幕張メッセで「国際次世代農業EXPO」が開催中だ。主役はやはり農薬散布用ドローンだろうか。DJIをはじめ、各社が実機を展示していた。
ただ、特に興味深かったのは、「植物工場」を展示していたパナソニックのブースである。「植物工場」はメリットが多い一方、通常の露地栽培と比べ、採算性を含めベストプラクティスが確立されていない。そのため、各所で赤字問題が叫ばれているのが現状だ。パナソニックのブースでは、その問題を十分に認識した上で「黒字化可能な植物工場」というメッセージを打ち出していた。
植物工場はなぜ赤字に陥るのか。黒字化するにはどうしたらいいのか。その内容を紹介したい。
日本の植物工場はほぼ赤字
まずは植物工場の定義から。パナソニックでは「野菜に最適な環境を屋内に人工的に作り、効率的栽培を行う設備」と説明している。
光・水・酸素・肥料・CO2・温湿度・風などを人工的に制御しながら栽培することで、洗わなくても食べられる低菌かつ均質な野菜を、天候の影響を受けずに安定して生産できる。味(甘い・苦い)や食感(厚い・薄い)を制御したり、“低カリウム”のように機能性も付与できる。
つまりは「農業の工業化」である。
しかしながら、植物工場を適切に運用するためには、「環境制御」「設備設計」「工場運営」のノウハウをバランスよく適用する必要がある。にもかかわらず、そのすべてのノウハウを保有する企業は少ないため、赤字の工場が増えているのだという。
その状況は「とある調査では日本の植物工場の7割が赤字と報告されている。が、それでも控えめなくらいで、実際には9割以上だと確認が取れている。ある人に言わせると、99%が赤字という位ひどい」(同社)らしい。
赤字となる3つの原因
では、赤字となる主な原因は何なのだろうか。同社が挙げたのは「低い栽培効率」「高いランニングコスト」「低い商品品質」の3点だ。
「例えば、棚の上下で最大10℃も温度差があったりする。下は春で、上は夏のような状況で、光ムラで生育も不均質だったり、とても工場と呼べない環境が多い。それなのに省エネ不足による高い消費電力と、自動化遅れによる高い人件費によってランニングコストは高騰。肝心の味についても、蛍光灯で栽培するので熱の影響で味が変化して、植物工場の野菜は二度と使わないというシェフも多い」(同社)
つまりは、栽培効率が低く安定生産ができず、品質も低いのに、ランニングコストはかさむため、日本の植物工場はそのほとんどが赤字になってしまうのだ。
「黒字化可能」な植物工場とは?
では、パナソニックならどのように「黒字化」できるのか。次のように説明する。
「当社では環境制御、設備設計、工場運営すべてのノウハウを社内に保有し、家電事業で培ったノウハウもある。たとえば、ナノイー技術を使うと野菜の生育が促進されることが分かっているが、こうした知見を集約してシステムを設計している。それにより、黒字化が容易なシステムが提案できるようになっている」
パナソニックが提供する植物工場のシステムでは、「歩留まり95%」という高い生産性を実現している。これは、棚の上中下間温度差を1.5℃に抑える特殊な制御技術を開発するなど、工場の隅々まで均質な栽培環境を作り出しているため。「いままでの植物工場ではこの辺りがないがしろにされていた。その課題に気づき、栽培効率を高める技術を磨いてきた」という。
ランニングコストについては、さまざまな工夫により、従来比で半分、蛍光灯型工場と比べると6割削減している。「単純に蛍光灯をLEDに変えただけではない。それだけでは2割の削減にしかならない。それに加えて、光の有効活用や空調最適化などを組み合わせた結果である」
さらに「簡単栽培」を実現している。「栽培ノウハウをソフト化してシステムに組み込むことで、誰でも初日から高品質野菜を栽培できる。いわば栽培ノウハウが不要な植物工場。これができて初めて“農業の工業化”と言える。“ノウハウがなければ作れない”というのでは工業化ではない」
こうした結果、味も飛躍的に向上しているようだ。「赤青LED灯で栽培すると、農業法人社長も驚くほどおいしい野菜ができる。糖度8のイチゴ並に甘いレタスだって作れる。工場野菜はいよいよ美味しさを競う時代。近い将来、子どもたちが3時のおやつにレタスを食べる日もやってくるだろう」
事業を成功させるための条件
さて、こうしたパナソニックの強みを紹介したあと、ブースの説明では「事業化を成功させるための条件」についても言及していた。
事業参入の考え方として、最適なのは「空き工場や空き倉庫を持っている場合」だが、もちろん「空地のみを持っていて建屋はこれから」の場合でも黒字化は可能という。
ただし、黒字化には最低でも、レタス換算で日産約200kgの栽培が必要と指摘する。「これが最低限の投資規模。よく小さく始めたいという声もあるが、それだと間違いなく赤字になる。小さく始めて儲かるほど甘い事業ではない」という。
また、建屋については「天井高5m以上、床面積1000m2以上」が必要とのこと。「これが日産200kgの栽培が可能な広さ」だそうだ。
そして成功のために何より重要だとするのが、野菜の販路だ。「野菜を作ること自体は誰にでもできる。それはパナソニックが保証できるが、問題はいかに売るか。ここが最も重要で、販路のめどが立っていない場合は、決してシステムは販売しない。これ以上、日本に赤字の植物工場を増やす気はない」とまで言い切っている。
こうした条件をクリアすれば、約7~8年で投資回収できるそうだ。販路の出口開拓も含め、黒字化までしっかりサポートするという。
いかがだろうか。あくまでもパナソニックの視点ではあるが、なかなか説得力は高かった。少なくとも現状赤字だらけという植物工場において、今後考えるべき方向性はつかめた気がする。