よく見るとおかしなところがチラホラ
前回お伝えしたとおり、第二次世界大戦時に米軍が使っていたウール製のシャツとパンツ、通称マスタードシャツとマスタードパンツに合わせて、ブーツも買いました。
第二次世界大戦のころのブーツというと、基本は短めのアンクルブーツとレギンスをセットにして履くか、革製レギンスが一体化されたような形をしていて2本のベルトで固定する通称2バックルブーツが一般的らしいのですが、ワタシが買ったのは騎兵用のもの。2バックルブーツを長くしたようなヒザ下まであるロングブーツで、レギンス部分は3本のベルトで留めるようになっています。
これは映画『フューリー』でブラッド・ピット演じるウォーダディーことドン・コリアーが履いていたブーツと同じモデルで、1940年に採用されたためM1940騎兵用ブーツと呼ばれたりしています。正式名称はBoots, Leather, Laced, Legging Top。Leggingはレギンスのことで、上部がレギンスになっているヒモ付きの革製ブーツというストレートな名前です。
元々第二次世界大戦装備が気になり出したのもフューリーの影響が大きいんですが、なんせ詳しくないのでなにを買えばいいのかわかりません。それで、とにかく真似してみよう、どうせならやっぱりブラピだよね、と選んだわけです。
当時の実物ですが傷は少なめで、あまり使われていなかったようにも見えます。とはいえ製造から80年近く経つ代物なので、ベルト表面はヒビだらけ。また、買うときって割と大雑把にしか見ていなかったりするので、買ったあとよく見てみると、おやおや? と思うところがありました。そしてとあることに気付いたのです。
疑問のひとつはベルトの移動跡。3本あるベルトのうち真ん中の1本の位置をズラした跡が残っているのです。現在はちゃんと真ん中になっているので、使いやすいように上にズラしたあと手放すときに元に戻したか、手に入れた人が直したのかなと思いました。
もうひとつは左右の内側に押されたスタンプ。最初左右で違うスタンプが押されているように見えたのですが、書かれた文字を読んでみたら、左足側に8 1/2Eというサイズ表記が多いだけでほかはまったく同じ。どうやら一部が隠れているだけで同じスタンプのようです。
最後はスタンプに製造年月日がないということ。普通の商品にはそんな物は入っていませんが、軍への納入品は物品管理番号やメーカーなどと一緒に製造年月日が書かれていることが多いのです。ところがそれが見当たりません。
謎はすべて解けた!
最初に気付いたのは製造年月日でした。
ネットで検索するとやはり製造年月日も書かれているものらしく、どうやらスタンプの上の方にあるらしいことがわかりました。そう思いながら左足のスタンプ部分を見ると、フチの部分の縫製がズラされていて、チラリとめくれると気付きました。そしてそこにあったのはAPRIL 15, 1941の文字! まさしく製造年月日です! これで1941年4月15日製なことがわかりました。
それにしてもまたズレです。以前の持ち主もめくってみたくなって、縫い目を一旦外し再度縫い直したんでしょうか。
古い軍装品だと製造年月日って気になるからありえる話だよなぁとか考えていて、ハタと気付きました。もしかして右側もズレてて、サイズ表記がフチに隠れてるのかな? と。
そして右側のスタンプ部分を見ると、まさしくこちらも縫い目がズレています。めくってみると思ったとおりサイズ表記がありました! たぶんさらに上には製造年月日もあるに違いありません。
これはきっと、メーカーが製造する際に、裁断したパーツにスタンプを押してから縫製したんだろうなと思い、隠れちゃったら意味ないじゃんとか考えていました。
それにしても酷い縫い目です。左右で糸の色が違うのは縫い直したりほつれを直したときに同色の糸がなかったのかなとか思わなくもないですが、線がかなりガタガタ。しかも下の縫い目をズラしたのかと思ってたんですが、上端やほかの部分もかなり変。さらに、真ん中のベルトだけでなく一番上のベルトも縫い直されていました。
というわけでちょっと変なところのあるこのブーツ。スタンプの位置のズレ、ベルトの位置修正、フチ部分の縫い線の汚さ。これらが示しているのはなんでしょう。もうみなさんお気づきと思いますがそのとおり。上部のカットです!
上端を切ってリフォームされていると考えれば、すべて合点がいきます。
改造した人はまずフチの内側の補強革を外し、一番上と真ん中のベルトも取り外したのでしょう。次にレギンスの上部をぐるっとカット。フチの補強革を付け直して一番上のベルトを取り付けたら、最後に上下ベルトの中央に真ん中のベルトを付ければ完成です。
実際、規定では高さ17インチなので約43センチあるはずなのに、測ってみたら40センチちょっとしかありませんでした。1インチカットしたのではないかと思われます。
そういえば身長180cmあるブラピが履いてヒザ下なのに、171cmしかなくて足の長さが残念なワタシが履いてもヒザ下だなんてことがあるわけないし! そこで気付けって話ですよね。
真ん中のベルトだけ移動させるなんておかしいなとは思っていたのですが、これで納得がいきました。当時使っていた軍人さんが直したのか、その後入手した人が実用のためにやったのかはわかりませんが、自分の足に合わせたんでしょう。
ワタシが作り方を疑ってしまったメーカーはINTERNATIONAL SHOE COMPANYという会社。1911年設立の老舗で、第二次世界大戦時には、唯一米陸軍のすべての事業に入札できるような大規模メーカーとなっていたそうです。契約番号はW-155-Q.M.に続いて5桁の数字があるはずですが、はっきりとは読めませんでした。最初の4桁はたぶん1091で、最後の1桁は上部が丸く見えるので2、3、6、8、9のどれかだと思います。SPEC NO.2はすみません、なんだかわかりませんでした。BOSTON DEPOTとあるので、マサチューセッツ州ボストンにある補給廠に納入されていたようです。
ブーツにあった表記
8 1/2E 1754 9
INTERNATIONAL SHOE
CONTRACT NO. W-155-Q.M. 10?1?
SPEC NO.2
BOSTON DEPOT
オリジナル状態が一番と考えている人だったらガッカリするところかもしれませんが、ワタシはこれならイベントなんかで使ってもいいやと、むしろ気楽になりました。軍装品はラベルから製造年や発注年度、メーカーの名前や住所などがわかったり、たまにこういう発見があったりするのが楽しいです。またおもしろい物が見つかるといいなぁ。
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