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週刊キツカワ 第6回

5号「通信装置としての雑誌」

まるで2ちゃんねる、すべて投稿で成り立たせた雑誌「ポンプ」

2016年12月26日 12時00分更新

文● 四本淑三

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雑誌ではなく通信装置を目指していた

橘川 で、これのすごいのはね、創刊号から全部の投稿に番号が振ってあるんだよ。なんで振ってあるかと言ったら、これはレスポンスが書けるようになんだ。1月号の248番についてこう思うとか、もっといい話があるとか、他人の投稿に対する意見を編集部に送れるわけだよ。

西牧 へー。

創刊ゼロ号の最初の投稿。基本的な掲載フォーマットは、投稿番号、見出し、本文、住所(連絡先)、氏名。♥と♣は編集部に遊びに来た読者の声で「バックグラウンドボイス」という

橘川 そして集まったレスポンスは「ボイススクランブル」というコーナーに載せていく。すると読者の間で情報を膨らませていけるわけだ。これは創刊号からやっているんだ。どうだ、すごいだろう!

西牧 なにか即応性のない2ちゃんねるみたいな感じですね。

橘川 そうなんだよ。でも郵便物でやるから、タイムラグがすごくて、レスが反映されるまでに3ヵ月かかるんだよ。

西牧 はははは。

これが1979年4月号のボイススクランブル。1979年1月号(創刊ゼロ号)の投稿に対するレスポンスが載っている

見出しの数字は「1月号、32番」の投稿に対するレスという意味。この投稿自体にも番号が振られ、再びレスポンスの対象になる

橘川 元の情報に対してレスポンスが載る。それで連鎖が始まるでしょ。なおかつ、投稿には個人名だけでなく、住所や名前まで全部書いてある。

四本 いまじゃ絶対にありえないけどね。

橘川 攻撃とかラブレターも来るけど、読者間でもやり取りできるわけだよ。俺はそこまで含めたメディアを作りたかったんだ。まあ四本みたいな嫌われ者はさ、嫌がらせが余計に来るんだけどさ。

四本 カミソリやら使い古しのコンドームやらは捨てりゃいいけど、「なんで私を避けるの?」とか言って知らない人まで来るんだよ。

西牧 実際に来たんですね。

四本 まあ、いくつものリアルが。

橘川 それでさ。

四本 (この野郎、話そらしやがったな)

橘川 当時からポンプは雑誌ではなくて通信装置だと言っていたわけね。俺らは白い紙を届ける通信会社で、中身はみんなが埋めるんだという言い方をしていた。女子高生に嫌がらせが来たりして、泣いて抗議の手紙も来るわけだ。でも頑張れと。これくらいでめげていたらこれからの社会で生きていけないぞと。これから、もっと情報が降ってくる社会に生きるんだから、お前も頑張れと。なにかあったらみんなで助けに行くからって。すごい話だろ?

四本 誰も助けに来なかったけどねー。

(ではまた来週)

Image from Amazon.co.jp
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渋谷陽一、岩谷宏、松村雄策とともに創刊メンバーだった著者が振り返る、創刊から10年の歩み。荒ぶる1970年代カウンターカルチャーと今をつなぐメディア創世記。装丁はアジール。



著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)

 1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ

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