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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第61回

「モノをコトに」するための宣伝企画とは

『妹さえいればいい。』が示すアニメコラボの理想形

2018年03月22日 18時00分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史

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(C)平坂読・小学館/妹さえいれば委員会

「妹」を網羅せよ――「妹年鑑」は駅のホームでゴールした!?

―― 原作にも実名で「妹もの」作品が多数言及されているわけですが、アニメ化では年鑑まで用意されたのにも驚きました。

岡村 正直あれは……僕も提案しておきながら通るとは思ってない企画が通ってしまって(笑)

―― 先ほどのお酒・ゲームもそうですが、拘りだすとどこまでもおカネも、時間も掛かる企画だと思います。どこかで「ここまで」という線引きをしたりはしないんですか?

岡村 それは、おそらく「線引きをしないから」弊社に依頼をいただいているのかなと思っていまして(笑) バンダイビジュアルさんからはいつも想定以上のことをオーダーしていただくことが多いのですが、いったん全てを受け止めていますから。

 もちろん、トータル予算という枠組みはありますが、作品を好きになってもらうために最大限以上のことはやろうと思っています。逆に、バンダイビジュアルさんも我々を止めないので、どこまでも「やってくれ」「了解!やりますよ」という関係ではあります。

 他社さんの版権をお借りして年鑑を作ろうなんて無茶も、その前提がなかったらどこかで止まっていたと思うのですよね。

「殿堂入りの妹たち。」は公式サイトからリーフレットとしてダウンロード可能。なぜここまで……

―― いくら妹つながりだ、と言っても、あれだけ権利元が沢山あると大変ですよね。

岡村 許諾はバンダイビジュアルさんから各社に打診いただいたのですが、なかなか可否が決まらない作品もありまして……。

 発表場所として、JRさんには秋葉原駅構内に特設ブースをご用意していただいたのですが、そのJRさんに指定された〆切ギリギリまで(妹のラインナップが)決まらず、最後は僕、駅のホームでベンチまで行く暇もなく、その場に座り込んでパソコン開きながら「許諾出ました! 素材はこちらです!」とか連絡しましたからね(笑)

 でも、そんな苦労の甲斐あって、「妹黎明期」といった分類や解説文はすべて無校正で通ったのがうれしかったですね。秋葉原の特設ブースも大変評判で、公式サイトではPDFをダウンロード可能にしています(原稿執筆時点)。

宣伝・コラボの「常識」を超えて

―― 作品自体もそうですが、「作品を知ってもらい、好きになってもらう」ための取り組みも、従来の宣伝の枠を超えるものだったということがよくわかりました。

岡村 作中に登場する現実のモノ・コトを徹底的に追求すれば、それらを愛している人たちにこの作品が必ず届くはずだ、というのが、『妹さえいればいい。』の宣伝計画の根幹でした。

 アニメファンのみでは自ずとその到達範囲は限定されてしまいます。でも、『妹さえ』であればゲームファン、お酒好き、妹もの作品のファンには波及できるはずだと。

 そのため、SNSの反応はつぶさに確認していました。具体的には公式Twitterアカウントのエンゲージメント達成率を指標にして、反応が良かった投稿は、その後の施策に反映しブラッシュアップしていく、ということを行なっています。

田中 PV(動画)も、反応をいただいてから、それを参考にタイミングや内容を変える、ということはやっていましたね。ドSな税理士 大野アシュリーや、下着フェチ漫画家の三国山蚕のPVはかなりシェアされたので、もっとグッと変態性を前面に押し出した動画も作ってみようということになりました。で、出来上がったのがコレでして……。

―― これは強烈でした(笑)

岡村 ハッシュタグ「#パンツリボン」など、しょっちゅうトレンド入りしていましたよね(笑)

田中 あるキャラクターがパンツをリボンにしているという描写があるのですが、原作で登場する際に、キャラクター原案のカントクさんが実際に作成可能であることを確認してから登場させた、というお話を伺いまして。ならば、実際に作ってみて視聴者の皆様にもお見せせねば、ということになりまして。

 カントクさん自ら、器用な手先を活かしてパンツリボンの作り方を教えてくれる動画は、11万回以上再生されています。カントクさんのファンも「先生なにやってるんすか」と話題にしてくれましたね。そのあと、タイムアタックにも発展しました。

 あれは、本当は参考用動画で、その後うちの宣伝担当が本番用を別に録画する手筈だったのです。だから三脚も使っていないのですが、カントクさんの説明トークがあまりに完成されていて素晴らしく(笑)、字幕を入れてそのまま使わせていただこうということに。

 これに限らず、カントクさんの「言語化能力」はすごく高くて、映像化にあたってはありがたいアドバイスを沢山いただいています。

―― その回は、クレジットにもスタッフ・キャストの皆さんが「全裸派」か「下着派」かを明記されるという徹底ぶりでしたね。

田中 本読みの段階から、やるならやりきろうと。僕も偉い人たちに聞いて回りました(笑)

 ただ、僕としてはこういった手法自体、そこまで飛躍しているという感覚はありません。例えば『ガールズ&パンツァー』などは、ミリタリーファンの方々にも楽しんでいただきたい!という思いにあふれていたのではないかと思うのですが、アニメファンの方々が普段から接している物事の「外側」にある何かを掘り下げていくことで、少しでも新鮮味を感じてもらえれば……というのを、結構な頻度で考えている気がします。

『妹さえ』の場合、原作で深く扱われているお酒・アナログゲームといった「モノ」に注目し、さらにそれらの楽しみ方――いわば「コト」への発展――を公式サイトで扱うことで、それらの愛好者にも刺さるような宣伝を展開、注目を集めた。この手法はアニメコラボを希望する企業側にも有益だ

―― なるほど。そしてコアなアニメファンも、周辺領域の別のコアな人たちが何か騒がしくなっていると気になるし、楽しい、ということはありそうですね。

田中 そうですね。目利きの方々……つまりアニメファンではない“その筋”のオタクの方々に「これなんだかすごいぞ」と騒いでいただいたものが、アニメファンの方々にも「観るに値するもの」と認められるという現象はこれまでガルパン以外にもあったと思うのですが、自分が関わらせていただいた作品ですと『境界線上のホライゾン』でも起こっていたのではないかなと。

 原作本が本当に分厚いこともあって、物凄く熱いファンの方々が支え続けていらっしゃる作品でした。その方々に何とか納得していただけるクオリティーを模索しながら映像を送り出したところ、作品を知らなかったアニメファンの方々も、「あっちのガチな人達がすごい騒いでる」となって、ホライゾンの世界をのぞきに来ていただいたのではないかと思っています。

 『妹さえいればいい。』でも、同じようなことを少しでも感じていただければということで、沢山の方々にご協力を頂戴して、諸々の施策を行わせていただきました。

―― どれも、映像の宣伝としては非常に濃いものでした。

田中 映像をきっかけに、アニメファンの方々に「ザワザワと話し合っていただく瞬間」を一つでも多くご提供できていたら、とてもうれしいですね。

―― その筋のオタクの人たちに満足してもらうには、誤魔化しや嘘があってはいけない。そこには時間もおカネも労力も掛けることが大切だ、ということがよくわかりました。本日はありがとうございました。

 このインタビューの数日後、バンダイビジュアルは2018年4月にランティスと合併し、社名をバンダイナムコアーツに変更することが発表されている。「モノづくり」から「コトづくり」という変化が各所で指摘されているが、『妹さえ』での様々な取り組みも、パッケージ(モノ)を売るという目的はあれども、コンテンツとしての力をコラボ・タイアップを通じて高めて行く、コトつくりに力点が移っていることを感じさせる。

第2回アニものづくりAWARD

優れた「アニメ×異業種」の取り組みに贈る
「アニものづくりAWARD」応募受付中

 『妹さえいればいい。』でも積極的なコラボが展開されたように、アニメとのコラボに注目が集まっている。著者が審査員を務めるアワードの第2回も応募受付中だ(3月23日まで)。5月4日~6日に徳島で開催されるマチ★アソビで受賞式も開催される予定。

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