1200社のパートナーとデジタルトランスフォーメーションに取り組む
クラウドパートナーに170億円を投じるファーウェイの共創シナリオ
2017年09月26日 07時00分更新
大手エンタープライズITベンダーを目指すファーウェイにとって欠かせないのがパートナー戦略。これは”5大クラウド入りを目指す”と宣言して取り組むクラウドでも同じ。9月7日まで中国・上海で開催した年次イベント「HUAWEI CONNECT 2017」の3日目の基調講演はパートナーと開発者にフォーカスしたものとなり、「共に市場を大きくしよう」と呼びかけた。
クラウド関連パートナーに170億円を投じるファーウェイ
基調講演に登場したエンタープライズ事業グループプレジデント Yan Lida氏は、デジタルトランスフォーメーションはビジネスとプロセスの変革であり、顧客、ICTベンダー、アプリ開発者の参画とバランスが必要だ、と説く。ヤン氏はこれを、“鉄のトライアングル”とした。顧客については、「デジタル化では組織の生まれ変わりが必要。トップ自らが支持し、積極的に参加するプロジェクトでなければ上手くいかない」と要件を述べる。そして、アプリ開発側では「業界の利用シナリオに合うアジャイルな開発」が必要になるという。
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Yan Lida氏。2015年まで日本法人のファーウェイ・ジャパンで代表取締役社長を務めた。現在も代表取締役会長を務める
そこで、ICTベンダーのファーウェイの役割は、そのようなアジャイル開発を実現するプラットフォームを提供することだ。「すべてをセンサーで感知し、つなげて、インテリジェント化するのがデジタル化の本質。物理世界とデジタルの世界とを融合させるプラットフォームが必要」とYan氏は語る。ファーウェイはIoT、ビックデータ、統合コミュニケーション基盤(ICP)などな技術を組み合わせることができるプラットフォームを備えるとYan氏。これに業界の知識を入れることで、様々なアプリを生み出すことができるという。
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ファーウェイはクラウド-パイプ-デバイスを土台にICTプラットフォームを構築している。パートナーや開発者はこの上に業界アプリケーションを構築できる
差別化は信頼性だ。「ファーウェイは顧客のデータをマネタイズしているのではなく、技術とサービスで利益を出している技術企業だ」とYan氏は述べる。顧客の要求や課題を理解するための場として、世界各地にOpenLabを設置している。現在の13拠点から20拠点に広げる計画だという。
自社のテリトリーについても「プラットフォームに徹する」と約束する。GEがIoTプラットフォーム「Predix」を構築するなどこれまでの枠組みを超えた事業展開が見られることに触れながら、「われわれはクラウドとパイプが協調関係にある包括的なプラットフォームにより、ワンストップのICTサービスを提供する」とした。
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ファーウェイのプラットフォームを土台に、パートナーと産業別ソリューションを構築している。
「デジタルトランスフォーメーションでは、自社のシェア拡大よりも市場のパイ全体の拡大が大切だ」とYan氏。ファーウェイの輪番CEO、Guo Ping氏は利益の共有を約束しており、1%の取り分しか想定していないことを明らかにしているが、Yan氏も「3年間で10億人民元(約170億円)をクラウド関連パートナー向けのインセンティブとして用意する。年商1000万人民元(約1億7000万円)以上のパートナーを100社以上をそろえ、1200社以上のソリューションパートナーと共にデジタルトランスフォーメーションに取り組む」と宣言した。
ファーウェイは会期中、2017年内に共同マーケティング7000万ドルを含む合計2億5000万ドル独立系ソフトウェアベンダー、SI事業者などのパートナーに投じる計画も明らかにしている。「1社では無理だ。われわれはプラットフォームに継続的に投資しており、パートナーは我々の技術革新のメリットを享受できる。プラットフォームはさらにリッチになり、繁栄するだろう」とYan氏はアピールした。
中国のAIベンチャー2社はなぜファーウェイを選んだのか?
イベント期間中、深セン市交通局、Honeywell、CERNとファーウェイのプラットフォームを利用する国内外の企業が紹介されたが、この日は中国のベンチャー2社が登場した。
ファーウェイが動画認識ソリューションで提携する顔識別技術ベンダーのYITU Technology、AIを利用して小売向けビジネス分析を手がけるSkyRECだ。
YITUは、中国の公共機関などが導入する監視カメラの動画処理システムなどでファーウェイと提携している。「この分野は急ピッチで進展している。2015年にロボットの顔識別の精度が人間を上回ったが、2017年には10億人から1人を識別できるレベルに達している。2年で1000倍の精度改善が図れている」とLeo Zhu氏、ニューヨークの研究所でこの分野の研究をしたのちに祖国に戻り起業した。現在CEOを務める。ファーウェイと組んだ理由は、「エコシステムがあり、チャネルがある。我々は大きなチャンスを与えてもらった」と語った。
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YITUの顔認識技術とファーウェイのビデオクラウドを利用して、特定の人物がいつどこにいたのかを正確に追跡できるという
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画像が増え、学習すればするほど精度が上がることから、YITUの画像認識の精度は2015年以降急激に上がっている。米国立標準技術研究所(NIST)の顔認識技術分野で1位に選ばれた
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YITUのLeo Zhu氏
SkyRECの共同創業者兼CEOのCate Xie氏は、英国の小売大手とのプロジェクトを紹介した。女性向けの靴売り場の人の流れのデータから、足を止めているのがもっとも多いエリアはボディクリームが置かれているところであることがわかった。人が止まっている時間が多いのになぜ売り上げにつながらないのか――分析したところ、女性のショッピングに付き合っている男性がそこで待っていることがわかった。そこで男性向けの製品を置くこと、男性向けの商品を宣伝することを提案、2週間で15%の売り上げ増が図れたという。
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SkyRECのCate Xie氏
SkyRECはファーウェイのビデオクラウドを利用しているが、ビデオクラウドの技術とグローバル展開能力などの将来性、人の3つが決め手になったという。「Amazon Web Services、Microsoftなども検討したが、ファーウェイを選んだ最大の理由は人。専門性があり、フォーカスしており、創業者の精神を感じることができる」と評価した。
ファーウェイはこの日、1年前に発表した開発クラウドサービスの最新版「DevCloud 2.0」も発表している。高速な開発、品質、効率の良い管理、多様なコラボレーション、安全性の5つにフォーカスして機能強化を図っており、1分でコードのサブミット、10分でコードのテスト、1時間でのコードのデプロイができるなど、開発者の生産性改善を支援するという。ファーウェイによると、DevCloudの利用者はすでに8万人に上るという。
このように、ファーウェイのクラウドそしてエンタープライズ事業の勢いは加速している。同社は4月、2016年のエンタープライズ事業の売上高が47%増加したことを発表しているが、Yan氏は会期中、記者向けの質問に答える格好で、「市場は伸びており、成長の潜在性は大きい。クラウド事業ユニットを設けてクラウドに取り組むことで、2年で売上高倍増を達成できるだろう」との見通しを示した。
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