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NETGEAR製品導入事例

新潟~小樽間を結ぶ新日本海フェリーの新造船、ネットギア無線LANを採用した理由

“海を走るホテル”にもゲストWi-Fiを、客船「らべんだあ」の挑戦

2017年04月07日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

提供: ネットギア

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“フェリー特有の要件”に対応できる無線LANベンダーは?

 新日本海フェリーがらべんだあでのゲストWi-Fi提供を決めたのは、2016年4月のことだった。この時点ですでに船体設計が始まっていたため、上村氏は急いで無線LANアクセスポイント(AP)の配置位置決めやネットワークの再設計を行い、翌月には造船所担当者との打ち合わせを行った。

 「船内の全域を無線LANでカバーするためには、多数のAPを設置する必要があります。もともと船内事務用に有線LANを敷く計画でしたが、APを設置することになったため、ケーブルの数は当初の予定よりもかなり増えました」(上村氏)

 設計においてはフェリー特有の事情もあった。たとえば、一般のオフィスビルやホテルとは異なり、就航後のフェリーでネットワークの改修を行うチャンスは、年1回の定期検査時くらいしかない。また、船体に追加で新しい穴を開けるのも、船の安全面で問題が生じる可能性もあるため簡単なことではない。したがって、この設計段階でかなり綿密に、しっかりとネットワーク設計をしておく必要があった。

 しかし、船内の壁や床は鉄でできている部分が多く、一般のビルやホテルよりも電波を通しにくい(電波遮蔽度が高い)。上述のとおり、やりなおしの効かない環境ということもあり、上村氏は船室の構造などもふまえつつ、通常よりもかなり高密度にAPを配置していった。APの台数は47台になった。

 この設計作業と並行して、上村氏は無線LANシステムのベンダー選定にも取りかかっていた。

 ここでまず要件となったのが、「屋外用のAPをラインアップしていること」だった。らべんだあでは車輌甲板での業務にも無線LANを活用するが、ここはむしろ屋外の環境に近い場所だ。

 「風雨を直接受ける場所ではありませんが、消防訓練の際にスプリンクラーの水がかかる可能性がありました。また、小樽まで行くフェリーなので、冬にはマイナス10℃くらいの外気にさらされます。おそらく、通常のAPでは耐えられないだろうと考えました」(上村氏)

 このころ、ちょうどネットギアが屋外用AP「WND930」を国内発売したため、ネットギア製品も検討の俎上に載ることになった。WND930はIP65の防塵/防水性能を持ち、ヒーター内蔵でマイナス20℃の寒冷地でも動作するモデルだ。

らべんだあの車輌甲板出入口付近に取り付けられた、デュアルバンド対応の屋外用AP「WND930」

 もうひとつ、「乗組員に余計な運用負荷がかからない」ことも、今回の無線LANシステムでは重要な要件だった。乗組員たちは船の航行のプロではあるが、ITのプロではない。しかしその一方で、業務にも使う無線LAN環境は、航行中、常に安定稼働していなくてはならない。

 そこで上村氏は、コントローラー型無線LANを導入することにした。コントローラー型ならば、船内すべてのAPの稼働状態が一括監視できる。これをVPN経由で本社システム室からリモート監視し、APのリブートなどの障害対応を行う。万が一、リモートでは対応できないような障害が発生したとしても、状況が把握できれば乗組員に具体的な作業内容を指示できるはずだ。

 「ここでは特に、ネットギアの無線LANコントローラーがアプライアンス(ハードウェア)であることが有利に働きました。他社製コントローラーにはサーバーソフトウェアも多かったのですが、アプライアンスならば電源を投入すれば立ち上がります。乗組員に面倒な起動操作をお願いする必要がありません」(上村氏)

 結局、ベンダー選定においては、「屋外用AP」と「コントローラー型」という2つの要件を満たし、なおかつ価格も他社比で大幅に安かったネットギアが選ばれた。2016年7月のことだ。

47台の無線LAN APを設置し、船内のあらゆるエリアをくまなくカバー

 らべんだあには、デュアルバンド対応の屋内用AP「WAC720」が43台、そして前述の屋外用AP「WND930」が4台設置されており、これを無線LANコントローラーの「WC7600」で一元管理している。特に今回は高密度にAPを配置したため、AP間の電波干渉を自動調整してくれるコントローラーは非常にありがたいと、上村氏は話す。

らべんだあ船内には合計47個の無線LAN APが設置されている。業務用にも利用するため、操舵室や厨房などのバックヤードにも設置された

 また、有線LANもネットギア製品で構成されている。コアスイッチにはスマートスイッチの「S3300-28X」を、また船内複数箇所に設置されたフロアスイッチにはPoE+スマートスイッチ「GS728TP」を採用し、ゲスト用ネットワークと業務用ネットワークはVLANで切り分けている。

 ネットワーク構成をシンプルにして耐障害性を高めるべく、船内のフロアスイッチはすべてコアスイッチに直結されている。ただし船体が大きく、ケーブル長が100メートルを超えてしまう箇所もあるため、ここはSFP GBICモジュールを介して光ファイバケーブルで接続された。ちなみに、ケーブルもあらかじめ冗長化して敷設されており、総延長は30~40キロメートルに及ぶという。

 障害発生に備えて無線LANコントローラー、コアスイッチ、フロアスイッチはすべて冗長化している。航行中にマスター機が故障しても、ケーブルをスレーブ機の同じポートに差し替えるだけで復旧する設計だ。これも、乗組員になるべく負荷をかけずにすぐ復旧できるようにするためだと、上村氏は説明した。

上から無線LANコントローラー、フロアスイッチ、コアスイッチ。すべて冗長化している

船内バックヤードのフロアスイッチ。ここからPoEでアクセスポイントに給電している

 「フットワークが軽いのもネットギアの良さだと思います。(ベンダー選考中の)最初の問い合わせに30分も経たず連絡が来ましたし、製品購入後も何度もエンジニアの方にお問い合わせさせていただいたり、実際に現場で設定をお手伝いいただいたりもしています。エンジニアの顔が見えるベンダーですね(笑)」(上村氏)

らべんだあ船内のネットワーク概略図

無線LANを活用し、乗客サービスも業務利用もさらに拡充したい

 造船所での取材時、らべんだあのすぐ隣では、姉妹船のあざれあが建造中だった。6月に就航予定のあざれあも、同じ無線LANシステムを搭載してゲストWi-Fiサービスを提供する予定だ。

 らべんだあの運航が始まり、無線LANシステムが問題なく稼働することを確認できたら、次は提供するサービスの拡大も検討していきたいと上村氏は語った。たとえば飛行機の機内サービスのように、ゲストWi-Fiにつなげば映画などのコンテンツを観られるようにしたり、航行位置や船内の施設案内を掲載したポータル画面を提供したり、といったことが考えられる。

 また、無線LANの業務利用にも積極的に取り組んでいくという。「いわば海の上を走るホテルですから、ホテル業界でのWi-Fi活用イメージに近くなると思います」(上村氏)。たとえばタブレット端末で客室の使用状況や清掃状況をチェックできるようにしたり、売店の棚卸し作業にハンディスキャナを使ったりと、こちらはすでに現場からもアイデアが出始めているという。

 「船内ほぼすべての場所を無線LANでカバーしているフェリーは、国内ではらべんだあが初めてではないでしょうか」と上村氏は語る。カバーする場所が広がれば、活用の幅もアイデアも大きく広がるはずだ。ゆったりと過ごす船の旅をさらに楽しくしてくれるような、新たなサービスがここから生まれてほしい。

(提供:ネットギア)

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