富士通は、5月18~19日の2日間、東京・有楽町の東京国際フォーラムで「富士通フォーラム2017」を開催した。「Human Centric Innovation : Digital Co-creation」をテーマに、約100種類のソリューションが展示されたほか、基調講演や特別講演、セミナーなどが実施された。
初日の5月18日午前9時30分から開催された富士通・田中 達也社長の基調講演は、今回のテーマに則って「Digital Co-creationの実現に向けた富士通の取り組み」について紹介。数々の事例を交えながら、富士通のビジョンや方向性を示すものになった。
ICTで農業を変える
講演の冒頭に田中社長は、アジアに赴任していたときに好きになったというパクチーを手に取りながら、「富士通はICTで農業を変えようとしており、幅広く連携している。これがDigital Co-creation(共創)の一例である」と切り出し、富士通が農業分野で共創しているスマートアグリカルチャー磐田(サーク磐田)を紹介。同社の須藤 毅社長が登壇した。
「サーク磐田では2016年4月から、富士通の農業用ICTによってマネジメントされた8.5haの農地を使い、パクチーのほか、トマト、ケール、パプリカなどの安定生産と、高付加価値化を実現している。これらを『美フード』と名付け、体のなかから美しさと喜びをもたらす野菜と位置づけている。2017年度には、AIをスマートアグリ環境事業に適用し、新たな付加価値を生み出したい」とした。
田中社長は「サーク磐田の事例は高い生産性を実現し、ビジネスの成長に貢献しているが、目指すのはこれだけではない。地方創生やビジネスモデルの変革に挑む」と発言。これを受けて、磐田市環境水道部ごみ対策課主幹の仲村 美帆子氏は、「サーク磐田が取り組む農業が、地域の様々な産業に影響を与えている。いまは、サーク磐田の先端技術による生産設備と製造業とのマッチングできないかと考えている」とコメント。
また、サーク磐田に参加している増田採種場の増田 秀美専務取締役は、「農業ビジネスにおいて、種苗は重要な役割がある。日本の種苗メーカーが開発した品種は、世界的にも競争力がある。サーク磐田は、品種を中心とした農業の産業化という新たなビジネスへの挑戦である。やわらかくて苦みがないケールを開発し、栽培ノウハウを提供しており、ICTを活用することで初年度から安定生産を実現した」と語った。
また、サーク磐田の須藤社長は「今後は業種、業界、業態、地域を超えて、日本でも、世界でもCo-creationが進むだろう。農業においても、種苗、栽培、加工、消費者をICTで結び、新たな付加価値を創造し、ビジネスにつなげていくことができる」と述べた。
田中社長は「サーク磐田は、ICTと農業、自治体の強い意思、種苗分野の専門知識を組み合わせることで、地方の未来、産業の未来、日本や世界の未来を変える取り組みになる」と位置づけた。
テクノロジー、プラットフォーム、共創パートナーの3つを目指す
続けて「デジタルがもたらした一番大きな恩恵は、つながることである」とし、「組織の違い、業態の違い、物理的な距離を乗り換えて、データや知恵がつながることが、これまでにない新たなものを生み出すベースとなり、社会の仕組みを変える可能性がある。世界を見渡すと、製造業、流通業、交通、金融、公共などのサービスで、複数の企業や団体が持つ多様なノウハウや専門性の組み合わせが、画期的なビジネスモデルを生んでいる。デジタル時代に新たな価値を生み出し、ビジネスを大きく成長させたいということは多くの人が共通に求めていることであるが、その答えを導き出すのが、『組み合わせ』と『つながり』である。富士通は、Digital Co-creationを追求することで、顧客やパートナーのビジネスの成長に貢献したい」とした。
さらに「富士通は、テクノロジー、プラットフォーム、共創パートナーの3つを目指している」とし、「富士通はテクノロジーで社会に貢献してきた会社である。技術の内容は時代の変化とともに変遷するが、テクノロジーをコアに持ち続け、それで勝負をすることは、富士通のDNAであり、決して変わらない。これからのデジタル時代でも革新的な技術開発を続けることになる」と宣言した。
また「我々の研究成果を生かして、最先端の機能をビジネスの基盤として届けられるように、よりよいプラットフォームを追求していく。そして、世界中の優れたパートナーと連携して、つながるプラットフォームを提供していく。さらに富士通自身がコラボレーションに参画して、貢献したいと考えている。ビジネス変革に向けて、みなさんの会社の一員として参加させてもらいたいと思っており、そのためには、より専門力を磨き、実践力のある人材を育成。かけがえのないパートナーになりたい。デジタル革新を最大限に生かし、新たな価値を作り出したい。だからこそ、今回の富士通フォーラムでは、Digital Co-creationをテーマとした。これは、Shaping Tomorrow with youという富士通のブランドプロミスそのものである」と述べた。
デジタルパートナーとして存在感を増す富士通
続いて登壇した富士通 執行役員常務 CMOの阪井 洋之氏は、世界15カ国、1614人を対象に実施したデジタル革新調査の内容について説明。日本では、68%の企業がデジタル革新への取り組みを開始していること、デジタル革新のテーマではマーケティングが32%、運用・保守で23%、ワークスタイル変革が19%となったことを示した。
また、3年後のデジタル革新に重要なパートナーとしては、テクノロジーパートナーが42%となり、サプライヤーの33%、コンサルティング企業の26%を上回ったこと、テクノジーパートナーに求める要素としては、自社のビジネスや業界に対する理解が44%、デジタルの技術力が37%、信頼関係が37%となったことなどを紹介した。
阪井執行役員常務は、「富士通は、パブリッククラウド、デジタルマーケティング、ワークスタイル変革、アナリティクス、セキュリティーにおいて市場を上回る成長率を達成しており、ここからも、デジタル分野における実力が証明される。また、社内システムの30%に相当する263システムをクラウドに移行しており、このリファレンスは顧客から高い評価を得ている。さらに、コールセンターやモノづくり革新など、40のAIプロジェクトを実施している。働き方改革についても、デジタルを最大限活用しながら、制度・ルール、ICT・ファシリティー、意識改革を三位一体となって推進している実績を持つ。顧客からは、選びたいテクノロジーパートナーの名前として、富士通が第1位にあがっている」などと、富士通の強みや成果を強調した。
ここで阪井執行役員常務は、いくつかの事例を紹介した。
川崎地質では道路陥没を防ぐ路面下空洞探査に富士通のAIを活用して、従来の10分の1の時間で解析をしている。また野村證券では機械学習技術を導入することで業務処理のエラーを発見するシステムを開発、10業務での導入を皮切りに、今後は全社展開していくと紹介した。
さらに、インドネシアのKPPPA(女性強化・児童保護省)では、国内で発生している年間25万9000件の女性への暴力事件を減少させるため、様々なソースから得られる全国の事件情報を位置情報クラウドサービスのSPATIOWL上に集中管理して、どこで、どんな事件が起こっているのかを把握することで、虐待防止の活動に生かしているという。
そのほか、東京大学医学部附属病院と医療現場における音声翻訳システムの臨床実験を実施していること、日本体操協会と協力し、3Dセンシング技術を使った体操の鞍馬競技における採点支援システムを開発していることなどを紹介した。
さらにヤマハでは、位置情報や向きを検知したセンサーを搭載し、人のいる場所や動きにあった音が聞き取れるイヤフォンを開発。ここに富士通が、IoT技術やクラウド技術の観点から共同プロジェクトに参加。
ゲストとして登壇したヤマハ 楽器・音響開発本部FSMプロジェクトリーダーの多田 幸生氏は、「ユーザーのコンテキストをシステムが理解し、音による感動をもたらす。新たな形のエンターテインメントとしても活用できる」などと述べた。