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NETGEAR製品導入事例

ゼンハイザーとQ-SYSが共同構築したソリューション体験施設で快適さを実感してきた

ボイスリフト、ハイブリッド会議対応 ―先進的な会議室がAV over IPで実現

2023年08月08日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

提供: ネットギア

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新青山ビル(東京都港区)にオープンした「青山ツイン レンタルミーティングルーム サクサク」。ゼンハイザーとQ-SYSによる先進的な会議室ソリューションが体験できる

 東京都港区にある新青山ビルは、「青山ツイン」の愛称でも知られる歴史ある高層オフィスビルだ。その2階に今年7月、三菱地所とゼンハイザージャパンの共同プロジェクトとして「青山ツイン レンタルミーティングルーム サクサク」(以下、サクサク)がオープンした。13.8×6.7メートル(およそ92.5平米)の広さで最大60名を収容する、同ビル入居者(テナント)向けの貸会議室だ。

 この貸会議室には、ゼンハイザーとQ-SYS(QSC)が共同で構築した会議室向けソリューションが導入されており、ソリューション体験施設「SENNHEISER Experience Room」としても活用される。たとえば「ハンドマイクを持たない話者の声を会議室全体へ届ける」「リモート会議/セミナーのオンライン参加者にもクリアな声を届ける」といった、先進的な会議室システムを簡単に体験できるのだ。

 今回はこの会議室のシステム構築に携わったゼンハイザージャパン、Q-SYS、ATB WORKSと、Q-SYSにAV over IP向けスイッチをOEM供給するネットギアの各氏に、このスペースをオープンさせた目的やソリューションの特徴、AV over IPにより実現するメリットなどを聞いた。

(左から)ATB WORKS 宮下朋丈氏、QSC Asia(Q-SYS)勝本有一氏、ネットギアジャパン 添田絢也氏、ゼンハイザージャパン 鎌田良和氏、同 山口真宏氏、同 山本和聖氏

ハイブリッド会議時代に対応した「先進的な貸会議室」誕生の背景

 そもそもこの貸会議室、サクサクはどんなきっかけで生まれたのか。詳しく聞いてみると、いくつもの偶然が重なり、きっかけが生まれたようだ。

 ゼンハイザージャパン 山本氏は、同社では以前から会議室ソリューション「TeamConnect Ceiling」の常設体験施設がほしいと考えていたと明かす。

 「TeamConnect Ceilingでは、天井取り付け型のシーリングマイクとスピーカーを使って『ボイスリフト(TruVoicelift)』という機能を実現します。しかし、その効果をお客様に実感していただくためには、ある程度の広さが必要です。従来はマイクやスピーカーを吊り下げる大きなスタンドを用意し、体験会のたびに現場で仮設していたのですが、その設置作業はとても大変で……。やはり常設の施設が必要だと考えていました」(ゼンハイザー 山本氏)

サクサクの会議室内観。天井にはシーリングマイク、シーリングスピーカー、カメラなど多数のデバイスが取り付けられている

ゼンハイザーのシーリングマイクとQ-SYSのシーリングスピーカー。いずれもPoE給電に対応しておりLANケーブル1本で設置が可能だ

 思い切って新青山ビルのオーナーである三菱地所に相談してみたところ、ちょうど三菱地所側でも貸会議室のリニューアルプランを検討しているところであり、先進的な会議室ソリューションを設置するというアイデアに強い興味を示してくれた。ここから、先進的なソリューションが体験できる貸会議室の構築プロジェクトがスタートした。「“会議がサクサク進む会議室”という意味を込めて、サクサクという名前を付けました」(山本氏)。

 今年築44年を迎えた新青山ビルにおいて、三菱地所は2022年夏から共用部のリニューアル工事を進めてきた。内装のリニューアルだけでなく、ビルで働く人々のニーズをふまえて、西館2階に入居テナント向けのワークラウンジ「ツンツン」や多目的ラウンジ「モコモコ」をオープンさせている。その隣にサクサクも加わったわけだ。

 会議室システムの構築に力を貸したのが、業務用音響機器メーカーのQ-SYS(QSC)である。ゼンハイザー 山本氏とQ-SYSの勝本氏が出会ったのは、ネットギアが主催し両社が登壇した「「AV over IP パートナーサミット 2023」の場だったという。

 「もともとQ-SYSさんとゼンハイザーはグローバルのテクノロジーパートナーで、Microsoft Teamsの会議室向けシステム認証も共同で取得しています。ちょうどサクサクのプロジェクトが動き出したタイミングだったので、勝本さんに『一緒にやりませんか』とお声がけさせていただきました」(山本氏)

 さらにコンサルタントとして、Q-SYS製品に詳しく、音響/AV over IPシステムの設計から構築、運用までを手がけるATB WORKS エンジニアの宮下氏も加わった。

 そして、ネットギアはQ-SYSのテクノロジーパートナーである。ネットギアのAV over IP向けスイッチ「M4250シリーズ」にQ-SYS製品向けプロファイルを追加したモデルが、Q-SYSブランドで販売されている。このスイッチはサクサクにも導入されており、天井設置のマイクやスピーカー、カメラなどとLANケーブルで接続されている。

Q-SYSのスイッチ(ネットギア「M4250」のOEM版)と、システムコア(DSP)の「Q-SYS Core 110f」

 サクサクの天井には、ゼンハイザーのシーリングマイク「TeamConnect Ceiling 2」と「TeamConnect Ceiling Medium」が計5台、Q-SYSのシーリングスピーカー「NL-C4」が11台、Q-SYSのPTZカメラ「NC-12X80」が2台、定点カメラ「NC-110」が1台、そしてネットギアのビジネス向けWiFi 6アクセスポイント「WAX620」が2台、取り付けられている。これらはすべてLANケーブルでQ-SYSのPoE+スイッチに接続されており、Q-SYSのDSPとソフトウェアで全体をコントロールする仕組みだ。

 「ゼンハイザーさんとQ-SYSでこちらの現場に入り、土日の2日間ほどでシステムを組みました。Q-SYSからはアプリケーションエンジニア(AEG)が来て、シーリングスピーカーの位置を決めたり、シーリングマイクの細かな集音調整などをさせてもらいました。複数台のカメラも含めて、システムとしてはとてもシンプルに、きれいにできたと思いますね」(Q-SYS 勝本氏)

ボイスリフト、カメラの話者自動追尾、そして簡単操作を実現

 今回オープンしたサクサクについて、三菱地所では「遠隔拠点とのリモート会議やセミナーの円滑な運営を最先端の技術でサポート」する「革新的な会議室」だとコメントしている。たしかにコロナ禍を経た現在では、対面での会議やセミナーだけでなく、リモート参加者も含めた“ハイブリッド型”会議/セミナーへの対応も求められる。

 それでは、サクサクでは具体的にどんな新しいことが可能になったのか。それは大きく3つあるという。

 まず1つめは、会議参加者の“音”に対するストレスを軽減する「ボイスリフト(TruVoicelift)」だ。サクサクのように広い会議室で会議やセミナーを行う場合、話者の肉声(地声)が会議室全体に届きにくい。そのため、これまではハンドマイクとスピーカーで拡声するのが一般的だった。ただし、参加者にとって大きな音を聞き続けるのはストレスだ。また、大人数が参加する会議やセミナーの質疑応答などの場面では、わざわざ発言者にマイクを回す必要があり不便だった。

 ボイスリフトは、そうした課題を解消する。シーリングマイクで集音した話者の声を複数の天井スピーカーから拡声することで、話者が会議室のどこにいてもすべての参加者に声が届くようにする仕組みだ。

 「たとえば講師の方の声は、会議室の前方にある天井マイクで拾って後方のスピーカーからのみ出す。逆に後方で聴講している方の声は、後方のマイクで拾って前方のスピーカーから出す。このように会議室全体の音を制御することで、マイクを持たなくてもお互いの声がよく聞こえるわけです。スピーカーの音量もこれまでより小さくて済みますので、聞いていても疲れません」(ゼンハイザー 鎌田氏)

ボイスリフトの基本的な仕組み(ゼンハイザー資料より引用)。部屋前方の天井マイクで集音した講師の声を後方のスピーカーから拡声することで、ハンドマイクを持たず自然に声を行き渡らせる。逆に後方参加者からの質問の声は、後方マイクで集音し、前方スピーカーで拡声する

 特にゼンハイザーの「TruVoicelift(トゥルーボイスリフト)」は、話者の位置を動的に検知してその方向からのみ集音する「ダイナミックビームフォーミング」や、音声の周波数を高速に揺らしてハウリングを抑制する「自動周波数フィルター」、ハウリング発生時の「自動ミュート」といった独自技術を組み合わせてボイスリフトを実現しており、会議室に快適な音環境を提供する。

ゼンハイザーのシーリングマイクが備えるダイナミックビームフォーミング技術(同社資料より引用)。約30°の狭指向角で集音するため、話者の声以外のノイズを拾わない

 筆者も実際にボイスリフトを体験してみたが、会議室の最前方と最後方にいる2人の間でも、すぐそばにいるかのような自然さで会話ができた。話す声量を上げる(声を張り上げる)必要はなく、相手の声も聞き取りやすいのでストレスが少ない。さらに、室内を移動しながら話しても相手に聞こえる声量は一定に自動調整され、会話が快適に続けられた。地声の大きな人、小さな人がいても、その音量差をなくすよう自動調整することもできるという。

 ちなみに、シーリングマイクで会議室全体からの集音が可能になることで、ハイブリッド会議やセミナーのオンライン参加者にも快適な音環境が実現できる。従来はマイクを持った話者の声しか聞こえず、オンライン参加では「会議室でのやり取りが片方しか聞こえない」「質疑応答の質問内容がわからない」といったことが起きがちだった。そうした問題もなくなるわけだ。

 2つめに実現したのが、天井設置したPTZカメラによる「話者の自動追尾」である。これはシーリングマイクが備える話者位置の分析機能を使い、PTZカメラを自動制御して話者を映像として捉える。会議にオンライン参加していると、映像に話者が映らず「誰が発言しているのかわからない」ストレスが発生しがちだが、この問題を解消できる。

Q-SYSのPTZカメラ×2台は、シーリングマイクからの話者位置情報に基づいて「話者の自動追尾」を行う

 そして3つめが「誰でも使える会議室システム」である。会議室はさまざまな人が利用する場所だ。せっかく高度な技術を備えたシステムを導入しても、操作が難しければ結局は使われない。

 サクサクの会議システムは、タッチパネル操作で誰でも簡単にコントロールできるようになっている。基本設定はプリセットされており、利用シーンに合わせた「モード」を選択するだけでよい。また音量やカメラの設定画面も極めてシンプルにデザインされている。

 「たとえばボイスリフトを使う場合、座席の構成に応じて『セミナーモード』と『レイアウトフリーモード』を用意しています。セミナーモードを選択すると、前方のシーリングマイクだけが有効になり、講師の声だけを拾って後方の席から出るノイズは拾いません。質疑応答の時間になったら『Q&A』ボタンを押せば、後方のマイクも有効になって参加者からの質問が聞こえるようになります」(ゼンハイザー 山口氏)

 この操作画面は、Q-SYSのソフトウェアプラットフォームを使ってサクサク向けにオリジナルのものを作ったと、ATB WORKS 宮下氏は説明する。

 「タッチパネル画面は自由にデザインできるので、実際に使う企業の総務の方などのエンドユーザーに『どんな画面ならば使いやすいか』を鉛筆で描いてもらい、それをそのまま作ることもよくあります。そうすれば使い方も間違えないですよね」(ATB WORKS 宮下氏)

タッチパネル。従来型のハンドマイクを使う「通常モード」、天井マイクを使う「サクサクモード」を選ぶだけで、プリセットされた設定が適用される

PTZカメラ2台のリモート操作や切り替え、音量調整などもこのタッチパネル上で完結する。必要な操作ボタンしか表示していないので、慣れないユーザーでも安心して操作できる

「みんなやりたくない」AV over IPの設定作業をなくすスイッチ

 サクサクの天井に設置されたシーリングマイク、シーリングスピーカー、PTZカメラ、固定カメラ、WiFiアクセスポイントはすべて、Q-SYSのPoEスイッチから給電されている。1本のLANケーブルを敷設するだけで、給電、音声/映像の伝送、制御信号の伝送をまかなえるので、デバイス台数の多いシステムでも“ケーブルだらけ”にはならずスマートだ。工事も簡単にできる。

 ただし現場で導入工事を担当する作業員は、これまでの“アナログ機器の世界”の知見はあっても、ネットワーク設定はよくわからないことが多いという。「正直なところ、会議室システムの構築作業でネットワーク設定に割ける時間はありませんし、みんな『やりたくない』と思っています」と宮下氏は語る。

 そこで活躍するのが、あらかじめさまざまなAV over IPデバイス向けの最適な設定が用意されているネットギアの“AV Lineスイッチ”だ。今回サクサクに導入されているのは、このAV LineスイッチにQ-SYS対応プロファイルを追加したQ-SYSブランドのモデルである。

 「あらかじめ各メーカーオフィシャルの最適な設定が用意されていて、それを選んでデバイスとスイッチをLANケーブルで接続するだけ。まさに“プラグ&プレイ”で信頼できるシステムが簡単に構築できます。そこはかなり作業が楽になりますし、たとえば後からカメラを追加したいというような場合でも、ネットワークは用意されているのでケーブル1本ですぐに増設できる。将来的なコストパフォーマンスも高いと思います」(宮下氏)

 宮下氏は、カメラの自動追尾やタッチパネルによる切り替えまで実現しているサクサクの会議室システムは「けっこう革新的なもの」だと語る。そして、こうした革新的なシステムは「AV over IPの技術がなければ実現できない」とまとめた。

* * *

 今回サクサクが導入したようなAV over IPの会議室ソリューションは、海外ではすでに普及しているが、日本はその動きから遅れていた。だが、コロナ禍を通じてオンライン会議が開催されるようになったことで、日本でもソリューション導入への機運が高まってきているという。

 「コロナ禍でオンライン会議が普及したことを背景に、『この場にいないリモートの人にも、ちゃんと声が届けられるシステムを導入したい』というご依頼が増えてきました。その際に、ハンズフリーで会議室にいる全員が話せるシステムというのはかなり有利です。実際に、シーリングマイクを導入される会議室は増えています」(宮下氏)

 鎌田氏によると、新青山ビルのオーナーである三菱地所でも、サクサクの会議室システムを体験したうえでその品質を高く評価しており、他地区にあるビルへの導入も検討しているという。会議室という身近な場所において、スマートで効率的なAV over IP技術の真価が発揮されるのを体験できる日が待ち遠しい。


 

(提供:ネットギア)

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