学校にデジタルデバイスを導入する際、生徒が遊んでしまって授業を聞いてくれないのではないか、という懸念が言われます。しかし筆者はこれに自信を持って反論できます。自分の経験をふりかえれば、教室にタブレットがない頃から、興味がない授業には集中していなかったので。
一方で、デジタルデバイスを使うから楽しい授業というわけでもありません。ひたすらタイピングの練習をしなければならない授業は、無の境地を見出しでもしない限り、続けることも苦痛になっていきます。
そのため、いかに授業に興味を持ってもらい、あるいは生徒が自分で調べたりして知識を深めたり、生徒同士で議論し始めてくれるような「アクティビティ」が必要になります。
iPadで授業のテーマとなっている話題について、小さなグループでビデオやスライドを作る授業は、どうすれば理解し伝わるか、という思考を巡らしそれを実現する表現を作ることにつながっていきます。
そうした理解を助け議論を促進させる活動を作る「道具」として、テクノロジーを教室内で作用させようとしている。そんなメッセージが、今回のイベントの模擬授業からは伝わってきました。
一方で、個人的には葛藤も
今回の発表会は、テクノロジーを単純な情報手段の道具として、つまり効率的な手段としてではなく活用しようとし、それを取り入れた授業を体験することができたイベントと振り返ることができます。
1つ1つのテーマについて自分たちで考えて情報をまとめ、発表し合う活動は、授業そのものに体験を与え、興味深いものへと変え、知識を得ること以上の効果を期待することができます。
ただ、こうした授業の体験を通じて、筆者個人はストレスを感じました。授業の進行が遅すぎる、あるいは学べることが少なすぎるというストレスです。
授業の中で、アメリカのケネディ大統領の有名な演説「我々は月に行くことを選んだ」という演説を自分で読み上げ、GarageBandで宇宙を思わせるBGMを付ける、という歴史の授業体験がありました。
思い思いの宇宙っぽい音楽を作る作業自体は楽しいのですが、それ以上に、はやく教科書、あるいはWikipediaでもいいから、時代背景やロケットのスペックなどを調べたい! と思ってしまったのです。
と、ここまでそのときのストレスを書いてみて、これもまたAppleの狙いだったのかもしれないと思いました。自分で興味を持ったことを学ぶ、というクリエイティブ学習が狙う効果の1つだったのでした。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
この連載の記事
-
第264回
スマホ
ライドシェアにシェアバイク、これからの都市交通に必要な真の乗り換え案内アプリとは? -
第263回
スマホ
Amazonが買収したスーパーマーケットで生じた変化 -
第262回
スマホ
日産「はたらくクルマ」でみたテクノロジーでの働き方改革 -
第261回
スマホ
WWDC19で感じたのは、体験をもとにアップルがサービスの整理整頓を進めているということ -
第260回
スマホ
LoTで、いかにして世界から探し物をゼロにできるか?:Tile CEOインタビュー -
第259回
スマホ
ファーウェイ問題で感じたテクノロジーと国家対立の憂鬱 -
第258回
スマホ
スマホでの注文が米国でのスタバの役割を変えた -
第257回
スマホ
10連休に試したい、ゆるやかなデジタルデトックス -
第256回
スマホ
人によって反応が異なるドコモの新料金プラン -
第255回
スマホ
「平成」と「令和」 新元号発表の瞬間の違い -
第254回
スマホ
Adobe Summitで語られたAdobe自身のビジネスや開発体制の変化 - この連載の一覧へ