雑誌ではなく通信装置を目指していた
橘川 で、これのすごいのはね、創刊号から全部の投稿に番号が振ってあるんだよ。なんで振ってあるかと言ったら、これはレスポンスが書けるようになんだ。1月号の248番についてこう思うとか、もっといい話があるとか、他人の投稿に対する意見を編集部に送れるわけだよ。
西牧 へー。
橘川 そして集まったレスポンスは「ボイススクランブル」というコーナーに載せていく。すると読者の間で情報を膨らませていけるわけだ。これは創刊号からやっているんだ。どうだ、すごいだろう!
西牧 なにか即応性のない2ちゃんねるみたいな感じですね。
橘川 そうなんだよ。でも郵便物でやるから、タイムラグがすごくて、レスが反映されるまでに3ヵ月かかるんだよ。
西牧 はははは。
橘川 元の情報に対してレスポンスが載る。それで連鎖が始まるでしょ。なおかつ、投稿には個人名だけでなく、住所や名前まで全部書いてある。
四本 いまじゃ絶対にありえないけどね。
橘川 攻撃とかラブレターも来るけど、読者間でもやり取りできるわけだよ。俺はそこまで含めたメディアを作りたかったんだ。まあ四本みたいな嫌われ者はさ、嫌がらせが余計に来るんだけどさ。
四本 カミソリやら使い古しのコンドームやらは捨てりゃいいけど、「なんで私を避けるの?」とか言って知らない人まで来るんだよ。
西牧 実際に来たんですね。
四本 まあ、いくつものリアルが。
橘川 それでさ。
四本 (この野郎、話そらしやがったな)
橘川 当時からポンプは雑誌ではなくて通信装置だと言っていたわけね。俺らは白い紙を届ける通信会社で、中身はみんなが埋めるんだという言い方をしていた。女子高生に嫌がらせが来たりして、泣いて抗議の手紙も来るわけだ。でも頑張れと。これくらいでめげていたらこれからの社会で生きていけないぞと。これから、もっと情報が降ってくる社会に生きるんだから、お前も頑張れと。なにかあったらみんなで助けに行くからって。すごい話だろ?
四本 誰も助けに来なかったけどねー。
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ロッキング・オンの時代 |
橘川幸夫著『ロッキング・オンの時代』
11月19日発売
渋谷陽一、岩谷宏、松村雄策とともに創刊メンバーだった著者が振り返る、創刊から10年の歩み。荒ぶる1970年代カウンターカルチャーと今をつなぐメディア創世記。装丁はアジール。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ
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