デジタルペンがタブレットの世界を変える「インカソン with DOCOMO & Fujitsu」 第1回
「インカソン with DOCOMO & Fujitsu」開催の背景を探る
2018年03月15日 11時00分更新
デジタルペン搭載タブレット向けの
アプリのアイデアを競う「インカソン」とは
「デジタルペン搭載タブレットに、新たな使い道を提案する」そんなアプリ開発者向けのコンテスト「インカソン(Inkathon)with docomo and Fujitsu」が開催中だ。インカソンはインクと開発イベントのハッカソンを併せた造語で、その名の通り参加者はデジタルインクを利用した新しいアプリを開発する。
富士通コネクテッドテクノロジーズ(以下富士通)とワコム、NTTドコモによる共同開催で、すでに数十をこえる企業や個人の開発者チームが参加し、ドコモが販売する富士通コネクテッドテクノロジーズ製のデジタルペン対応タブレット「arrows Tab F-02K」と、ワコムのデジタルインク技術「WILL」を利用したAndroid用アプリの開発を進めている。
■製品情報
【富士通】arrows Tab F-02K
【ドコモ】arrows Tab F-02K
3月16日開催のファイナルイベントで各賞を受賞したアプリは、賞金のほか、Google Playや「arrows Tab F-02K」搭載のランチャー「Ink Station」での配信に向けた最大500万円の開発支援金が提供される。近年、ビジネスから個人、教育までより注目を集めるデジタルペン搭載タブレットの、今後の可能性が垣間見えるイベントになることは間違いない。
今回は、ファイナルイベント直前ではあるが、富士通、ワコム、NTTドコモの3社の担当者に、どういう狙いでインカソンを開催したのか、今後のペン入力デバイスや各開発チームやアプリに期待する内容について話を伺った。
――今回のインカソンを開催するきっかけを教えてください
ワコム 桧森氏:「arrows Tab F-02K」にはワコムの「アクティブES(AES)方式ペン入力」の技術を出させてもらい、富士通と開発段階から手書きを重視した魅力的な製品にするという話を進めていました。また、ドコモとも魅力的なアプリケーションを入れたいという話になり、ワコムがデジタルインク普及のために世界各地で開催しているアプリの開発イベント「インカソン」を3社でやってみませんか、と持ちかけたのがきっかけです。
富士通 渡邉氏:タブレットでペンを使うとなると、ふつうは絵を描くとか、手書きのメモやノートぐらいしか使い道の想像が及ばないのです。そこで「もっといろんなことに使えるんだよ」と提案するには、対応するアプリケーションが必要です。ただし、富士通やワコムだけでアプリを作るには、ビジネスのことを考えると飛び抜けたことはやりづらい。そこで、グローバルで実施しているインカソンを実施すれば、おもしろいイベントになるのでは、という話になりました。
ドコモ 津田氏:ドコモ2017年冬モデルのタブレットとして、ペン入力対応タブレットの話が上がりました。ですが、ビジネスマンから主婦、シニア、学生まで、幅広いユーザー層に向けた対応アプリが自然発生するエコシステムがなければ、ペン入力対応の製品を出してもそれで終わりになってしまいます。そこで、ワコムのインカソンやオープンな「WILL」プラットホームの取り組みに共感し、協賛しました。
――どういったアプリ企画でのインカソン参加が多かったのでしょうか
ワコム 桧森氏:楽しんでデジタルインクを使う発想のものから、災害に役立ちそうな発想のアプリ、教育や医療、ほんとうに千差万別です。参加も企業などのグループのほか、個人や大学生で参加されている方もいらっしゃいます。
ドコモ 津田氏:コンテスト趣旨としての縛りはないのですが、初めてデジタルのペンを触るようなコンシューマーユーザーにとって、その間口となるものがあるとうれしいと考えています。また、タブレットデバイスはプライベートとビジネスの境目にあり、直接仕事でなくてもアイデアをまとめるなどの使われ方があります。そうした、コンシューマーからビジネスまで幅広い使い方ができるアプリにも期待しています。
――今回、開発に利用するデジタルインク技術「WILL」はどういったものでしょうか。また、インカソンでは技術を活かしたアプリが出るでしょうか
ワコム 桧森氏:「WILL」はワコムが2014年に発表した、オープンなクロスプラットホームの技術です。特徴として、デジタルペンで入力した筆跡についての情報をメタデータとして格納できます。例えば、サッと書いたメモでも「誰が、どのペンで、何時何分に、どの場所で書いたのか」といった情報までも埋め込めます。サイン認証といったセキュリティ性の高いアプリにも使える可能性をもっており、オープンな形で世界中の方々にアプリを開発してもらいたいという想いがあります。
インカソンでは開発前に、ひと月ちょっとメンタリングの期間をとっているのですが、そこで寄せられた質問のほとんどはアプリの企画に関するものではなく、「WILL」を深く使いこなすための技術的なものでした。「WILL」の可能性を広げてもらえるような幅広いアイデアが寄せられており、どのようなアプリが出てくるのか期待しています。
――インカソンでは、デジタルペン搭載タブレット「arrows Tab F-02K」が活用されます。富士通は長らくペン入力対応PCなどを出していますが、arrowsのペン入力に関する強みは?
富士通 渡邉氏:今回は新たなAndroidタブレットとして、ワコムとともにアプリや機能を考えていこうと、PCとはまた別の協業的なアプローチで開発しています。製品としては、特に4096段階の筆圧に対応した書き心地のいいペンを同梱したことが大きいです。ワコムのペンの心地よさは、他のペン入力対応デバイスのなかでも抜けた良さがあります。
ですが、ペンを別売りにしてしまうと、一般の方は「ニンテンドーDS」などのゲーム機やゴムのペン先のタッチペンでの体験を想像され、結果的に導入してもらえないという課題があります。ですので、最初からペンを同梱し、便利で快適な書き心地が体感できるようにしました。
※富士通のarrowsシリーズ特設サイトでは「割れない刑事」のテレビCMを公開中。「似てない刑事」篇では、実際に手書き入力を楽しむ小栗旬さん、山田孝之さんのスピンオフ映像などを公開している。
http://www.fmworld.net/product/phone/arrows/warenai-deka/#nitenai
――最近は、ひとりで複数の機器を使って作業することも珍しくありません。今回のインカソンは「WILL」と「arrows Tab F-02K」という組み合わせが中心ですが、ほかの機器との連携は?
富士通 渡邉氏:今回は「arrows Tab F-02K」をきっかけに開催するインカソンですが、専用のアプリを作っているわけではありません。「WILL」はプラットホームをまたいで使えるのも特徴ですので、さまざまなプラットホーム向けのアプリも作ってもらいたいと考えています。
インカソンは生まれた成果物をちゃんとマーケットにつなげるという趣旨ですので、「arrows Tab F-02K」だけでなく、さまざまな機器でデジタルペンの利用が広がっていくのが期待するところです。いずれデジタルペンの市場が一般に広がれば、スマホやタブレットといった形にとらわれないデバイスが生まれるかもしれませんし。
ドコモ 津田氏:あるクリエイターの作業フローがAndroidだけで完結するというのは難しくて、PCやスマホ、タブレットのそれぞれで作業する使い方もあるでしょう。「WILL」同士の横の連携をもたせたアプリなら、外では「arrows Tab F-02K」のようなセルラー搭載のタブレットを持ち歩いて作業するといった、柔軟性を持たせられると思います。
――ファイナルイベントはどういった審査になるのでしょうか。もうすでに有力なアプリなどが出てきているのでしょうか
ワコム 桧森氏:いいアイディアがかなり寄せられており、どこが受賞するかわからない、というのが率直なところです。3月16日のファイナルイベントでは、まず参加チームを抽選で3ブロックに分けたセミファイナルを行なったあと、各ブロックの通過チームがファイナルでプレゼンして決定するプロセスになっています。
セミファイナルでは、ブロックごとにドコモと富士通とワコムから1名ずつ3名の審査員を出し、応募時に掲げた3つの審査項目をより細分化した採点基準で点数を付けていきます。ただ、そこに審査員ごとのフィーリングも影響するとは思いますね。
富士通 渡邉氏:富士通からは企画の立場のものからデザイナーまで、ばらばらの人間が審査に参加します。タブレットの購買意欲をかき立てられるものを期待しつつも、利用シーンについて新しい使い方が出てくるといいなと思います。
ドコモ 津田氏:審査にはドコモ・ベンチャーズのメンバーも参加しますので、将来的にドコモのサービスと連携できそうなものがあれば、魅力を感じると思います。また、審査員によって好みは大きく違うと思いますので、ユーザー目線で見ていけたらよいですね。
――アプリの完成度は審査に関係するのでしょうか
ワコム 桧森氏:アイデアや今後の伸びをいちばんに見ています。そこで高いものをもったアプリであれば、ファイナルの後、開発支援金やより深いメンタリングなどサポートを実施しますので、そこで完成度を高めてもらいたいと思います。
ドコモ 津田氏:審査ではアイデアのプレゼンテーションが中心なので、企業やグループ、個人の間でリソース面の差が出ることはないと受け止めています。
――ファイナルイベント後、受賞アプリなどはどう展開するのでしょうか
ワコム 桧森氏:今回開発されたアプリの帰属権は、参加チームにあります。そこを踏まえて個別に商業化に向けた契約を締結し、「WILL」など技術面に関してより突っ込んだメンタリングプロセスを1ヵ月から1ヵ月半とりたいと考えています。そこで実際にアプリの完成度を高めていただき、夏ごろにGoogle Playへのマーケットインや、「arrows Tab F-02K」に搭載されるランチャーの「Ink Station」などでの紹介に進めればいいですね。また、何かしらの形で事後的なプロモーションをしながら、各社と有意義な形で広めていただければと考えています。
現時点ではまだ明確に決まっていませんが、ワコムとしてもおすすめのアプリとしてユーザーにまとめて紹介させていただくほか、店頭でのデモンストレーションなど、タブレットやペンの書き味を含めて体験してもらえる場を作っていければと思います。
――インカソンのファイナルイベントや、今後の市場に対しての意気込みは
ドコモ 津田氏:インカソンは一般的なイベントとは異なり、長丁場の開発のあとに成果物を世に出すことを想定したコンテストです。この記事を読まれている方も、ただアイデアを知って終わりではなく、アプリが世に出るプロセスを見ながら体験してもらえることを期待しています。実際に出てきたものに触って、評価していただければ幸いです。
富士通 渡邉氏:参加される開発者に向けては、アイデアやアプリに関してはもう固まっているので、後はプレゼンで夢を膨らませるところに注力してもらいたいですね。ユーザー視点としては、これからデジタルペンやアプリが広がっていくための流れの一部だと思います。デジタルペンの今後に期待しつつ、実際に「arrows Tab F-02K」やアプリでペンを使ってみてください。
ワコム 桧森氏:壮大な話になりますが、ワコムはみなさんが使われている紙とエンピツを、すべてデジタルに変えていきたい、デジタル化で人の暮らしに役立つことを増やしていきたいという狙いがあります。例えば、教育の現場では「生徒ひとりに1台のタブレット」と言われていますが、そこにデジタルインクがあれば学習のスタイルもより便利に、大きく変化すると考えています。
今回は「WILL」を使った発表コンテストですが、デジタルペンとインクがみなさんの暮らしを少しずつ変えていく、これからの生活に欠かせない物になるんだという、将来を感じさせるようなインカソンになればと思います。
――ありがとうございました
(提供:富士通コネクテッドテクノロジーズ)
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