合同会社テックアクセルベンチャーズは、有望なテクノロジーをもつベンチャー、スタートアップに対して、投資・支援を行なっている。2018年2月6日、ビジネスプランコンテスト「Tech Sirius 2018」を開催。IoT、AI、ロボテクス、モビリティー、ヘルスケア、スマート農業、社会インフラといった技術革新が進む領域を対象に、2017年10月よりテーマを募集。最終選考に選ばれたベンチャー11チームが、集まった投資家や企業の新規事業担当者などの前でプレゼンテーションを披露した。
プレゼンに登壇した11チームの中から体内時計を可視化するサービスを提案したo:(オー)が優勝に選ばれ、賞金50万円と6ヵ月のカタライザーサポート(メンタリング)が贈られた。2位はtiwaki、3位は早稲田のNicebotチームが受賞。またexiiが特別賞のDJI賞を受賞した。それでは、登壇した企業を紹介していこう。
個人向けのヘルスケアデバイスから高度な医療技術まで
優勝したO:(オー)は、体内時計を可視化して、睡眠改善・生産性を向上させるサービスを提案。不眠症の改善には、睡眠時間をコントロールする認知行動療法「CBT-i」が世界的に有効とされている。そこで、腕時計型デバイスと、CBT-iを基にした体内時計コーティングアプリを提供。睡眠の改善や、覚醒度が下がる時間を検知することで、運輸/運送/鉄道業界の事故防止、メンタルヘルスの予防、労務環境の改善などに役立つ。
AR、ヘルスケアベンチャーのFunLifeは、ARとモーションセンシング技術を使い、擬似的にプロトレーナーのマンツーマン指導を受けられるプラットフォームを開発。モーションキャプチャー、センサー、ARを組み合わせたARC Mirrorで、ユーザーの動きを3D計測。ミラーに表示されるプロのトレーナーとの動きの違いをリアルタイムで検出し、ユーザーにフィードバックすることで、効果的なトレーニングを提供する。
創薬ベンチャーのアキュルナは、核酸ドラッグデリバリーシステム(DDS)を開発。核酸医薬は、遺伝子に直接働きかけて癌などの難治性疾患を治療する、注目の医薬品だ。ナノテクノロジーで設計されたDDS(Drag Delivery System)により、目的の腫瘍内へ届ける製薬技術を開発。高度に設計されたポリマーは、ステルス機能、ターゲティング、目的地でリリースするための放出機能を備える。患者の負担が少なく、有効性が高く、安価に製造可能だ。
AIによる文字や物体技術の活用
AIベンチャーのシナモンは、ホワイトカラーの生産性を改善する人工知能ソリューション「Flax Scanner」を紹介。AIを活用したOCRで、不定形フォーマットのビジネス文書を高精度に読み取れる。手書き文字の認識精度が99.2%と高く、保険や金融の法務文書、運輸業の伝票などの処理・管理への活用が期待できる。ビジネスモデルとしては、初期費用+月額ライセンスでの提供を予定している。
もう1社、AIベンチャーとして登壇したtiwakiは、学習フリーの物体検出・認識技術「ONMYOJI」を開発。機械学習に不可欠な事前学習プロセスが不要で、1回のスキャンで物体を検出し、AR Wikiへの登録を実現。スマホアプリで手軽にモノを検出・認識し、それについての情報を調べられる。事業提携ニーズとして、小売店での商品情報、海外旅行者への提供などが想定される。
小さな工場や家庭へ、ロボットは、より人に優しく身近な存在に
ユニロボットは、コミュニケーションロボット「ユニボ」を紹介。独自開発の“記憶するAI”により、嗜好や生活習慣などを学習し、人との会話や雑談ができる。相手の表情から感情を認識し、より自然に双方向の会話が可能。現在は企業の受付などへの採用が主だが、本年度中に量販店やECサイトで販売を開始し、シニア向けの認知症防止の雑談相手、見守りなど、パーソナルAIの開発を進めていくとのこと。
早稲田大学のNicebotチームは、安全で操作が簡単な産業用ロボットを提案。従来の産業用ロボットは、高速に稼働するため、安全柵などを設ける必要がある。これが中小の狭い工場への導入の妨げになっている。Nicebotは、ロボットの表面に触覚センサーを搭載し、人の接近を感知して未然に衝突を回避。速度を制御して事故を防げる。また、柔軟な関節で力を制御でき、これまで難しかったバリ取りや仕上げ研磨などの作業も可能。人手不足の小さな工場で、人とロボットが一緒に働ける未来が来るかもしれない。
立命館大学のチトセロボティクスは、人間の神経システムを模した超高精度制御技術におるロボットの月額派遣サービスを提案。既存の産業用ロボットは、プログラミングにかかるコストが高く、人件費が価格の8割を占めるという。チトセロボティクスの提案する産業用ロボットアームは、独自技術「感覚統合アルゴリズム」により、プログラミングが不要で、ロボットを設置してすぐに使えるのが特徴。低コストで納期が早く、ネットワークにつなぐだけですぐに使用できる。月額派遣制で、外食産業や製造業などでの実用化を想定している。
筋電義手で知られるexiiiは、VRの中に自分の手が表示されるグローブ型力触覚呈示デバイスを開発。皮膚への振動や筋肉への電気刺激によって触覚を再現する従来の技術とは異なり、モーターからトルクを加えることで、皮膚と筋肉の両方に、より実際の触覚に近い感覚を生み出せる。ソリューション事例として、CADデータに触れるデザイン検証ツールを大手自動車メーカーに納品済み。BtoBからスタートし、2019年には、コンシューマー向けに、触覚を再現する手首装着型のウェアラブルデバイスを提供する計画だ。
そのほか、宅配の再配達問題や太陽光発電所の老朽化問題といった、社会問題化している課題解決のためのソリューションが提案された。
マッシュルームは、スマホ通信認証技術を使ったスマート宅配ボックス「VOX」を紹介。配達員と受け取り主の双方がスマホの専用アプリで宅配ボックスの開錠や受け取り通知をやり取りする仕組みで、ネットワークの敷設が不要で低コストに設置できる。ビジネスモデルとしては、月額390円の利用料を想定している。
ヒラソル・エナジーは、太陽光パネルの発電不具合のモジュールを自動峻別して対策を提示するIoTソリューション「PPLC」を開発。電流型電力線通信技術を用いたPPLCセンサー、PPLCゲートウェイ、PPLC解析エンジンを合わせた保守ツールを太陽光発電所向けに提供する。
今回の最終選考で登壇した11チームは、技術の革新性はもとより、ビジネスモデルやビジョンが明確な印象。観客には、イノベーションに関心をもつ多くの企業や投資家が出席しており、休憩時間には、会場の前には設置された各チームのミニブースに殺到、格好のビジネスマッチングの場となっていた。
ベンチャー、スタートアップは、多数のメディアで取り上げられ注目を浴びたとしても、実際に事業を軌道に乗せ、継続していくことは難しい。こうしたイベントへの参加は、新たなビジネスチャンスにつながるようだ。