AWSとヴイエムウェアの提携をIBMはどう見る?「IBM World of Watson 2016」レポート
「SoftLayerブランドが消滅」は誤り、IBMクラウド戦略担当VP
2016年11月01日 07時00分更新
IBMは10月24日、同社のIaaSである「IBM SoftLayer」を、PasSである「IBM Bluemix」に統合すると公式ブログ「Bluemix Blog」で公表した。このブログ投稿によれば、今後SoftLayerのアカウントIDはBluemixのIDと統合され、Bluemixのコンソールから一元管理できるようになるという。
この発表を受け、多くのメディアが「SoftLayerブランドは消滅する」と報じた。しかし、IBMのクラウド ストラテジー&ポートフォリオマネジメント担当VPであるドン ボーリア(Don Boulia)氏は、「SoftLayerブランドは継続する」と断言する。
その真意はどこにあるのか。10月24日~27日に米国で開催された「IBM World of Watson 2016(IBM WoW)」の場で、ボーリア氏は日本メディアのグループインタビューに応じた。そこで語られたのは、SoftLayer/Bluemix統合の意図、そして競合他社との明確な差別化戦略だ。
アカウントやコンソールを統合、BluemixからSoftLayerインフラを扱いやすく
――10月24日に公開された「Bluemix Blog」では、SoftLayerはBluemixに統合され、その(SoftLayerという)名称も終了するとある。今後の製品ポートフォリオとその戦略について教えてほしい。
ボーリア氏:まず、現時点で完了していることを説明しよう。Bluemixのカタログに存在するSoftLayerに、インフラストラクチャの可用性を追加した。つまり、Bluemix(のアカウントとコンソール)で、Bluemixだけでなく、インフラストラクチャ(をサービスとして提供する)SoftLayerにもアクセスできるようになったということだ。ただし、「SoftLayer」ブランドは継続し、IaaSとして、これまで同様に(その機能とサービスを)提供していく。
では、なぜ、Bluemixのアカウント(ID)とコンソールで、SoftLayerにアクセスできるようにしたのか。それは、開発者の利便性を考慮したからだ。
PaaSであるBluemixは、開発者がアプリケーションを構築するために利用される。開発者は、効率的にアプリを構築できるサービスやインフラ、プラットフォームなどを、すべて利用したいと願っている。IBMとしては、Bluemixを利用している開発者に対し、(BluemixのアカウントとコンソールでSoftLayerも利用できるという)一貫した経験を提供することが、最適な形だと考えたからだ。
一部には「IBM Could」が「IBM Bluemix」ブランドになると言われているようだが、その認識は間違っている。Bluemixは開発者のためのプラットフォームであり、IBM Couldに包含されるサービスの1つだ。「IBM Could」という言葉は、包括的かつ集約的なものである。IBM Couldの中には、BluemixやSoftLayerだけでなくもWatsonも包含される。
――IBMはPaaSやIaaSの分野において、どのような差別化を図っていく戦略なのか。
ボーリア氏:IBMはPaaS、IaaS、SaaSといったすべての分野においてオファリング(サービス提供)をしている。各分野では個別に競合他社/製品と競争しているが、競争が進むにつれて、PaaS、IaaS、SaaSといった分野ごとの“境界線”がぼやけてきたと考える。こうした考えが、Bluemixにインフラストラクチャ(のサービスであるSoftLayer)を追加した理由でもある。
個々の顧客に対し、それぞれのレイヤーで価値が提供できるユニークなサービスを提供したいというのが、IBMの究極的な目標だ。「価値を提供するユニークなサービス」とは、たとえば医療関連のプラットフォーム「Watson Health Cloud」や、ビジネス向けのブロックチェーンを指す。
Watson Health Cloudは、医療分野という特定業界に特化した機能を提供する、いわば「垂直型(バーティカル)」なサービスだ。一方、ブロックチェーンは、(業界を問わず)財務分野で活用できる「水平展開型(ホリゾンタル)」なサービスといえる。われわれは顧客の課題解決に役立てられるユニークなデータセットやサービスを常に探求しており、こうしたサービス群が差別化ポイントになると考えている。
競合クラウドへの対抗戦略、IBMは「サイズ」よりも「価値」を重視
――10月13日に、AWS(Amazon Web Services)がヴイエムウェアと戦略的パートナーシップを結ぶと発表した。IBMとしてはこの提携をどのように捉えているのか。
ボーリア氏:今年2月の「IBM Interconnect 2016」において、IBMはすでにヴイエムウェアとの戦略的パートナーシップを発表している。さらに、8月にはハイブリッド・クラウドの容易な導入を実現できるよう、この戦略的パートナーシップを拡大した。
現在、(このパートナーシップに基づいて)IBMクラウド上でヴイエムウェアのソフトウェアを稼働している顧客数は約1000社に上る。また、ヴイエムウェア環境をIBMクラウド上に迅速に展開できるよう、IBMもヴイエムウェアも、かなりの投資をしている。
AWSとヴイエムウェアの戦略的パートナーシップ締結というニュースは、IBMが先行して締結したヴイエムウェアとの戦略的パートナーシップが、正しいものであることが実証されたものと考えている。つまり、IBMの顧客であれば、すでにヴイエムウェア環境を利用できるからだ。
――AWSとヴイエムウェアが戦略的パートナーシップ締結することで、オンプレミスにあるシステムをクラウド環境へ移行したいと考えている企業は、AWSを選択しやすくなると考える。これはIBMにとってマイナスになるのではないか。
ボーリア氏:IBMでは、クラウドサービスの提供開始当初からハイブリッド クラウドをサポートしてきた。IBMのクラウド戦略で目指しているのは、顧客がアプリケーションを最適な環境で実行できる選択肢とオプションを提供することだ。
実際、すべてのデータをオンプレミスからクラウドに移行することが、あらゆるユースケースにおいて最適だとは考えていない。大切なのは、オンプレミスであれ、パブリッククラウドであれ、顧客をきちんとサポートできるかどうかだ。その点において、IBMは実績と自信がある。
AWSとヴイエムウェアが戦略的パートナーになったからといって、顧客がすべてのシステムをAWS上に移行したいとは考えないだろう。そうした(AWSのようなパブリッククラウドだけで自社システムを運用するという)潮流が主流になることはない。
――今回のキーノートでIBMは、「顧客がクラウドに求めているのは『低コスト』や『速度』ではなく『価値』である」との見解を示した。では、クラウド分野における「勝利の条件」とは何であると考えているか。
ボーリア氏:顧客はクラウドプラットフォーム上のサービスに「どのような価値があるか」でクラウドを選択すると考えている。その好例がコグニティブサービスの「Watson」だ。またIBMでは、クラウドサービスとして拡張分析ソリューションも提供している。こうしたソリューションと「Watson」を組み合わせることで、顧客は新たなインサイト――つまり「価値」――を得られると考えている。
――つまり、ユーザーの「数」では他社と競争しないということか。
ボーリア氏:その質問にはこう答えよう。われわれは「サイズ」で競争しようとは考えていない。「価値」で競争するのだと。