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イーサリアムにも携わった数学者ホスキンソン氏に聞く

仮想通貨、バブルが崩壊しないと本物になれない

2018年03月12日 09時00分更新

文● 編集部

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 仮想通貨を支える技術として話題に上る機会が増えたブロックチェーン。

 Input Output HK(以下IOHK)は、仮想通貨やブロックチェーン技術が「社会にどのような影響を与えるか」「理想的な使用方法や必要な条件は何か」「既存システムをどう低価格化し、スケーリングしていくか」「プライバシーをどのように担保するか」などを課題に研究開発を行っているスタートアップ企業だ。

 設立は2015年で、本社は香港に置いている。仮想通貨の取引所やブロックチェーン関連の動きが活発な地域であり、税制上の理由もあってのこと。実際は130名ほどいる社員が、少数のチームを組み、全世界に散らばって動く、インターナショナル企業だ。ヨーロッパを中心に10ヵ国に拠点を置いている。

 来日した創業者でCEOのチャールズ・ホスキンソン(Charles Hoslinson)氏も米国コロラド州の出身。1年のうち200日ほどは海外を渡り歩く生活だという。共同創業者で大阪在住の経営戦略責任者ジェレミー・ウッド(Jeremy Wood)氏とともにお話を聞いた。

東工大や大阪でも研究や開発を展開

 IOHKは大学など教育機関と連携した研究にも精力的だ。3つある主要な研究拠点の一つは東京工業大学内に置いている(ほかにアテネ大学とエディンバラ大学に研究室がある)。これはマイクロソフトやグーグルと同じ戦略だという。

 一方、開発部門が手掛け、収益の軸になっているものに、仮想通貨のエンジニアリングとデベロップメントがある。例えば2017年9月に発行され時価総額でトップ5に入った第3世代仮想通貨カルダノ(Cardano)や、Ethereum Classicsといった仮想通貨の開発からブロックチェーンを使った大学の卒業証書の管理システムなど、様々な開発に取り組んでいるという。

── IOHKの事業内容や競合についてコメントを。

ホスキンソン エンジニアリングの分野では、ニューヨークに拠点を置いているコンセンサスという団体。450人ほどのスタッフを抱え、分散型アプリケーションを開発している。研究分野ではカリフォルニアを拠点にしたBlockstream(ブロックストリーム)。Blockchain LabやBitfuryもこれより小さなチームだが、競合になると思う。海外の研究機関では、IC3も暗号通貨に関して世界的な研究をしている。競合は多く、市場では需要が勝っている状態。我々も仕事を断るほどだが、参入企業は今後も増え、競争はさらに激しくなると思う。

── 香港に拠点を構える理由は?

ホスキンソン アジアでの活動が中心で、アセット(経営資源)管理の観点で税制や他地域へのアクセス性などを考慮に入れると、シンガポールや香港に拠点を置くのが普通。我々もそれにならって香港に拠点を置いた。香港にはBitfinexやGatecoinといった、暗号通貨の取引所があり、ブロックチェーン関連の注目企業が多く存在する。日本にも近く、ジェレミーは大阪の拠点にいる。一方僕はコロラドに住んでいるから、相対的な距離と言う面でも都合がいい。

── この時代、本社の所在地や働く場所はあまり意味がないということか。

ホスキンソン われわれはたくさんの小さなチームで動いている。ヨーロッパのフランスやイタリアなどを中心に全世界に分散している。それぞれが取り組んでいる内容についてリアルタイムに話が運ぶため、時差で寝る間がないほどだ。

── 連絡はSlackなどで取り合う?

ホスキンソン そのとおり。(ちょっと見てくれよとばかりに端末を取り出し)いまメインであるのは3グループ。チャンネル全体で言うと5~600チャンネルになる。パートナーを含めて議論するため、このぐらいの数が必要だ。それ以外にもSlackのAPIを通してほかのソフトを使ったりする。技術的なセンスは多少必要ではあるが、うまくやればスマホひとつで世界中の人と仕事ができる時代になった。

── 日本での事業展開は?

ホスキンソン ジェレミーが大阪にいるので、ここは彼から。

ジェレミー 大阪には、IOHKに協力するウェブ制作のチームがいて、ウェブ開発を中心にやっている。あとはローカライズ。主要商品であるDaedalus(ダイダロス、仮想通貨Ada=Cardano用のウォレット)の翻訳や、ブログを使った企業活動の告知などをしている。

ホスキンソン 研究面では東京工業大学に研究室がある。マリオ・ラーンジェーガーとベルナルド・デービットという2名のスタッフがいて、特殊な暗号技術、つまりSecure Multiparty Computation(複数のコンピュータにデータの断片を送り、断片の部分計算を繰り返し行うことで、データを秘匿したまま統計などの各種計算を行う技術)の研究をしている。この技術はいろいろな応用が可能だが、特に暗号通貨のプライバシーやスケーラビリティの確立に貢献できると思っている。近く増員予定で、昨年2月にオープンして以来、成果も上がっている。

 すでに3つの論文が発表された。暗号技術の学会に発表すべく努力している。最大の研究所はエディンバラ大にあり、ベイズセンターにチームを抱えている。こちらも30人規模に近々拡張する予定だ。研究分野はTrusted Hardwareやプロトコルそのもののの研究、さらに法務や規制など幅広い。IOHKのチーフサイエンティスト、アゲロス・カヤステス(Aggelos Kiayias)はここの教授を務めている。

 IOHKの研究施設は研究と教育の両面を持つが、東工大では現状、研究のみの取り組みになっている。教育方面にも取り組みを広げたいと考えている。

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