ネットメディアの本質はレスポンス
橘川 最初に言ったジャズとロックの違いなんだよ。旧来の音楽は、才能のある人がやるものなの。才能がある人というのはオリジナルなものを作れる人のことね。ところがロック以後というのは、そうじゃないんだよ。あれはなにかにインスパイアされて、自分の表現を見つけてきたコラージュみたいなものなんだ。だいたい演奏がヘタじゃん。
西牧 あ、それはまあ確かに。
橘川 たとえばなにもない広場でね、ここでなんでも好きなことをしゃべってくださいと言われて、好きなことをしゃべるやつというのは、まあ頭おかしいんだよ。
西牧 はははは!
橘川 それができる人は天才なんです。マイルスなら演れるかもしれないけどさ。なんでもいいから書いてくださいと言われて、普通の人がおもしろいものなんか書けるわけないんだよ。ところが、すでに書かれたものについてなら書ける。「俺はそうは思わない」とか「もっと良い情報がある」とか、ね。レスポンスが実はネットワークメディアの本質なんだ。
西牧 うーん、なんだか示唆深い話ですね。
橘川 最初のネタが腐っていると腐ったレスポンスしか来ないんだよ。連鎖していくの。
四本 最近のPost-truthとか、まさにそれですよ。
橘川 だから最初に良質な投稿がなければならない。ヤラセじゃダメなんだ。女子高生の実態は、女子高生自身が書かなければならない。逆に、オリジナルを書ける人は書けばいい。普通に旧来の出版社に原稿を持ち込んで、小説家は小説を書けばいいんだ。ネットというのはそういう世界ではなくて、必ずなにかのレスポンスで派生したものなんだ。コンテンツは自分のもののようであって、そうじゃない。旧来の表現は「クオリティー」で勝負だから、その競争をすればよい。しかし、ネットワークの表現は時代を共有するという「ライブ感」で勝負なんだよ。
1980年代にアスキーネットやNiftyが始まってね、俺も相談を受けたけど忙しくてさ。やれば良かったと思うんだけど、システム屋が主導したからね、みんな「メディアは無限の白紙状態です。みんなが好きなことを言える広場です」と言ったんだよ。そんなことを言ったら変なやつしか集まらない。変なやつが集まれば、変なやつの連鎖しか始まらないわけだよ。その果てがあわわわわのほにゃららだろ?
四本 なんでそこで固有名詞をボカすんですか!
西牧 まあ、いずれにしても、良質なメディアのためには良質な元ネタが必要ということですね。
橘川 そう。雪だるまの中心に固い石ころをいれておくようなものだ。その石ころを転がして雪を積み重ねていく。それをやるのがネットワークメディアの新しい編集者。いままでは何々の権威とか、偉い人、有名な人を呼んできて、それをクオリティーと称して売ってきたんだ。でもネットはライブ空間なんですよ。ライブは個々人の実感であり、体験なんです。他人ごとではいけないんだ。ということをね、ポンプで学んだんだ。
四本 人生、いろいろ学ぶことは多いですね。
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ロッキング・オンの時代 |
橘川幸夫著『ロッキング・オンの時代』
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渋谷陽一、岩谷宏、松村雄策とともに創刊メンバーだった著者が振り返る、創刊から10年の歩み。荒ぶる1970年代カウンターカルチャーと今をつなぐメディア創世記。装丁はアジール。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ
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