パナソニックが、農業支援という新たな事業に乗り出した。
「アグリ・エンジニアリング事業」と呼ぶ事業がそれで、市販の農業用資材の最適配置設計と、自然の力を積極的に活用する「パッシブ環境制御システム」を融合。局所環境制御を実現した「パッシブハウス型農業プラント」を開発し、農産物の生産効率の向上と生産者負担の軽減を図れるという。
「気温変化が激しかったり、大雨が増加するなど、昨今の日本国内の環境変化は、農業にとって大きなリスクとなっている。また、高齢化の問題、TPP協定交渉の推進、エネルギー価格の高騰などの課題もある。日本の農家が培ってきたノウハウを活用して、強い農業を復活させるのが狙い。
複数の環境調整用農業資材を自動制御
パナソニックは、長年にわたり人が快適に暮らせるための住まいを提供しており、その実績を生かして農作物が快適に生育できるプラントを提供できないかと考えた。パナソニックが取り組むアグリ・エンジニアリング事業によって、年間を通じて生産の安定化が図られ、市場への安定供給が可能になる上、安心・安全な食べ物を消費者に提供できる」(パナソニック エコソリューションズ社 ハウジングシステム事業部事業部長付 集合住宅事業推進部 役員の柴達也氏)とする。
パナソニックのハウジングシステム事業部が主体となり、販売および施工は、パナソニックES集合住宅エンジニアリングが担当。2012年度から、住友商事や伊藤忠商事が出資する大手青果流通会社のケーアイ・フレッシュアクセスと事業モデル検証を協同で行ってきたほか、今後、パッシブハウス型農業プラントを導入した農家の生産品流通も、ケーアイ・フレッシュアクセスを通じて行うという。
同事業においては、ほうれん草の生育に適した環境を実現するために、パナソニック独自の「トータル環境バランス制御」を採用。自然光、水、風という自然の力を活用する複数の環境調整用農業資材を自動制御するのが特徴。高温で生育が困難な夏を含めて、年間を通じたほうれん草の栽培が可能であるほか、天候による影響が少ないため栽培計画が立てやすいというメリットや、栽培中の手間が大幅に省けるという利点がある。
この技術を生かして、ほうれん草の土耕栽培を対象とした「パッシブハウス型農業プラント」を提供することになる。
ビニールハウス、10億円前後の最先端植物工場のいいとこ取り
「様々な作業に手間がかかるといったビニールハウスなどの従来型施設園芸の課題、また10億円前後する最先端植物工場などの大規模プラントには投資できないという農家の課題を解決することで、双方のいいところ取りをした製品になる。周年栽培と大幅な省人化を実現。出荷期日に合わせた栽培を行うことも可能であり、栽培中の手間が大幅に削減できる」とする。
一般的な植物工場と異なり、エアコンや暖房機を使用しないためエネルギーコストを抑えた栽培が可能で、ハウス外の照度、外気温度、ハウス内の温度および湿度を計測して、カーテンにより遮光したり、送風および散水を制御。季節や時間に合わせて自動的に変更する。たとえば冬場なら、東側を採光のためにカーテンを開け、西側はハウス内の温度を確保するためにカーテンを降ろすといったことが自動的に行える。
「タイマーを使って制御するものはあるが、今回のパッシブハウス型農業プラントは、生育状況と連動した点が特徴。マッサージチェアのアルゴリズムや、ドライヤーの気流生成のノウハウを生かすことで、植物に最適な環境を作り出す」という。