BC112なら自宅でもバンドでもイケる
さて、次の問題は、キャビネットの用意がない場所で演奏するとき。学園祭や、ライブハウス未満のカフェ、自宅や友達の家など。そこで気になるのは、VOXがMV50と同時発表したキャビネット、BC108とBC112につないだ際のパフォーマンスだ。
どちらも1台ならインピーダンスは8Ω。2台並列の接続も可能で、その場合は4Ωとなる。もちろん、それぞれ1台単独で使った場合、2台スタックした状態の両方を試してみた。
まずBC112は、当然のように1台でもまったく問題なくイケる。音質の話で言えば、ドンシャリ型のマーシャルに比べればフラットで、相対的にミッドレンジが前に出てくる感じだから、よりVOXらしいとも言える。2発ならさらに音量は大きくなって、ドスの利いた低域もマーシャルに負けていない。
ギターアンプの用意がない会場には、BC112を持っていけばいい。重さは13.6kgなので、運搬はクルマがないと厳しい。が、それでも自宅からの搬入搬出は片手で余裕だ。自宅用としてもコンボアンプのサイズで置き場所に困らない。万能である。
そして、次はVOXのライナップでも最小のキャビネット、注目の8インチユニット1発のBC108。重さは3.8kg。サイズも含めて片手で持って徒歩でも運べる。
ただ8インチユニットと言えば、低域は出ない、高域は耳に刺さるで、あまりいいイメージはない。しかし、MV50にはそうした小型スピーカーのハンデを克服すべく、低域の足りない小型キャビ向けに「DEEP/FLAT」のEQスイッチが付いている。もちろんBC108とペアで使う前提だ。これでどこまでイケるのか
BC108は1発なら自宅、バンドなら2発で
―― いやあ、すごいすごい。音量余裕ですねこれ。
江戸 余裕です。
―― 恐れ入りました。で、次に気になるのは、このちっちゃい8インチのキャビネットが、今までとどれくらい違うのか。
江戸 そこはもう圧勝じゃないですか。
李 ……うーん、どうかな。
―― あれ、意見が割れているようですが。
李 いや、どこまでかと言われると表現が難しいです。人によってもとらえ方は変わるでしょうし。
江戸 確かにバンドでは1発だと、音量的に厳しいかもしれないですね。
―― 1発はどういう用途を想定していますか?
江戸 自宅用、もしくはカフェくらいの会場ですね。アコースティック楽器がメインで、パーカッションもカホンしかいないくらいの。でも、並列で2発つながるようになっているんで、そうすると50Wまでは出る。バンドだったら、2発の方がいいと思います。
―― わかりました。低域はどんな感じでしょう?
江戸 BC108はセミオープンバックになっていて、ハンドルの穴がバスレフの役割をしてくれます。キャビ単体でも低音が出るように考えられているんですが、背面のDEEPスイッチを入れてもらえれば、低音の空気感を足すことができます。
李 低域はキャビの置き方によっても違ってきます。たとえば床に2発並べるとか。DEEPスイッチは、大きなキャビでも使えるような設定にしています。歪んだ音なら「ジャーッ」っという上の帯域の成分がちょっと減る。
―― なるほど。もともとローが出るキャビだと、相対的にハイが減る感じに。
李 重心が下に移る感じですね。音の好みによって、DEEPスイッチはキャビのサイズに関係なく使えると思います。じゃ、つないでみましょうか、小さい方に。
使い方次第でおもしろいBC108
というわけで、BC108を鳴らしてみた。さすがに12インチに比べれば低域は出ないが、クリーンから軽いクランチ程度のゲインなら、DEEPスイッチを入れなくても低域は十分。むしろボリュームを上げた場合は、DEEPを入れないほうがシャキッとした音になって、気持ち良く弾ける場合もある。
ヘッドアンプがROCKで、ゲインを上げて歪ませるならDEEPスイッチはありがたい。低域の量感はクローズドバックの10インチキャビくらいになるので、自宅用にはこれで十分だろうと感じた。
ただ、江戸さんのおっしゃるとおり、1台ではバンドの音量には負け気味で、目一杯ボリュームを上げてもギリギリで余裕がない。もし音量が足りなければ、ラインアウトをPAに送るという手もある。でも、2台ならバンドの中で十分戦える上に、小径ユニット2発という構成ならではの音の抜けのよさがあっておもしろい。個人的にはこのBC108の並列接続が、キャビネットのキャラクターとしても新鮮だった。
BC108は小型で背が低いために、床に置き、離れた位置で立って弾くと、音が聴こえにくいこともある。しかし、2台あれば1台は足元に転がしてモニター代わりにする、フィードパックコントロールに使うという手もある。2台あると、小型キャビの欠点を補いつつ、なにかと応用が効きそうだ。
(次回はトーンノブや内蔵キャビネットシミュレーターなど、MV50の隠された音色設定について)
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ
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