本格導入フェーズに入り表面化してきた「悩み」と、その「処方箋」
国内でも、先行する企業ではPoC段階から本格導入段階へと進みつつあり、それに伴って新たな課題も生まれてきている。安部氏は、すでに(あるいは今後)本格導入を進める企業が直面する“悩み”として「全社導入に向けた活用促進」や「全社展開後の運用統制強化」があると述べ、それぞれの“処方箋”を説明した。
安部氏によると、RPA導入企業の多くは、一部部署が先行して業務導入を進め、その効果(成功)を知った他部署も導入し始めるという“草の根パターン”で展開が進んでいるという。ただし「PoC段階は一部の理解者で始めることができるが、全社導入を進めるには経営層の理解が必要になる」(安部氏)。
RPAに対する経営層の理解を促すために、安部氏がこれまで見てきた幾つかの具体例が紹介された。デモなどをまじえて実業務レベルでどう効率化されるのかを具体的に説明すること、「業務量が減る」という定量的効果に加えて「人的ミスが減る」「待ち時間が短縮される」といった定性的効果も訴えること、従業員が本来注力すべき戦略的業務に人員を集中させられると示すこと、などがポイントになるという。
「導入企業に聞くと、単純な業務量削減(定量的効果)の1.5倍くらいの効果(定性的効果)が出ると、皆さんおっしゃる」(安部氏)
また、現場の具体的な業務を知らなければRPAによる効率化は不可能であり、現場主導で全社展開を進めるためには、社内のあらゆる部署で「改革意欲に火を点ける」必要があると、安部氏は説明した。導入企業では、たとえば各部署有志による社内研究会を発足(大和ハウス工業)させたり、半年ごとに社内啓発セミナーを開催して体験と理解を促進(NECマネジメントパートナー)させたりする取り組みが見られるという。
全社展開が進むにつれてもうひとつ課題になってくるのが、RPA構想策定/導入/運用に対する統制(ガバナンス)をどの程度、どういう形で効かせるかだ。“草の根”から導入が始まった場合でも、リスクのある不適切な業務適用の抑止や、利用するRPAツールの社内統一などを図るために、やがては全社視点からの統制が必要となってくる。
安部氏は、具体的な導入や運用は現場判断に任せ結果だけを把握する「情報把握型」、現場のRPA活用を推奨/支援しつつ一定の統制をかける「支援型」、全社的な統制を行い現場に権限を渡さない「統制型」という、3つの類型があると説明した。
安部氏によると、統制型組織の場合はRPA導入を強制的に進め、各部署に対し「1年以内に30%の業務をRPA化しなさい、といった具体的目標を示すケースもある」という。その代わりに、導入/運用のための予算(コンサルティング費用など)も各部署に配分されるという。
最後に安部氏は、アビームが考える将来像として「デジタルレイバープラットフォーム」を取り上げた。予測不可能なスピードでビジネスが変化し、新たな業務システム/アプリケーションが追加される一方で、既存のシステムや業務は変更が追いつかなくなりつつある。そこで、既存の業務とシステムを大きく変更することなく、新しいシステムとの間を「最適につなぐ」レイヤーとして、デジタルレイバープラットフォームが必要になってくるという考えだ。
安部氏は、比較的導入しやすいツールであるRPAが「きっかけ」となってこうした変化が始まり、すでに先進的なRPA導入企業では、OCRやIoT、AIなど、新しいツールとの連携を模索する動きも出ていると説明した。
「先進企業では、RPAに代表されるデジタルレイバープラットフォームを、単なる“業務改革ツール”では終わらない、人と外の情報とをつなぐものと捉え始めている」(安部氏)