このページの本文へ

freeeが取り組む「世の中にインパクトを与える」ための仕掛け

クラウド会計が自動化を突き進めると人工知能に行き着く

2016年11月10日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

クラウド会計を軸に給与計算、会社設立、開業、マイナンバーなどのさまざまなビジネスの自動化に注力してきたfreee。同社が最近注力している会計ビジネスの刷新やフィンテックへの取り組み、そして人工知能の導入について聞いた。

自動仕訳という価値からスタートし、新しい会計ビジネスの創造へ

 自動仕訳という強力な武器を手に、スモールビジネスにクラウド会計を浸透させてきたfreee。有効事業者数は60万社を超え、freee自体の従業員ももはやスタートアップとは言いづらい250名規模まで膨らんだ。

 freee 代表取締役社長の佐々木大輔氏は、「従来からフォーカスしてきたスモールビジネスに対して、入力業務の軽減という一定の『型』は提示できた。金融機関やカード会社と連携して、明細を自動的に仕訳するという技術に関しては特許もきちんと取得できたし、請求書の発行や経費精算までできるようにして、経理を徹底的に自動化するという使い方を提案した。それが幅広く受け入れられたんじゃないかなと思う」と振り返る。

freee 代表取締役社長の佐々木大輔氏

 当初は数名程度という規模を前提としてきたが、今では数百名規模の企業でも使われるようになった。これを受けて「クラウドERP」というキーワードを掲げて、機能とスケーラビリティの強化を続けているのが1つの方向性だ。

 もう1つは、会計事務所をパートナーとした新しい会計ビジネスの創造だ。「長らくfreeeってエンドユーザーにばかり焦点を当てていて、会計事務所などのことを考えていないと言われてきたけど、ここ1年でかなり方向性を変えてきている」(佐々木氏)とのことで、単なるパートナーシップの強化のみならず、会計ビジネスそのものの刷新にも目を向けた。

 現状、日本では会計士が抱える顧客は平均で20~30程度に過ぎないが、クラウド型の会計が浸透している国では100~200に拡大しているという。「顧問先が100件持てる上に、仕事の中身もクリエイティブになっている。単なるデータのチェックだけではなく、顧問先の企業の経営コンサルティングまで拡がっている。僕たちが作りたいのはこういう未来」と佐々木は語る。現在は3300以上にのぼるfreee認定パートナーが生まれており、長らく変化しなかった会計ビジネスを変革するための大きな流れとなっている。

 こうした方向性に沿って、開発現場もユーザーの課題にフィットするプロダクトの開発のみならず、それらをつなげることに意識が変わってきたという。freee CTOの横路隆氏は、「業務には一連のフローがあるはずなのに、今まではパッケージソフトごとに閉じていて、関係性がなかった。今は、給与計算したり、請求書を出したら、きちんと会計情報も連携することを意識している」と語る。現在では、顧客の業務フローを理解するチームを作り、製品として有機的に連携できることを心がけているという。

freee CTOの横路隆氏

金融機関との取り組みは、まずオンラインバンクの開設から仕掛ける

 この1年は「Fintech」のキーワードの元、金融機関とのパートナーシップも強化している。昨年の12月には三菱東京UFJ銀行やみずほ銀行など11の金融機関との協業を発表し、ユーザーの許諾を受けたfreeeのデータを融資の与信に利用できるというサービスをβ版として発表している。また、2016年8月には住信SBIネット銀行とのAPI接続を公式に開始することを発表。横路氏は、「お金やビジネスの流れを読み取って、整合性をとった記帳ができるというのはfreeeの基本的な思想。だから、お金の流れを追うために取り込めるデータはとにかく取り込みたい。業界によっては複雑なお金の流れも多いので、現金売り上げをデジタル化するPOSのような領域は深掘りして連携を進めていきたい」と語る。

 さらに、2015年12月には地方銀行である北國銀行とも業務提携し、オンラインバンクとクラウド会計ソフト freeeをセットで紹介している。クラウド会計を使ってもらうために、まずオンラインバンクをきちんと普及させようという施策だ。

「決済すらオンライン化されていない現状では、いくらFintechやブロックチェーンのメリットを訴えても、メリットはない。オンラインバンクは地方に行けば行くほど抵抗感が強いし、利用率が1割を切り、あきらめている金融機関もある。でも、北國銀行はあきらめずにオンラインバンクを推進していて、70歳のおばあちゃんにもインターネットバンクとfreeeを勧めてくれる」

 もちろん、「セキュリティ上、Googleは使えません」といった金融機関とスタートアップとの協業なので、最初からうまく行く事例は多くない。金融機関側のセキュリティへの懸念もあるし、スピード感がまったく異なるという障壁もある。そのため、ともかく金融機関と新しいビジネスの姿を共有し、ユーザー事例をきちんと地味に作っているという。「7月に提携した鳥取銀行もfreee専用のインターネットバンキングプランを作ってくれました。提供する側がその価値を信じていれば、お客様も使ってくれる。次の草の根に寄り添うために自分たち自身が信じていれば、マインドセットも変えられる」(佐々木氏)とのことで、その取り組みは着実に成果を生んでいる。

まずはデータを集め、人工知能でユーザーの価値につなげる

 今後はfreee上に集まるデータをいかに顧客の価値につなげていくかが大きなテーマだ。そのため、まずはデータを溜める。既存システムからの乗り換えや紙ベースの情報のインポートを積極的に推進しつつ、プラットフォーム化によって、会計事務所や金融機関などの情報も集めていく。「たとえば決算のデータって1回しか使われないし、数字自体を見ても、いいのか、悪いのかがわからない。でも、われわれが改善傾向やオポチュニティなど“数字の文脈”を見ることで、ユーザーの行動を変えることができるかもしれない」と佐々木氏は語る。

 そして、集まったデータを解析し、ユーザーの価値につなげていくのが人工知能の役割だ。記帳の効率化からスタートしたfreeeだが、今後3年間で人工知能を本格的に導入し、経理作業の効率化、最終的には経営の意思決定支援まで進める。最終的には、「どういった企業と企業が付き合うとプラスになるのか」「不良債権率を最小化する与信を組み立てるにはどうしたらよいか」といった部分までの洞察が可能になる。

freeeが目指す人工知能の導入フェーズ

 経営者の意思決定をサポートするという意味では既存のBIとも比較されるが、BIでは経営のメトリックスをきちんと理解する必要があるが、AIであればスキルや予備知識なしでも利用できる。また、経営者に対するサポートだけではなく、現場の社員、あるいは会計士や税理士などに対しても、人工知能のサポートは有効だという。

「現在の人工知能でできるのは、予測、認識、分類など。数字から文脈を組み立て、数年後にこうなるという提案は、今の技術でもできると思っている。人間が本来やるべき、どれだけリスクをとって、どういったビジョンを持つべきかという判断をサポートする存在を作りたい」(横路氏)

 こうした人工知能の導入はバージョンアップごとに段階的に行なわれ、ユーザーのフィードバックを受けつつ、適用範囲を拡げていく。この流れは、freeeの虎の子の技術である自動仕訳と同じで、人工知能はfreeeのユーザーにとって自然な存在となっていく。現在、freeeの開発チームの約1割が人工知能に携わっており、アルゴリズムの精度向上をミッションにしているという。

 佐々木氏に取材すると、「世の中にインパクトを与えるモノ」というフレーズがたびたび登場する。freeeが注力するのも、まさにインパクトをもたらす人工知能の活用法。そして、それはクラウドの機能強化として、静かに導入されていくようだ。「今の自動化は請求書を作るとか、明細を入れるといった処理を自動化するという意味では型にはまったもの。でも、将来的には条件なしにとにかくfreeeに放り込めば、不正やミスを検知したり、与信スコアを作れるようにしていきたい。最終的なゴールは“人口知能的なCFO”を作ること」と佐々木氏は未来を描く。

■関連サイト

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ