プロセッサー事業が不振
赤字続きで会社を売却
話をAMCCそのものに戻すと、Hooshmand氏の下で売上こそ2億ドル前後をキープしていたのが、2008年度には1億9410万ドルで1億1510万ドルの純損失、2009年度には2億1420万ドルまで売上を戻すものの、3億930万ドルの純損失を出した責任を取り、Hooshmand氏は辞任する。
ちなみに最大の要因はまたもやのれん代の減損費用で、これが2億2300万ドルにもおよんでいる。後任がHooshmand氏の時代にCOOを勤めていたGopi博士で、従来のSONET/ATMが主流になっていた製品ラインを10Gイーサネットやその先に切り替えるとともに、ARMベースのプロセッサービジネスをなんとか軌道に乗せようとする。
たとえば2005年におけるAMCCの売上比率を見ると、79.9%が通信関連、9.9%がストレージ(つまり3ware)、そして10.6%がその他で、プロセッサービジネスはこの「その他」に入っていた。
ところが2012年になると通信とプロセッサーが50%:50%のところまで増えてきていた(ちなみに3wareの部門は2009年に赤字対策の一環としてLSI Corporationに売却されている)。
ただそのあと再びプロセッサー部門は不調に陥る。2015年は39.8%、2016年は43.1%と、再び通信関連の売上の方が高くなっていた。主な理由はX-GeneとX-Gene 2が思ったほど売れなかったこと、としていいだろう。
やっと昨年あたりから64bit ARMへのソフトウェア対応が本腰を入れて始まったところで、今年あたりはもう少し広がっていくと思われるのだが、その意味ではAMCCの決断は5年とは言わないものの3年ほど早過ぎた気がしなくもない。
そうこうしているうちにも赤字は累積していく。下表に1994年度~2016年度の売上と収益を示すが、倒産しないほうが不思議という結果になっている。
AMCC 1994年~2016年の業績 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
会計年度 | 売上 | 粗利 | 営業利益 | 純利益 | ||
1994年 | 4970万ドル | 2050万ドル | 170万ドル | 1020万ドル | ||
1995年 | 4700万ドル | 1940万ドル | -80万ドル | -110万ドル | ||
1996年 | 5030万ドル | 1610万ドル | -340万ドル | -370万ドル | ||
1997年 | 5750万ドル | 2740万ドル | 700万ドル | 630万ドル | ||
1998年 | 7660万ドル | 4230万ドル | 1480万ドル | 1520万ドル | ||
1999年 | 1億0500万ドル | 6710万ドル | 2390万ドル | 1710万ドル | ||
2000年 | 1億7240万ドル | 1億2210万ドル | 6110万ドル | 4860万ドル | ||
2001年 | 4億3550万ドル | 2億7240万ドル | -4億9270万ドル | -4億3620万ドル | ||
2002年 | 1億5280万ドル | 1080万ドル | -37億1950万ドル | -36億0570万ドル | ||
2003年 | 1億0160万ドル | 3970万ドル | -6億7910万ドル | -7億4550万ドル | ||
2004年 | 1億3120万ドル | 7360万ドル | -1億5000万ドル | -1億0490万ドル | ||
2005年 | 2億2020万ドル | 1億1570万ドル | -1億2770万ドル | -1億2740万ドル | ||
2006年 | 2億1460万ドル | 1億1990万ドル | -7770万ドル | -1億4840万ドル | ||
2007年 | 2億4250万ドル | 1億2670万ドル | -3670万ドル | -2420万ドル | ||
2008年 | 1億9410万ドル | 9540万ドル | -5200万ドル | -1億1510万ドル | ||
2009年 | 2億1420万ドル | 1億1310万ドル | -2億5750万ドル | -3億0930万ドル | ||
2010年 | 2億0560万ドル | 1億1270万ドル | -2610万ドル | -750万ドル | ||
2011年 | 2億4770万ドル | 1億5240万ドル | -1130万ドル | -100万ドル | ||
2012年 | 2億3090万ドル | 1億3210万ドル | -2億2560万ドル | -8270万ドル | ||
2013年 | -1億9560万ドル | 1億1260万ドル | -1億3490万ドル | -1億3410万ドル | ||
2014年 | 2億1620万ドル | 1億3100万ドル | -1050万ドル | -570万ドル | ||
2015年 | 1億6500万ドル | 9570万ドル | -5070万ドル | -5210万ドル | ||
2016年 | 1億5930万ドル | 6970万ドル | -3550万ドル | -3260万ドル |
結局AMCCはやはり通信関連の大手であるMACOMに、2017年1月に完全に買収される。MACOMは昔のAMCCのように、物理層に近いところの製品を扱う大手であり、AMCCの持つ通信関連製品はそのまま取り込まれたものの、プロセッサービジネスはまったく不要だった。結果、X-Gene関連製品とその部隊は2017年10月、カーライルグループ傘下のProject Denver Holdingsに売却されることになった。
ここで冒頭の話に戻る。インテルを辞職したRenee James氏はその後カーライルグループに入り、ここでOperating Executiveの職についていた。そうした中でX-Geneの部隊と資産丸ごとが同グループに転がり込んできて、現在はJames氏がこの再生を担っているというわけだ。
それなりに長い歴史を持っていたAMCCであるが、消えるときは他の会社と同じく、一瞬とは言わないまでもあっという間に消えたなぁ、というのが筆者の実感である。
AMCCらしい製品という意味ではプロセッサーよりもむしろ通信関係の方がメインであり、これはMACOMの一部に取り込まれてしまった。かつてBroadcomに買収されたSiByteやRMI Corporation(Raza Microelectronics)、NetLogic Microsystemsの製品のように、製品そのものはこのままひっそりと消えていくのだと思われる。
この連載の記事
-
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート -
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ