金融機関向けシステム
Tandem/16が誕生
フォールトトレラントの仕組みに基づく最初のシステムがTandem/16、あるいは単にT16と呼ばれるもので、1976年に発表され、後にNonStop Iと名前が変更された。プロセッサー1つあたり2枚のボードから構成され、2~16枚のプロセッサーボード(ユーザーからは1~8CPUとして見える)の構成が可能だった。
画像の出典は、“Real Time View”
プロセッサーボード1枚あたりの性能は0.7MIPS程度。OSは独自のT/TOS(Tandem Transactional Operating System)という名称だったが、すぐに先に出たGuardianという名前がついている。開発言語はTAL(Transaction Application Language)という独自のものが提供され、後にCobol/Fortran/MUMPSなどが追加される。
特筆すべきは金融機関向けを考慮してか、当初からBCD演算や64bit整数がサポートされていたことだろうか。価格は、1997年5月23日号のComputerworldによれば、デュアルプロセッサーのT16/210が3万9500ドル、T16/240が4万1500ドルとなっている。
両者の違いは、T16/210が64KBのコアメモリーを搭載、一方T16/240はより高速なバッテリーバックアップ付きDRAMを64KB搭載となっていることだ。ちなみに1977年5月の為替レートでは1ドルが277.429円なので、日本円にするとだいたい1100万~1150万円ほどになる。
もっともこれは最小構成で、かつストレージもテープドライブもなにもなしの構成なので、フルシステムにすれば1億円のオーダーに達すると思われる。
決して安いシステムではないのだが、金融機関向けということもあり金額はあまり問題にならなかったようだ。1977年には株式公開も果たすが、同年の売り上げは5600万ドル。これが1982年には3億1200万ドルまで増える。
災害対策用に遠距離拠点同士を通信で接続
景気後退でも黒字を維持
この間にシステムも着々と増強されていく。1981年には新しくNonStop IIシステムが発表された。こちらは32bitアドレスへの拡張をはじめ、プロセッサーへの機能拡張がずいぶん実施された。
画像の出典は、“Wikipedia”
システム全体でも光ファイバーを使って合計224プロセッサーのクラスターを組んだり、あるいは長距離通信回線経由で最大255拠点、合計4000以上のプロセッサーをつなぐといった構成も可能になった。
これは性能改善というよりは災害対策であり、ある1つのビルが災害などで使えなくなっても隣りのビルで継続運用したり、さらに離れた場所で別の計算センターを設けるということが可能になった。
日本でも例えば東京と大阪など、首都圏に限っても東京と川崎など、物理的に離れた場所にセンターを置いて冗長度を上げることで、地震・台風・大規模火災などに対応するというのは以前からあるが、こうしたニーズに対応した形だ。
あいにくNonStop IIに搭載された第2世代プロセッサーは、32bit拡張といいつつもこれを生かせる構造になっておらず、結果として16bitプロセッサーとしての運用が主であった。このあたりをだいぶ改良したのが1983年に投入されるNonStop TXPである。
従来のTTL(Transistor-Transistor Logic) ICのみの構成からTTL IC+PLD(Programmable Logic Device)での構成になり、キャッシュも搭載され、性能は2.0MIPSまで引き上げられた。その代わり、ボードは1プロセッサーあたり4枚に増えている。
先の光ファイバー経由での接続(これはFOXという名前がついていた)や長距離通信回線経由での接続は、このNonStop TXPの世代で本格的に活用されるようになる(一応NonStop IIも利用可能ではあった)。
1986年には、完全に32bit化されたNonStop VLXも投入される。動作周波数は12MHzで、ピークで1命令/サイクルでの処理が可能となり、理論性能は12MIPSとNonStop TXPの6倍に引き上げられた。
プロセッサはECLベースのゲートアレイを搭載したボード3枚で構成されている。また同時期にFOXもFOX IIにバージョンアップされ、4Kmの距離まで拠点を離せるようになった。
もっともこれらの新製品投入の間、同社の基盤は磐石だったかと言うとそうでもなかった。1980年に入るとStratus Computerが4プロセッサーのフォールトトレラントなシステムを投入し、さらにHP、IBM、DECといったメーカーも同様のフォールトトレラント・システムを開発中だった。
1982年には景気後退もあり、当初Tandemは1982年度の売上を3億3600万ドルと発表。ところが実際には出荷していない売上がここに計上されていたとして売上を3億1200万ドルに下方修正。米証券取引委員会の調査が入るという騒ぎになる(最終的には特に罰則も罰金もなく終了)。
これもあってTandemは監査チームを新設する。また景気後退局面に直面したこともあり、新規採用と昇給を6ヵ月凍結したほか、研究開発費や間接費の削減に勤しむものの、1984年の同社の収益は80%減少する。もっとも同時期には赤字に陥った企業も少なくなかったから、黒字を維持できただけでも大したものであるのだが。
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