自分のためのレッド・スペシャルを作る。ブライアン・メイ本人からシグネチャー・モデル製作を依頼されるという形で、ついにその夢を叶えたギター製作家、伊集院 香崇尊(いじゅういん かずたか)氏は、新たな目標として、次世代の新しいスタンダードとなるギターを目指した。
その第一弾がKz Guitar Works初のフルオリジナルとなる「Kz One Standard」。演奏性の高さ、オールハンドメイドによるフィニッシュの良さ、そして意欲的で斬新な設計。間違いなくほかにはないギターで、現在ではイケベや島村楽器という大手のショップも取り扱いを決め、実際に店頭で手にとって見ることもできる。
とはいえ、一般的には無名でインディペンデントな工房の製品である。しかも価格は38万円。いくらできが良くても「はい作りました」「じゃあ売りましょう」という話にはならない。ではプロのギターの目利きである楽器店のバイヤーは、このギターをどう評価したのか。
そこで、まず最初にKz One Standardの取り扱いを決めた、渋谷のプロ御用達ギターショップ「フーチーズ」に伊集院氏とともにお伺いした。取材に対応してくれたのは、楽器専門サイトのデジマートなどで気鋭のレビュアーとして知られている村田善行氏。ギターの取り扱いを決めた理由を通して、市場の特殊性や、楽器製作を仕事にすることの難しさ、そしてなによりこのギターのどこが魅力なのかを語ってもらった。
ツボを押さえたトークも、ギターの聴かせどころもさすが。村田氏によるKz One Standardのレビュー |
このギターを買わないと出ない音がある
―― Kz One Standardのお客さんの評判はどうですか?
村田 みなさん興味はあるみたいですよ。ちょうどさっき「1本押さえてくれ」という連絡もあったし、これ目当てで試奏に来るお客さんもいるし、ウェブにも結構なアクセスがあるし、ウチでも実際に何本か実売が出ています。
伊集院 僕はもう心配で心配で。もうぜんぜんダメって言われたら、どうしようかと思っていました。
村田 わかります、それは。でも、まだほとんどなんにもプロモーションしていなのに、こんな高額なギターが売れてるんだから、それでいいじゃんって思いますけど。うちだって50万を超えるようなギターは月に何本も出ませんから。まだまだ、これからじゃないですか。
―― 村田さんはこのギターのどのへんがいけそうだと思いました?
村田 ハンドメイドの良さがあるんです。ハンドメイドって、やっぱりクオリティーが一定にならない。どうしても作家のコンディションが出てしまうから、製品的に安定しないんですね。それは100万円、200万円を超えるようなギターでも同じです。でも、このギターは木材のコンディションがすごく良くて、木にストレスをかけずに作られている感じが音にも出ている。だから弾いていても気持ちいい。ものすごく研究されて作られているギターだと思います。
―― 音に関してはどうですか?
村田 単純に同じような音のするギターがないんです。「これとこれに似てるよね」というところに当てはまらない。でも、やっぱりヨーロッパ、ブリティッシュ系の音なんですよ。アメリカの音じゃない。そこがおもしろいですね。
―― すでに買われたお客さんはどのへんが気に入られたんでしょうか。
村田 やっぱり音でしょうね。このギターを買わないと出ない音がありますから。いろんなギターを持っているけど、この音の出るギターはない、ということで選んでもらえた。そこはクオリティーのひとつを示していると言えます。
お客さんは難しくて、本気で弾く人と、買うのが好きな人、弾けないけど音色が好きという人もいます。うまくは弾けないけど鳴らしたときの音が好きという。僕はそういう方が一番マニアックだと思っていますけど、その人達は音が好きで買うから、結局いいギターを沢山持っている。このギターもそういう人が一本、買ってくれています。
―― ストラトやレス・ポール、テレキャスなら何年型のあの仕様、みたいなことでイメージできる音がありますけど、これはそういうイメージが持てない。そのへんを表現するとしたらどうなりますか?
村田 僕が一番おもしろいと思っているのは、このピックアップの特性がギターと合っていることです。ホロウボディーなので、普通のシングルコイルを載せると、チャキチャキのパキパキ。しかもダイレクトにボディーにマウントしているので、本当に使う人を選ぶギターになってしまう。
ところがこのピックアップは、普通のマイクと同じような特性でレンジが広い。これでヴァン・ヘイレンをやれと言われたらできるかもしれない。クリーンでジャズやれと言われてもできる。ハムバッカーみたいな太い感じも出しやすいシングルコイル。かなり幅広く使えます。
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