左右同一構造による高音質化
有線ハイレゾ時と無線時の音質的な傾向も揃えた「HPH-W300」
―― では、それぞれのモデルについて聞かせてください。まずはオーバーヘッド型のヘッドホン「HPH-W300」はヤマハ初のワイヤレスである一方、有線時はハイレゾ対応するという野心的なモデルです。
波多野 まずは有線接続と、Bluetoothによる無線接続とでの音質差が少ないことを目指しました。Bluetoothは圧縮音声での伝送ですし、有線ならばハイレゾ対応となるので、周波数特性が異なりますが、どちらも音質的な傾向が揃うようにしています。手軽なワイヤレスと有線のハイレゾ再生のどちらでも満足できるものに仕上がったのでは。
―― ワイヤレスタイプはBluetoothの回路やアンプ、バッテリーなどを内蔵するので、左右で内部構造が異なっていることが少なくありませんが、HPH-W300は左右同一構造としています。これはどのようなメリットがあるのでしょうか?
波多野 左右の構造が異なると、音にも違いが出てしまい、自然なステレオ感が損なわれてしまいます。HPH-W300では、バッテリーや電気回路を別のスペースに退避させた上で、エンクロージャー部分の構造は左右共通にしています。外側からはわかりませんし、コストもかかるのですが、音質のためには譲れなかった部分ですね。
―― ハウジングを支えるハンガーの回転軸が傾いているのは装着感アップのためだと思いますが、同時にチャームポイントにもなってますね。
波多野 ヘッドバンドに対してハンガーの回転軸部分を約15度傾斜させています。こうすることでハウジングの密着感が高まりますし、耳の穴の位置とドライバーユニットの位置が揃います。装着感と音質の両方にメリットがあります。
また、装着感に直結するイヤーパッドにはこだわりました。縫製方法から内部に収めるクッションの材質・形状の違いに至るまで、さまざまな組み合わせを検討し、かなりの数を試作しています。最終的には立体縫製と低反発のクッションの組み合わせで、音質と装着感が両立できるものを選びました。
―― そのような音質面での要求が高かったにもかかわらず、本体は肥大化するどころか薄さを感じるところが興味深いです。
大町 ワイヤレスのための回路やバッテリーを内蔵しながら、装着時にはスッキリとした見た目になる薄型デザインの構築には苦労しました。また、操作用のタッチセンサーコントロールを内蔵するため、ハウジングは樹脂素材なのですが、ロゴマークにスピン加工を施し、音への信頼の証として主張するなどの細かな工夫もしています。
装着感に加え、装着時の持ちやすさにまでこだわった「EPH-W53」
―― 今度はワイヤレスイヤホン、いわゆるネックバンド型のEPH-W53についてお聞きします。イヤホンのハウジング部分にはフィット感を高めるスタビライザーが装着されているなど、やはり装着感にこだわりがありそうです。
大町 装着したときのフィット感も重要ですが、今回はそれに加えて装着時の持ちやすさにも配慮して形状を決めていきました。無造作に置かれたEPH-W53を三本の指で摘まんで耳にはめる……この一連の動作をいかにスムーズにするかにこだわっています。
―― 確かに、耳元まで持ってきたところで摘まみ方を変えないと耳に捻じ込めない、みたいな「日常生活でのちょっとした不快感」って、積み重なるとストレス源になりますよね。
大町 そのために、高さの異なるものやスタイビライザーの位置を変えたもの、果てはケーブルが飛び出す軸の太さまで仔細に検討しています。
波多野 そして、装着感は実際に試さないとわからない部分なのでコンマ数ミリレベルの試行錯誤が必要ですが、そのたびに金型を作るわけにはいきません。これまではそこが悩みの種だったのですが、今回は試作に3Dプリンターを導入したことで思う存分、試行錯誤できました(笑) 「試作→フィット感を確認→改良版試作→再度確認」を繰り返したことでフィット感をかなり詰められたと思います。
―― 装着感の向上のために、イヤーピースが5サイズ、スタビライザーも3サイズ同梱され、ユーザーに合わせたカスタマイズがしやすくなっていることにも感心しました。
大町 形状の検討の段階でも社内をはじめ、多くの人に試してもらっていますが、人間の頭部や耳の形状は個々人で微妙に異なりますので、よりフィットさせるためにイヤーピースとスタビライザーの種類を増やしています。このほかケーブルが本体から飛び出す部分の形状も、装着したときにケーブルが邪魔になりにくい角度にして、使い心地を高めました。
―― そしてヘッドホンのHPH-W300同様、EPH-W53にもバッテリーや電気部品を左右のハウジングそれぞれに内蔵するなど、左右の差をなくす設計を採り入れていますね。
波多野 イヤホンなのでサイズも小さく難しいのですが、ドライバーや保護回路、バッテリーは左右それぞれ同じものを内蔵して、左右の音質差・重量差を揃えています。また、自然な音を追求するため、イヤピースを装着する音導管の直近にドライバーを装着することで歪みの発生を抑えています。
―― 事前に試させていただいたときも、スムーズな装着や耳にすっぽりと収まる感触の良さに感心していたのですが、話を聞くほど細かな部分にまでこだわっているのがよくわかりました。イヤホンやヘッドホンは購入前に試聴する人は多いと思いますが、その際は装着感まで含めてじっくりと試してみてほしいですね。