「手を変え」「品を変え」「景色を変え」を試してみる
伊佐:言える化が重要なのは理解しました。ただ、僕らは経験もあるので、こうやってある程度整理しながらコミュニケーションできるじゃないですか? 一方でモヤモヤを伝えられないチームメンバーもそれなりにいると思うんです。たとえば、営業の定例会で「この報告って必要なんだっけ?」とメンバーが感じているとか。こういう場合って、なにをすべきでしょうか? 働き方改革って事例はいっぱいあるのですが、みなさん「それでもできない理由」をたくさん持っているんですよね。
沢渡:私がよく言っているのは、「手を変え」「品を変え」「景色を変え」の3つです。社長相手だったらやっぱり本音は言えないし、同じメンバーでやりとりしてもなかなか本音で合意形成できないですよね。であれば、若手同士に変えたり、話す相手を社外の人にしてみるなどがオススメ。社外の人であれば、バイアスが取り払えて、意外と本音が言えるというのはありますよね。
伊佐:でも、メンバーを変えるって難しくないですか? 同じチームだからこそ、共通の目的があって、課題の共有もできるわけで。
沢渡:業務内容を細かく説明する必要はないので、できると思います。「外を知らない、井の中の蛙たち」という札がありますが、外を知ろうという話は必ずしていますね。「うちは特殊なんです」という会社は、まさに「外を知らない」から感じるんです。でも、これだと負のスパイラルに陥ります。
大谷:昔は同業の人たちと横つながりする機会なんてあまりなかったけど、少なくとも都内のエンジニア界隈はノウハウもオープンになってますよね。そして、この流れは今後加速していくはずなので、多くの人は認識を改めた方がいいと思います。
沢渡:これは管理職にも関係する話で、「若手を外に出す腹決めはしてください」「エンジニアは中に囲ってはいけません」とよく話しています。エンジニアには社外の勉強会に参加してもらい、社内にトレンドや危機感を持ち帰ってもらうべき。これでエンジニア自体も組織も、育ちます。外に出しにくいのであれば、読書会やってみるだけでもいいし、このカルタで遊んでもらってもいい。
大谷:個人的には「働き方改革の成功の可否は上司との関係にある」という結論めいたものがあります。有給取得とか、残業の撲滅とか、制度面はけっこう整備されてきているんですが、実効を上げているのは、やはり上司が積極的に定時で帰るとか、勉強会の参加を後押ししてくれる会社ですよね。
沢渡:大手インテグレーター時代の私の上司がまさにそういう人で、定時に帰っていたし、外の勉強会にも積極的に参加していました。そういう上司の背中を見てきたので、僕も安心して勉強会やイベントに参加できたし、外で得たインプットは組織の中に取り込んできた。もちろん、そんな僕を見た若手も勉強会に参加していたので、好循環ですよね。グーグルが主張する「組織の心理的安全性」ってまさにこれだと思いました。現場のマネージャーが働き方改革の成否に大きな影響を与えると考えています。
大谷:3つめの「景色を変える」のも重要ですよね。スタートアップやWeb系の会社が昭和っぽい社員旅行や合宿、初詣を復活させたり、クリスマスやハロウィーンパーティやってますよね。あれって、昔は広報・マーケティング活動の一環で見ていたのですが、最近はコミュニケーションの促進や従業員満足度の向上に寄与しているのに気づいたんです。今聞いていると、まさに「手を変え」「品を変え」「景色を変え」だなあと。
沢渡:サイボウズさんのオフィスのようにいろいろな景色が用意されているのも重要です。景色が変わってくれば、見えてくるモノも変わってきます。誰がなにをやっているのか見えれば、困っていたことを一人で悩まず、相談できる相手も見つかります。「あのときコスプレした方ですよね!」で、エレベーターでの会話が生まれます。
もちろん、組織は生き物なので、同じやり方がずっとヒットするわけではありません。技術職、営業職、事務職などの役職や、シニアが多い、若手が多いなどのメンバー構成でやり方は違うし、もちろん上司が変わったら、アプローチも変わります。だから、「手を変え」「品を変え」「景色を変え」はとにかくバリエーションを持っておくのがオススメです。
伊佐:ツールが先にありきというのもありなんですか? 課題解決って、手段が目的化しやすいんですよね。自分たちの課題なんだっけ?とか、自分たちが働く意味や理想の形ってどんなもの?みたいな議論なしに、表面に出てくる残業を減らすのに躍起になるのは辛いと思います。
大谷:kintoneの広告を見て、kintoneだったら解決できるはずだといって手段から入るパターンですね。
沢渡:ありです。会議で2人が議論していて、なかなか意見がかみあわない。そこに、3人目の人がやってきてホワイトボードで2人の意見を図解すると「それな!」ってなることありますよね。言いたいことが視覚的に言語化できたり、妥協点が見出せたり。この「それな!」の納得感ってけっこう重要なんです。今まで言葉だけでやっていたのを、たとえばkintoneを使って、写真や画面、書き物などいろいろ手を変え、品を変えていけば、けっこう「それな!」につながります。
「見える化」があるから「言える」という部分もある
大谷:ここまで言える化のためのメソッドを見てきたのですが、サイボウズ社内で言えなかったことが言えるようになったみたいなフェーズはあったんでしょうか?
伊佐:事実やデータが溜まっているから言えるようになったという点は大きいと思います。単純に裏付けがないから「言えない」わけで、そうなると社内政治や人間関係に依存してしまう。その点、サイボウズは「事実と解釈を分けてコミュニケーションしよう」というルールがあるので、事実があれば誰でもフラットにコミュニケーションができます。
沢渡:そうなんです。やっぱり見えると「言える」んですよね。
伊佐:「僕はこの仕事にこれだけ時間を費やしている」「問い合わせが1週間でこれだけ来ています」「1件あたりの応対時間でこれだけ費やしています」などの事実で、それが伸びたり、減ったりすれば対応方針はおのずと決まります。
大谷:働き方改革するにも、その時間が足りないという意見についてはどうですか?
沢渡:人は目先の仕事に追われる生き物なので、時間がないのは当たり前です。だから、自分の仕事を洗い出して、とにかく見える化する必要があります。
伊佐:なあなあに仕事していると、見える化ってできないんですよ。測定しようと思うと、仕事をフレームワークにはめていかなければならない。フレームワークを使うことで、仕事のスタートはどこか、測るべき指標はなにか、などをはじめて統一できます。
沢渡:フレームワークに当てはめてあげないと、客観的にどこに問題があるかわからなくなります。だから、問題が問題化しません。
大谷:やはり、見える化に行き着くんですね。私も1ヶ月間で忙しさの山と谷がはっきりしている月刊誌の編集部から、毎日継続的に記事を挙げ続けるWebメディアの編集部に移って仕事のやり方が大きく変わったので、タスクの見える化はすごく重視しています。なぜこんなに仕事が沸いて出てくるのか知りたくて分類していくと、タスクって重要度と緊急度の2軸になるんですよね。
沢渡:いつかやらなければならないけど、今すぐやらなくてもいい仕事ってやはり優先度下がります。今、目先の仕事をやったほうが達成感もあるので、流されてやらなくなるんです。1ヶ月後にもらえる2万円より、今目の前にある1万円をとる心理と同じですよね(笑)。だからこそ、業務を見える化し、仕分けする作業はきちんと意識してやる必要があります。
大谷:私の場合、子供のプールの待ち時間が必ず土曜日に発生するので、その時間にルーティンでやってます。これやると、次週の月曜日に慌てることがないんですよ(笑)。
沢渡:いいですね。タスクを書き出すだけでもいいんです。面白いことに、みんなでタスクを見える化すると、なんか言いたくなったり、分類してみたくなるんですよ。
ある大手旅行会社では、ベテランの女性社員が若手の不満を聞きだそうと、ボランティアでホワイトボードに課題を書き出し始めたんです。でも、書き出したら、なんか料理したくなった(笑)。こうして分類を始めて行ったら、今では本部長も入った課題解決の検討会になった。「これは個人でがんばること」「この仕事は捨てよう」「これは本部長の宿題だ。部課長会議にかけて、結果はフィードバックします」など前向きな議論が生まれています。
伊佐:時間がないことを理由にする人は、本気になってないだけなのかも。書き出してみれば、次のステップが見えるということですね。
沢渡:そうですね。一度立ち止まって、意識して仕事を書き出さないと、改善なんてできっこないですよね。こうして書き出したモノをさらに共有することで、「この仕事、私は得意なのですぐにできますよ」とか、「前職でその仕事はアウトソーシングしていたので、取引先紹介しましょうか」といった声が挙がってくるので、一人で悩まないでも済むようになるんです。休める職場を作るのに、タスクの見える化は大事。「これは明日やればいいよね」みたいなことが言えるし、管理する側も判断できるんです。
沢渡:結局、日本人って今日来た仕事を全部受けてしまう。でも、先が見えていれば、今日やらなくてもいい仕事がわかってくるので、休みも取りやすくなる。実際、ブラックだったIT現場でも、タスクとスケジュールを書き出すだけで、休める職場に変わってきたのをこの目で見てきました。