今回のことば
「ひとことでいえば、市場環境や顧客動向の変化に対応したマネジメントの実行力不足に尽きる。来年1月に新たな中期経営計画を発表する。重視するのは5%の営業利益」(NECの新野 隆社長兼CEO)
注力事業の実行力、既存事業の目標未達、新規事業の遅れ
2018年度を最終年度とする中期経営計画に取り組んでいるNECにとって、2016年度(2016年4月~2017年3月)は、その初年度であった。
NECが発表した2016年度の通期連結業績は、売上高が前年比5.7%減の2兆6650億円、営業利益は54.2%減の418億円、税引前利益は21.4%減の680億円。当期純利益は57.7%減の352億円と、減収減益の結果となった。
NECの新野 隆社長兼CEOは「中期経営計画の初年度としては、残念な結果になった」とコメント。「NECが置かれた状況が大きく変わってきた。ひとことでいえば、市場環境や顧客動向の変化に対応したマネジメントの実行力不足に尽きる」と反省する。
具体的には「海外を中心とした注力3事業(セーフティー事業、グローバルキャリア向けネットワーク事業、リテール向けITサービス事業)の立ち上げにおいて実行力が不足しており、既存事業での目標未達、新規事業の遅れが見られた。また、個別事業での採算性の悪化があり、公共インフラ分野では新たな不採算案件も発生した」とする。
さらに追い打ちをかけたのが、公正取引委員会から3件にのぼる排除措置命令および課徴金納付命令を受けたことだ。
これは2017年度の業績見通しにも影響。「2017年度の業績見通しは、指名停止の影響を大きく織り込まざるを得ない。指名停止の影響として、売上高で600億円減、営業利益で150億円減が影響すると予測している。日本航空電子工業の連結子会社化の影響で売上高では1800億円の上乗せを見込んでいるものの、実質的にはほぼ横ばいを想定している」とする。
そして今回の業績悪化は、中期経営計画そのものの見直しまでを視野に入れざるを得ないものとなった。
新野社長兼CEOは、2018年度の営業利益1500億円を必達目標に掲げていたが、「このままの成長では1000億円は達成できるものの、1500億円の達成は難しい」と前置きし、「新たな中期経営計画を検討、策定する必要があり、2018年1月に新たな中期経営計画を発表することにした」という。
この内容は、2020年度を最終とした新たな中期経営計画への組み直しになるが、営業利益目標は先送りが前提となるため、事実上、下方修正した形での新計画策定となる。
2017年1月に発表する中期経営計画において、「営業利益率5%を出せる体質にすることが、一番大切なことだ」と、新野社長兼CEOは位置づけ「グローバルで戦う企業になるには、5%以上の営業利益率は必要である。2020年度を待たずに、早期に達成したいと考えている」と語る。
新たな中期経営計画では、年度計画の策定プロセスを変更するとともに、CxOへの権限委譲や役割、権限、責任を明確化し、BU側で事業を推進できる体制へと移行することで、経営スピードを高める。
さらに国内事業では、課題事業の変革に取り組むなど、収益回復を優先。「国内では、売上高が伸びなくても収益性を改善することを優先する。さらに、新たな不採算案件の発生防止にも努める」と語る。また、海外事業を成長領域と位置づける従来からの方針を踏襲。「今後の売上高を伸ばすのは海外事業になる。そこにおいては、セーフティー分野が鍵になる。セーフティーをはじめとする注力3事業に加えて、AIの活用などを通じて、さらなる成長のための具体策も検討していく」とする。
ここでキーとなるのが顔認証技術だ。
技術や海外でのサービス受けはいいが、売上高は最盛期の半分
NECは、米国国立標準技術研究所(NIST)が実施している顔認証技術のベンチマークテストにおいて、世界一の評価を得ているが、これまでは静止画を対象としたものだった。だが2017年3月には、新たに動画の顔認証技術でも世界一を達成。今後、全世界の空港や主要施設などへの導入促進を図る。
そのほか、SDNやNFVにおいては、欧州および中近東、北米で大手通信事業者から10件の商用案件を獲得しており、「この半年でパイプラインが1.6倍に拡大。2017年度にも前年比1.5倍の成長を目指す」と意気込む。さらに、リテール向けITサービスとして、米セブン・イレブンからのPOSシステムおよび保守サービスを受注したこと、AIやIoTでは、産学連携や他社との提携および協業の推進により、案件が増加していることを示した。
だが、企業の体力を示す売上高は、最盛期のちょうど半分にまで縮小している。
半導体やPC、携帯電話事業など、収益性が悪い大規模事業を相次いで売却した結果、ピークとなる2000年度には5兆4097億円を誇った売上高は、2016年度実績では2兆6650億円だ。
NECは長期化する収益重視の経営から、売り上げ拡大を打ち出す成長路線へと、いつ舵を切ることができるのか。多くのステークホルダーが注目しているポイントである。
スピード感の向上と実行力の強化を実現できるか
決算会見では、指名停止の影響があったり、不採算案件が発生しやすかったりするパブリック部門や、収益性が悪化しているテレコムキャリアなどの事業を売却することで、5%以上の営業利益を達成する考えはあるのかという質問も飛んだが、新野社長兼CEOはこれを真っ向から否定。さらに「新たな中期経営計画のなかでは、大きな構造改革も考えていない。リソースシフトはもっと進めていく必要があるが、人の絶対数は必要になってくる」とし、成長領域への人員シフトを検討していることを明らかにした。
新野社長兼CEOは、「環境が刻々と変化するなかで、自分自身が変化していかないと競争に勝てない。NECは経営スピードの向上と実行力の強化に取り組み、2017年度には、信頼を再び回復し、新たな数字を確実に達成したい」と述べる。
中期経営計画の未達が続いているNECは、新たに策定する2020年度までの中期経営計画ではどんな数値を出すのか。そして、達成するためにどんな戦略を描くのか。成長に向けて舵を切る要素が盛り込まれるのかも気になるところだ。
いずれにしろこれから8ヵ月後に発表される新たな中期経営計画が注目されるが、それまでに、8ヵ月間という長い期間を待たなくてはならないところに、残念ながらスピード感の欠如を感じざるを得ない。
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